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恋愛開始
敷居が高い場所
しおりを挟む翌日、裕司は白河家に足を運んだ。
アポイントは無いが、紗耶香の父に謝罪を再びするつもりだった。事前に元同僚に確認を取り、屋敷には入らず門扉に立つ。
―――如何なるか分かんねぇけど…這いつくばってみせる!
見覚えのある屋敷には、紗耶香の祖父も居るだろう。退任してからは紗耶香の祖父の話は聞いた事は無い裕司だが、紗耶香の表情から祖父への恐怖心があるならば、庇う気は持ち合わせている。
「小松」
「………はい」
「社長はもう暫くしたら帰ってくると連絡が入った」
「ありがとうございます」
裕司はネクタイを締め直す。昨日紗耶香が置いて行った必要書類も全て記入を済まして持参し待ち構えていると、見慣れた車が到着した。
「社長、小松の姿が」
「………裕司?………屋敷に入れてやってくれ」
「分かりました」
車の中で、紗耶香の父は指示を出すと、門扉の護衛から、中に入る様に言われて敷地内に入る。
「裕司」
「………ご無沙汰しています、社長」
裕司は一礼し挨拶をした。
「紗耶香から受け取ったかな?」
「はい………社長の恩赦には感謝しています」
「中に入ろうか」
「いえ………俺には敷居が高いので……」
紗耶香の父は、足を止める。
「それを恩赦と言うか……礼を言うのは私の方なのだがな」
「………いえ……俺は白河前会長に拾われた立場なのに、恩を仇で返しましたから」
「ワンマンの父に背けられなかった私が弱かったから、紗耶香と君がやってくれた……それでいい…………その礼なんだよ、君の再就職先は」
「…………俺で、お役に立てるなら……紗耶香様のサポートをさせて頂きます」
紗耶香の父は溜息を吐く。
「頭を上げなさい………まぁ、入れ……折行って話がある」
「…………はい」
書斎に連れて行かれた裕司。
紗耶香の父はソファに座るが、裕司は座ろうともしない。
「…………座りなさい」
「………いえ、俺はここで……」
「…………父の様にはなる気はないのだがね」
「それは思っていませんので」
「そうかい?」
威厳のあった紗耶香の祖父を反面教師にしているぐらい、柔らかな印象の紗耶香の父。頑なに座らない裕司に折れ、紗耶香の父は話を始めた。
「紗耶香には会社を継いで欲しいと思っている」
「はい」
「君は、紗耶香のお目付け役をずっと続けるつもりか?」
「…………っ!」
「紗耶香は君に惚れている………気が付いていないとは言わせない」
「……………はい……」
裕司は返事しか言えない。緊張感が漂う書斎に裕司は冷や汗が止まらなかった。
「考えた事はないか?………速水物産の律也氏と紗耶香を結婚させようと父が目論んだ時、君はどう思った?」
「………それは……」
「こう見ても私は紗耶香の父だ……君は護衛として紗耶香の傍に居て、紗耶香と2人で居る時を見ていれば自ずと分かるんだよ……君の気持ちもね………」
「…………申し訳ありません……」
「…………紗耶香宛に見合い話も多数来ていてね」
「っ!」
探り探り、紗耶香の父は裕司に語るが目は裕司を見逃さない。
その裕司は、握り拳に力が入る。
「君は………指を咥えて見てるのかい?紗耶香が他の男と結婚し、婿養子に迎える相手と共に紗耶香のサポート役として……」
「…………お、俺は……」
「君に再就職を促したのは、サポート役に徹する覚悟があるかどうか、という話だ………出来ないなら君なら如何する?紗耶香の後ろでサポートを続けるか、横で同じ目線と立場に這い上がってくるか………どっちかな?」
「……………覚悟を今しろと言うんですか?」
「そうだ…………後ろに立つなら、今から紗耶香の夫を探す……横に立つなら、勉強をしてもらう………私は君の根性をかってるんだよ……挫折を繰り返し闇から這い上がって来ようとする根性をね」
「……………俺に……俺が横に立てるんでしょうか……」
「出来るか如何かは君次第じゃないか?………紗耶香は頑固だし………君さえその意思があるなら、親である私が折れた方が、平和になる……親らしい事が出来なかった私が少しでも娘から感謝されるなら、君の前科は目を瞑る。理由は調べているからね」
裕司の目に力が入る。
「…………俺なりに頑張らせて頂きます」
「………頼んだよ………先ずは紗耶香の傍で経営のノウハウを学んでくれ……必要なら教師も付けよう…………それと、君が店長だったバーはもうオープン出来るから、そっちも引き続きたのんだよ」
「はい!」
一介のバーテンダーが何処まで出来るか分からないが、裕司の戦いが新しく始まった。
「早速、バーに行ってきます」
「うん………紗耶香に準備はさせているから」
「紗耶香様はそこに?」
「居ると思うがね」
裕司が白河家を出ると、タクシーを拾い繁華街の中にあるバーへと急いだ。
―――昨日の事があるから、紗耶香に会うのは気まずいな……
バーに着くと、紗耶香がバーのスタッフとミーティングをしていた。裕司の下に居た物達だった。
「裕司さん!戻って来てくれたんですね!」
「悪かったな………休業にしちまって」
「ホントですよ、その分バイト代弾んで下さいね」
「それはオーナーに言えよ……遅れて申し訳ありません、オーナー」
「遅れて来るのは連絡あったから」
裕司は店に入ると、スーツのジャケットを脱ぎ、腕まくりしてミーティングの場に入る。制服等はバイトしかなく、スーツが裕司の仕事着だ。
「はい、一応今日来られるお客様……休業期間終えたのお知らせしたら来て頂ける、て」
「…………了解」
「裕司」
「ん?」
「店終わったら話出来る?」
「俺はいつでも………覚悟したからな……」
「覚悟?」
「…………あぁ」
紗耶香には伝わってはいないのか、首を傾げていた。
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