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しおりを挟む「のらりくらり、とよく口も回るものよ、ベルゼウス」
「皇王陛下………誤解から生じ、私は罪を着せられたのです」
「黙れ」
「っ!」
皇王も、静かな怒りを露わにし、ベルゼウス伯爵はビクッと肩を震わした。
「誤解………勘違い………部下の所為……騙された者の所為………1つぐらい、其方は認める事は無いのか」
「…………全て違いますので」
「そうか…………では私は、コートヴァルの王とマスヴェルの王に、確認を取っておったのだが、それも勘違いだと、誤解だと申すのか?」
「…………」
元々何方の国とも国交がある国だ。
皇王からの正式な連絡であれば、誤報である事はまず無いだろう。
「コートヴァルからは、マスヴェルがコートヴァルを滅ぼそうとして、開戦を望んで来た。防衛の為の支援を頼みたい。マスヴェルからも同様の内容で連絡が入っている………その元凶がまさかベルゼウスの差し金だと知ったのは、其方のカジノの調査からではあったが、更に調べれば勝手に武器支援をしておる、と両国の王から感謝の礼の連絡迄来るではないか………シャリーア国は、戦に関する事で武器等の支援は他国でも関与しない………そして、其方が穀物輸出品の中に武器を仕込んでいた、という情報が入ってからは、その第3国で堰き止めておる………今後、両国だけでなく、其方が輸出路に使った経路へ武器を通過させる事は無い……戦も直に終わる様に私の仲裁で治めた」
「っ!」
水面下で皇王は、両国間と話し合っていたのだが、ベルゼウス伯爵が関与している以上、ベルゼウス伯爵を止めるという条件で、仲裁に入ったのだ。
それには先ず証拠集めが最優先され、皇王はリアンに其方を任せていた。
「其方の思い通りにはさせん。其方の陞爵、娘を皇太子妃への望み、私が望まぬ」
「わ、私の苦労が………お前が欲を描きすぎたからだ!シスリー!じわじわと馬鹿な王達を懐柔して戦を仕掛けたのが全て水の泡だ!」
「んんんんんんんんっ!」
「止めろ!ベルゼウス!娘だぞ!」
逆上し、ベルゼウス伯爵は近くに居るシスリーに自身の手錠の鎖を首に巻いて締めようとする。
勿論、寸前で騎士達に止められたベルゼウス伯爵だが、シスリーを庇うように、マーガレットも前に飛び出していた。
「止めて下さい!旦那様!貴方が可愛がっている娘ですよ!」
「可愛いだと?………こんな馬鹿な娘がか!男に媚びて股を開くしか脳がない娘が可愛いものか!それもこれも、娘を皇族に入れる為にしていただけだ!不細工な娘にならぬ様、見目の良いお前と結婚したのも、美人な娘を産ませる為だ!国境の辺境地の領地等………戦が無ければ活躍さえも無い!手柄も立てれん!つまらん人生は御免だ!戦いの場を求めず何が男だ!」
ベルゼウス伯爵は、産まれた国を間違えた、と聞いていた者は誰しも思っただろう。
戦いを望み、野心的な性格は、シャリーア国には合っていなかったのだ。
「旦那様………」
「ベルゼウスを投獄せよ!まだ取り調べたい事もある為、罪状の確定は先とする!」
「ゔゔっ………ゔっ……」
ベルゼウス伯爵の真意を知った、シスリーはマーガレットに抱き締められ、泣きじゃくっていた。
可愛がられた娘だと思っていたのに、罵倒され利用されたのだ、泣かずに居られないのだろう。
「ベルゼウス伯爵令嬢も連れて行け」
「お待ち下さい!シスリーは………シスリーは連れて行かないで下さい!」
「んんんんっ!」
「駄目だ、この娘は男達を誑かし、金を巻き上げた証拠もある………罰は受けさせねばならない」
「皇太子殿下!………お願い申し上げます!如何か………シスリーは、旦那様に利用されただけ………」
「それでもだ」
利用されたからと言って、シスリーがして来た事を白紙にはリアンはしない。
騙された者達の為に、罰は必要なのだ。
「んんんんっ!」
シスリーはマーガレットに向け、手を伸ばして助けて、と叫んでいる様だった。
ベルゼウス伯爵に殺されかけて、マーガレットに依存したのかもしれないが、反省しているのかしていくのかは、まだ見守りが必要に見えた。
「…………ふぅ……」
「お疲れ様でした、ジェスター殿下」
「うん………まだ終わった訳じゃないけど」
「ベルゼウス伯爵は如何なるんですかね、罪を認めている様には見えなかったですが」
「認めてないね………でも、証拠は揃ってるし認めてなくても、戦犯はシャリーア国では死罪なんだ」
「……………でも裁判するんですよね?」
「意味無い裁判ね……もうここ迄さらけ出して、恩赦する意見は出ないと思う………死罪にならなくても、一生牢獄になるよ」
「産まれた国を間違えましたね、ベルゼウス伯爵は」
「ティアもそう思った?」
「はい」
「…………証拠突き付けて、またしらばっくれるだろうなぁ」
リアンは頭上で手を組み、天井を仰いで呟いた。
「お疲れ様でございました、皇太子殿下」
「ヴィクセル公爵…………貴方もご苦労様だったね」
「お見事でしたよ、殿下」
ベルイマンの父、ヴィクセル公爵がリアンに話し掛けて来た。
「父上に持って行かれたけど?」
「この国の統治者ですよ?殿下とは権限が違います」
「面倒な事を押し付けて、自分は両国の和平交渉してるんだから、手柄奪われたって思うだろ」
「はははっ………殿下の手柄無くして、陛下は動いておりませんよ………書類の暗号化や、採掘所の子供達………殿下の采配でございます」
「…………暗号を解いたのはルティアの兄上で、俺の手柄じゃない」
「欲しいですなぁ………殿下の補佐官に」
「だろ?そう思うよな!でもスヴェン卿は断って来たんだ!」
「欲張りは父上譲りですな………まぁ、諦めた方が宜しいかと…………では………」
何か思わせ振りなヴィクセル公爵に、リアンとルティアは頭を傾げた。
「何だ?あの最後の言葉………」
「さぁ………分かりません」
その意味が分かるのは、そう長い未来ではない。
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