【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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快気祝い

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 週末、紗耶香と裕司は割烹料亭おさないに行った。

「いらっしゃいませ」
「2人だけど、空いてる?」
「はい、奥のカウンターへどうぞ」
「羽美か?」

 裕司が羽美に会ったのは10年以上前だ。身辺調査の中には羽美の写真はあったが、見違えて少女から1人の女性になっていた。

「………え?」
「久しぶり、裕司だが覚えてないか?」
「裕司さん?………お兄ちゃん!裕司さん!」
「は?………裕司?……おぉ~、嬢さんも一緒か」

 調理場からひょっこり顔を出した航。カウンター内に航の父と居る男の横に立った航が、わだかまりも全く無く、迎え入れてくれる。
 紗耶香も裕司の後から顔を出して、会釈した。

「紗耶香さん?」
「ご無沙汰してます、律也さん、羽美さん」

 紗耶香が航の横に居る男を知っていた様子で、裕司もその男が、羽美の夫であり、紗耶香が狙っていた男だと知る。

「航が退院した、て知って快気祝いにやって来てやったぜ」
「快気祝いな訳ねぇじゃねぇか、通院だけになったから、扱き使われてんだよ、親父に」
「よく言うわ、裕司さん違うんですよ、腕鈍らせたくないから、藻掻いてるだけです」
「だろうと思った」
「うっせ……食ってけよ、裕司」
「当たり前だろ」

 羽美は裕司が何故紗耶香と居るのか不思議そうな顔をしていた。

「羽美、不思議そうだな……俺は今コイツの下で働いてる」
「…………あ、そうなんだ……じゃあ白河酒造に?」
「そういう事だ」
「あ、あの……小山内家の方々全員に謝罪したくて………ご迷惑かとは思いましたが……」

 紗耶香は、航や羽美の両親にも頭を下げた。

「食べてって下さいな……さ、何を飲まれます?………裕司君、元気そうで良かったわ」
「………おばさん……」
「そうだ、裕司……心配したんだぞ……やり方には怒りが増したがな……」
「お、おじさん……すいません……」

 裕司は察する。航の腕を折ったのは裕司だと、と。だが、航の父はそれ以上言わず、調理に勤しんでいた。

「ねぇ、これ何?」
「俺が知るか」
「それは煮こごりです……寒天で食材を冷やし固めたんですよ」
「律也さん、お料理にも詳しいんですね」

 航がギブスで包丁が握れないので、律也が手伝いに来ていると、航が紗耶香と裕司に話していた。

「趣味なんで」
「料理作った事ないわ、私」
「紗耶香は作れねぇだろうな」
「………裕司は作れるの?」
「簡単なもんならな………こんな凝った物は作れねぇが」
「…………私が作ったら食べてくれる?」

 隣に座る裕司の顔を覗く様に見る紗耶香。

「胃薬用意しとくわ」
「ひ、酷い………」
「クッ………」

 この紗耶香と裕司のやり取りを見ていた羽美と律也は、紗耶香が裕司の事が好きだと分かる。そして、裕司も少なからず紗耶香へ好意があるのを知った。

「じゃあな、航、羽美」
「おぅ、また来いよ」
「裕司さん、紗耶香さん、ありがとうございました」
「…………羽美」
「ん?」

 裕司は羽美の頭を撫でる。

「裕司!」

 それに航が反応するが、裕司はお構いなしだ。

「羽美、幸せになれよ……こんな兄貴の妹で苦労したろうが」
「ふふふ……私、充分幸せよ……お兄ちゃんは私の為にやってくれた事だと思ってるし……少々、度が過ぎてる事あるけど、何よりもお兄ちゃんが律也さんを認めてくれた事が嬉しいの………裕司さんも、こんなお兄ちゃんと親友で居てくれてありがとう……会えて良かった…………紗耶香さん、裕司さんをお願いします……無茶するから裕司さん」
「羽美さん…………あ、あの……」

 紗耶香は、裕司と親しく出来る存在を羨ましく思っていた。今の羽美の話は、裕司の過去を知る存在で、性格も理解しているからだ。これからも裕司との付き合いで悩み行き詰まると思われる。そんな時に話が出来る存在が欲しかった。

「はい」
「また会えますか?」
「………え?……はい」
「コイツ…………友達居ねぇからよ……なってやってくれね?」
「あ……そういう事ね……はい、友達になりましょ」
「ありがとう、羽美さん」

 連絡先を交換する紗耶香と羽美を、微笑ましく裕司は見ていた。

「曰く付きの関係だったのにな……」
「いいんじゃね?……紗耶香にお前らの事隠してたの俺だからこんな形になったがな」

 裕司が酒を飲んだ為、車を呼んだのだが、遅れていたのか出来た時間。穏やかに羽美や航と話せる紗耶香を見て、裕司は安堵を見せた。
 タクシーが到着し、紗耶香と裕司が乗ると、紗耶香がムスっとした表情をしている。

「如何した?」
「羽美さんの頭撫でた」
「あぁ………羽美は妹みたいなもんだ……恋愛感情なんてまるっきりなかったぞ」
「そうなの?」
「寧ろあったのは彬良の方………高校の時、彬良は羽美と付き合ってたからな……航の妨害で別れたが」
「…………皆バラバラで会ってるけど、3人で会わないの?」
「そうだな………10年以上3人で会ってないな」

 紗耶香は、3人の関係を分からない。それぞれ仲が良いのに、一緒に会わないのは何故なのか。

「何で会わないの?3人で」
「…………会わなくても存在感あるからな……航も彬良も……高校で族に入っててよ……彬良が頭張ってて、俺と航が彬良の右腕、左腕だったのさ……航が真面目に料理人になりたい、て言い出して、俺達はちょっと揉めてな………彬良は、俺と航の間に入ってくれる事が多くなってったから……それからあんまり関係は変わってねぇな……彬良が会おう、て言えば3人で会うとは思う………俺が彬良に航に会え、て言っても彬良は航に会わなかったろ?」
「…………そういえば……」
「多分、彬良は俺と航が前の様な関係になるのを待ってるんじゃねぇかと思ってる」
「まだ違う、て言うの?」
「………さぁ?……彬良も今それどころじゃないかもな……好きな女出来たみたいだし」

 いつか、裕司を航と彬良3人で会わせてあげたい、と紗耶香は思い、手を後部座席に手を置き、片手に顎を乗せ、車窓を見ている裕司の手にそっと重ねた。

「…………ん?」
「……手、繋ぎたいな……って」
「……………繋ぐならだろ」
「!」

 裕司が紗耶香に向き、紗耶香の指を絡ませ握り直す裕司。少しずつ縮まっていく距離がくすぐったかった紗耶香だった。
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