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59 *リアン視点
しおりを挟む「殿下………」
「…………お前、香水被ったんだって?女癖悪いお前にお似合いだな……」
クスクスと、リアンはライナスに笑って見せて揶揄っている、シスリーが居る部屋の前。
「喋ったな!」
「す、すいません!………皇太子殿下が香水臭い、と仰るので、理由を………」
「まぁまぁ、怒ってやるな………どうせ、噂も立つだろ、これだけ彼方此方が香水臭いなら」
「…………風呂、入ったんですが、まだ臭い気がしてなりません………」
ライナスは自分のニオイがまだ落ちていない気がして、腕を嗅いでいる。
「お前らしくないじゃないか」
「聞いたのですよね?」
「まぁな………見たかったぞ」
「ですので、ご注意下さい………また何するか……」
「手を縛ってるんだろ?」
「それが、本人も香水臭く、風呂に入らせろ、と………此方も我慢ならない程、臭かったんですよ………集めているのか、凄い数の香水が混ざったニオイなんで……」
「…………何人か侍女に頼むか……」
「止められた方が良いかと………侍女が怪我しますよ、きっと………流石に殿下に物を投げ付ける事はしないとは思いますが」
扉の前で何人もの男達が、ニオイを嗅いでいるのが滑稽な姿に見える。
「まぁいい………もしそれならそれで、如何とでもなる」
「お怪我でもなさったら大変です」
「お前、俺を馬鹿にしてるのか?ドジはしないさ、お前と違って」
「一気に突入したんで、狭くて避けれなかっただけです!」
「そういう事にしておいてやる」
ライナスは扉を部下に開けさせ、中へと入るがシスリーが居ない。
また入るなり物が投げ付けられる可能性もあり、ライナスが部下数人と先に入った。
「居ないぞ!」
「如何した?」
しかし、シスリーの姿はなく、床に落ちている罪人用の服があるだけだ。
「…………ライナス……」
「はい!」
「風呂場………」
静かにしていると、部屋に常設してある風呂場から、歌声が聞こえる。
香水臭いシスリーと話すのも億劫になると想像出来たライナスは、客間にシスリーを押し込んでいたのだ。
罪人の可能性もあるシスリーではあるが、まだ確定ではない故の、一応の貴族令嬢としての扱われ方だったのが、この状態だ。
「出て来た時、裸だと困りますね………」
「見たくないぞ、阿婆擦れ女の裸なんて………数人、侍女を呼べ。侍女に風呂場から出させ、ソレを着させろ」
「クレイオ殿下から、侍従服を着させたら、と」
侍従服も用意はしていた様だが、リアンはそれを見て下げる命令を下した。
「要らん、贅沢をこれ以上させるな。連れて来られた意味も理解出来ない馬鹿な女だ。歌を歌い長風呂する贅沢さえも腹立たしい」
「ごもっともですね………絶対に俺も嫌です」
慌てて駆け付けて来た侍女が着いても、まだ出ては来ないシスリー。
「悪いが、中の女を風呂場から連れ出してくれ。身体の手入れを要求するなら、そのままで構わん。無理矢理でもソレを着させろ。皇太子を待たせるなとな」
「は、はい!」
リアンは腹立たしく、仁王立ちし腕組みをしてシスリーを待ち構え、ライナスも苛立ちを隠す事もなく控えていた。
『何なの?』
『申し訳ありませんが、直ちに入浴を終了願います』
『あ、丁度良かったわ……皇妃陛下にもなさる様に私も肌の手入れしてくれないかしら』
『申し訳ありませんが、その様な事はお受け出来ません』
『皇太子殿下がお待ちでございます』
『え?皇太子殿下がお見えなの?………じゃあ急いで手入れして頂戴!』
風呂場から我儘を言うシスリーの声が聞こえ、それにはリアンもブチ切れる。
「早く出て来い!ベルゼウスの娘!」
『っ!………殿下だわ!………もう、使えないわねアンタ達!早くしてよ!』
『お手伝い等致しません。貴女様にお手伝いするな、と指示を受けております!ご入浴が終わらないので、お呼び出しするのに私共がやって参っただけですので!』
『ふざけんじゃないわよ!私は皇太子妃になるのよ!』
「…………いい加減にするのはお前だ!早く出ろ!」
かなりのご立腹な様子のリアンに、長く補佐をしていたライナスでさえ、後退りする程に怒鳴るリアンに驚いている。
『ひっ!』
『お願いします、早く此方を着て出て下さい!』
『…………嫌だわ………殿下ったら………そんなに私に会いた…………何よこれ!こんな物、服じゃないわよ!』
服1枚でさえこの態度に、リアンは剣を抜き兼ねない勢いで、ズカズカと風呂場の扉を開けた。
「…………早くしろ、と言ったぞ………この剣にお前の血を吸わせてやろうか?ベルゼウスの娘……」
「殿下!まだ駄目です!怒りを鎮めて下さい!殿下!」
「おい!ベルゼウス伯爵令嬢!早くソレを着ろ!」
「い、嫌よ………こんなの………」
「いいから着てくれ!」
これでは、話が全く進まなくなるのを察したライナスは、直ぐにベルゼウス伯爵邸へ部下を送り、シスリーの服を取りに行かせた。
そして、怒り狂うリアンの怒りを落ち着かせる為、この日は取り調べも出来ないと判断されてしまう。
シスリーの我儘は、客間である場で出来ないと、ライナスとベルイマンが相談し、牢獄へと場所を移した。
そこでも、シスリーの愚痴は続けられ、他の囚人達と離す羽目になってしまい、苦労が絶えない王城での惨事だった。
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