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恋愛開始
遠慮無く
しおりを挟む紗耶香の父が動いたのは早かった。
早々に裕司の母、理佳が脅迫文を紗耶香に送った事により、書類送検された。
理佳は罰せられる事になったのである。
SNSの誹謗中傷を利用し、それについて脅迫文を送って来た者もいたのだが、晒し首にされた理佳により、他からの脅迫文はピタリと止まる事になる。
優馬が誹謗中傷を書いたSNSの原案は削除はされ、拡散は止まらないが脅迫文の事もあり、拡散も緩やかに収束に向かって行くのも早かった。
「あぁ……この店か」
「うん………バリスタとして働いてる」
紗耶香と裕司が、優馬の働くカフェに足を運んだ。
「さて、遠慮無く優馬を懲らしめるか」
「喧嘩は駄目だからね、暴力も」
「店だぞ?するかよ」
「前科あるもん」
「あれは………まぁ………忘れろ」
「しません」
「……………入るぞ」
「あ、待ってよ」
裕司が先に入ろうとし、後から追い掛ける紗耶香。しかし、裕司は立ち止まり、紗耶香の腰を抱き寄せる。
「!」
「今日はデート」
「仕事中でしょ!」
「サボッてんじゃん」
「ゔっ………」
お互い、外回りと称し、カフェに来ている。
「いらっしゃいませ」
「…………エスプレッソダブルとアールグレイとレモンパイ1つな………優馬、作ってくれ」
カウンター内で別のスタッフが目の前に居るにも関わらず、離れた場所に居た優馬を名指しする裕司。
「え!………あ、あの……」
「オーナー?……えっと…………さ、佐原君……お願い」
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「こ、小松さんの弟なんですか?え?………に、似てる!」
店舗スタッフには驚く事ばかりだ。紗耶香の腰を抱き寄せる裕司が優馬の兄だと名乗るのだ。何を突っ込んでいいか分からない。
「早く用意しろよ、優馬………後控えてるだろ?エスプレッソダブル、アールグレイ、レモンパイな」
「か、畏まりました」
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「な!裕司!」
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優馬が先日裕司に電話した番号は、繋がらなかった。解約したのか分からない。
「まだ休憩に入りませんよ」
「…………しろ……」
「っ!………さ、佐原君………これ出したら休憩して………」
「裕司!」
「今日だけだって………後はコイツ次第………だろ?優馬」
「くっ!…………昔からそうだ……兄さんはそうやって威圧的で、如何とでも人が動くと思ってる!そんなだから、あんなに敵が多かったんじゃないか!」
「…………ここには俺の敵は居ねぇぞ、優馬………仲間だ………店舗スタッフもな………紗耶香がボス、俺はサポート……お前は仲間」
「…………え?」
威圧的になったのは一瞬だけで、優馬以外はただ裕司に怯える優馬を心配するスタッフしか居ない。
「そんなにお兄さん怖いんだ、佐原君」
「勘違いされやすいもんね、小松さん」
「優しいのにね」
「うんうん、いい人だよね」
「ほら、早くくれ、優馬………喉乾いてんだよ」
「…………あ………うん……どうぞ……お待たせしました」
トレイに乗せられた物を紗耶香が取ろうとすると、裕司が奪う。
「火傷させたくねぇから俺が持つ」
「これぐらい持てるよ!」
腰を抱き寄せられているから、片手が空かない裕司なのに、紗耶香に持たせたくない様子を見た女性スタッフや女性客。
「う、羨ましい……何あの甘々」
「店長!小松さん、オーナーと付き合ってるのって本当なんですね!」
「皆………仕事戻って………佐原君は休憩ね」
「何でそこ迄………」
「いいから……小松さんには世話になってんだよ………行った行った」
「…………」
優馬の記憶とは違う兄の姿。仕方なく休憩に入り、着替えて紗耶香と裕司の居るテーブルに行くと、1つのレモンパイを食べさせあっている紗耶香と裕司がそこに居た。
しかも、紗耶香は恥ずかしそうにはしているが、ノリノリであったのが優馬には腹立たしい。
「来たけど………イチャイチャすんの止めてくれない?気持ち悪いんだけど」
4人掛けのテーブルに、横並びで座る紗耶香と裕司の前に座る優馬。紗耶香を口説くと言いつつ、座ったのは裕司の前だ。
「羨ましいか?」
「気持ち悪いだけだ………兄さんの恋愛経験暴露してやろうか?オーナーに」
「知ってますよ」
「知ってるよな………コイツ、俺が他の女とヤってんのも覗いてたし」
「…………は?……こんな奴なの……」
「ははははははっ!」
蒼白になる優馬に、裕司はケラケラと面白い物を見た顔で笑う。
「………え……兄さんが笑ってる……」
「俺だって笑うが」
紗耶香に言いたい事もありそうな顔をしたのに、裕司が笑っていたから、裕司に驚き過ぎて、紗耶香への言葉を止めたのだ。
「お前は、俺の何見てきたよ」
「…………え?……冷酷さと威圧的態度……」
「敵にはな……」
「父さんや母さんにもそうだったじゃないか!」
「親父とお袋は敵だったからな」
「敵じゃないだろ!親だ!」
「俺には敵………親父は今は敵じゃねぇ………敵と見なした奴は、俺は容赦しねぇ………仲間と思ったら全力で守る」
竹を割った両極端の言い分の裕司に呆れる優馬。
親が離婚し、理佳に付いた優馬が、今は理佳に困り果てているのに、優馬は理佳を放ってはおけなかった。
親だから、と優馬は借金だらけになった理佳の金銭的援助に疲れ果てていた。優馬の借金は全て理佳の借金だった。理佳はもう何処からも借り入れ出来ず、優馬の名前で借金迄作っている。
優馬の目の治療費ではない。
「…………それだけで、決められる事なんてないじゃないか………」
「…………まぁな……だが、俺は学がねぇからその方法しか知らん………ごちゃごちゃ考えて動いて、チャンス逃すのはやりたくねぇんだよ………親友の夢の為に邪魔者は排除するし、大事なもん守る為に、恩がある人迄排除した………後悔してる事あるなら、優馬お前の事だけだ」
「っ!………俺の目の事言ってんの?」
「…………そうだ」
裕司はそう言うと、裕司はスーツの中に手を入れると、封筒を取り出して優馬に突き付けた。
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