皇太子と結婚したくないので、他を探して下さい【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 ベルゼウス伯爵が見つからないまま、ベルゼウス伯爵領から保護したマスヴェル国の子供達が、一時期孤児院に身を寄せる事になり、ルティアは皇妃と共に、慰問をする事になった。
 馬車の中で、相変わらず厳しい表情の皇妃の向かいに座るルティアは、針のむしろだ。
 幾ら、天邪鬼とリアンから聞いてはいても、話掛けるきっかけが見つからない。

「ルティア嬢」
「は、はい!」
「…………今から向かう孤児院は、皇族が支援している施設です。だからと言って、安心出来る場所ではない事を念頭に置きなさい」
「治安が悪い、という事ですか?」
「…………そうね……良くは無い場所ではあります………ですが、わたくし達皇族は、国の底辺を知る事も重要。孤児院で教育を受けたくなく、逃げ出す子供も居る事案もあり、そういう子供達が、治安を悪くしている、という悪循環も見逃してはなりません。警備隊を配置して犯罪の抑止力にはなってはいますが、完全ではありません。皇妃という立場では平民の立場に立てない、と信用もあまり無い………だからこそ、貴女にもその底辺を知り、貴女なりの改善を考える事を課題とします」
「難しい事ですね………国を守り、安寧を願うのは」
「…………そうですよ……私利私欲を考える皇太子妃であってはならない……ジェスターから貴女の事を聞いた時、ジェスターが選んだからこそ、信用しようと思った………期待を裏切る事は今時点ではありませんが、次世代にこの国が残るよう、ジェスターを支えなさい」
「はい」

 その都度、大切な事を教えてくれる皇妃に、ただルティアは尊敬しか向かない。
 威圧的であろうとも、目指すのは皇妃の様な憧れを抱き始めていたルティア。

「私………皇妃陛下を目標に頑張ります」
「…………わたくしより、上回る心構えでなくてはなりません!」
「っ!………は、はい!い、一旦です!今の私では、足元にも及ばないのですから!」
「そうね…………本当、手の掛かる娘だこと………でも、憎めないから仕方ないわね……」
「ありがとうございます、お義母様」
「っ!…………ジェスターから何か聞いているかは分かりませんが、わたくしは厳しくいきますよ!ルティア!」
「はい!」

 プイッとそっぽを向き、扇を広げた皇妃は可愛らしいと迄、ルティアは見えてきた。

 ---いつか、私もリアンとの間に子供が産まれて、その妃に同じ事を言っていたらいいな…………あ、いやいや……子供はまだ先よ先!

「ところで………貴女達……もう夜を共にしているのでしょう?」
「っ!…………そ、それは………はい……申し訳無い事だとは思っております………」
「…………怒りはしません……結婚式前に、体裁悪く世継ぎが出来るのは、本意ではない事だけは伝えておきます。貴女を王城に迎えたのだから、ジェスターを止めても無理だと分かっていますからね」
「…………そうかもしれません……」
「ですが、翌朝貴女が起きられない程になる迄、ジェスターに許してはなりません!良いですね!」
「ゔっ…………は……い………」
「……………許してるの?」
「こ、拒めないんですっ!」
「……………はぁ……あの子ったら、しようのない事だこと………わたくしから、時折注意しておきます………いずれは貴女も無理なら無理、と拒みなさい!」
「分かりました!」

 まるで体育会系のノリとツッコミで、閨事話はルティアでも、まだ慣れないので返答に困る。

 ---は、早く着いて………この空気………如何すれば良いの………

 そうこうしている内に馬車は停まり、護衛騎士から到着の言葉を掛けられた。

「先に降りなさい」
「ありがとうございます。皇妃陛下」

 騎士のエスコートで降りた孤児院は教会の敷地にある施設だ。
 教会の壁は落書きも多く、あまり良い見栄えではない。
 ルティアがフェリエ侯爵邸に住んでいた時期もこの教会は邸から見えていたが、近く迄来た事は無かった程、治安が良いとはなかなか言い難い場所に建っていた。
 だが、教会の外壁以外はしっかりしている様に見える。

「お待ちしておりました。皇妃陛下、そして次期皇太子妃殿下………この度は、皇太子殿下のご婚約おめでとうございます」
「司祭………また、外壁が汚されてますね」
「そうなのです………何度落としても繰り返され、街の景観を損なわれております……」
「…………あの……いっその事、色鮮やかに絵画の様に塗り直しては如何なんでしょう………綺麗な色で、人の目に触れれば、それだけでも人は集まります。私なら、綺麗な者を見たいと思うので………あ……余計な事を………申し訳ございません」
「…………ルティア………」
「は、はい………差し出がましい事を口にして申し訳ございません!」
「良い案だわ………司祭、如何かしら………」
「確かに…………この様な様々な統一性の無い絵や文字では、汚れの様に見えますが………絵画の様な色合いなら、汚したくないと思って貰えるかもしれません………」
「え…………私の戯言だとは思わないのですか?」
「何を言っているの?貴女は………その絵を描くのは素人にさせると?半分は著名な画家を呼び、半分は孤児達に、とわたくしも考えが出ましたわ」

 何やらあらぬ方向へと飛び火した所で、慰問の意図が変わってしまった様だった。
 治安改善を課題とされたので、思い付きで言ってみただけだったのだが、何故か通りそうで、ルティア自身が驚いた、始めての慰問が始まった。
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