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しおりを挟むホテル内の日本料理店での見合いと聞き、麗禾は麗子と数人の組員に連れられて入店したのが、着替えてから直ぐだった。
他の客も多い中、着物姿のスタッフに案内された座敷は、建物の中だというのに、日本庭園が見える部屋だ。
「余計な事、口走るんじゃないよ、麗禾」
「余計な事って何?私はこの見合いに不服です、て言うのが余計な事?」
「余計な事よ、分かったわね」
「…………」
不服も言えない空気にもさせられそうで、益々足取りが重いのに、ただ案内に付いて歩きを進めるしか出来ない。
「ね、ねぇ………何で支配人が来てるの?査察?」
「違うみたい………食事もする、て社長と貴船の部屋へ入って行ったよ」
「お喋りは慎みなさい!………今、貴船にお連れ様もご到着されたから、接客に行くわよ!」
パントリーから漏れたスタッフの声に、麗禾の眉がピクッ、と上がる。
---貴船、てさっき入口で、私達を案内する、て話てた………え?………支配人と社長……って………このホテルのオーナーなの?極道じゃない?
極道に嫁がされないのなら、それだけで麗禾にとっては幸運なのだが、両親の思惑に疑問が残る。
「此方のお部屋でございます…………お連れ様がお見えになられました」
草履を脱ぎ、着物の裾に気を付けて、座敷に上がると、襖が開けられる。
そこには父親と向かい合わせて、先に酒を酌み交わす、中年の男と日本庭園に身体を向けている背の高い男。後姿からではどんな風貌かは分からない。
「麗子、麗禾、待ちくたびれたから、先にやってたぞ」
「ごめんなさいね………黒龍社長、ご無沙汰しております………晄さんも、暫く振りです」
「堅苦しい挨拶は抜きにしようや、神崎の………酒を追加で頼む」
「…………はい」
見合いの場での緊張感等、両親やホテルの社長には無い様で、元々の顔見知りらしい。
「麗禾も座れ」
「…………はい……お父さん」
「おい、晄も始めるぞ」
「分かってますよ、親父………その柄、良くお似合いだ」
「っ!」
座椅子に慎重な面持ちで座り掛けた麗禾に、晄は声を掛け、トスンと胡座をかき座った。目の前に向かい合わせて座る事で、一気に緊張が走る麗禾だが、顔は見られない。
「何、この娘………あれ程嫌がってたのに、晄さん見て、好感触かしらね」
「そうなのか?麗禾」
「違います………人見知りです」
「神崎の姐さんに似て、別嬪だ………神崎の組長」
「顔だけは麗子に似とるんで………この器量なら、黒龍の若頭ぐらいの男じゃなきゃ、見栄えせんでしょう」
「っ!」
今、極道が使う言葉が飛び交った。若頭と言われたら、一般人では無いと分かってしまう。
「親父、神崎の頭………麗禾嬢に、俺達2人が極道だとは言ってないので?」
「あはは………まぁな……コイツは極道の娘に産まれながら、親の仕事が気に食わないらしくてな………極道とは一線置きたいらしい………見合いも尽く避けるんで、今日この時迄、見合いだなんて言ってもおらん」
麗禾の父は、麗禾がこの場に居る事で上機嫌の様だ。
「……………へぇ……」
晄の手は、徳利から猪口に酒を注ぎ、口元に運んでいた。その手の影から覗く、眼光鋭い目は、麗禾を品定めしているかの様だった。
「麗禾嬢は極道の世界が嫌か………今時の娘はそうなのか?晄」
「知りませんよ………俺は、親父の跡目を継ぐ事は決まった世界でしか生きていませんでしたから………血生臭さが嫌いなのは女ならあるのでは?………姐さんだってそうなんじゃないんです?」
「私?…………さぁ……私も血生臭い世界で育ったから、この娘の考えは分からないわね」
1人だけ、異質な存在感の麗禾は、会話に入れる気がしなかった。
ただ、出される料理をつまみ、酔っ払いの中年達の言葉に頷くだけだ。
「神崎組と青葉会の小競り合いも長いな」
---青葉………会……昔からよく話が出てた……私の護衛も、青葉会から守る為に、て強化されてきたっけ……
麗禾が幼少期の頃から、青葉会という極道が縄張り争いを仕掛けてきていた。抗争になる前に、青葉会の方が逃げるので、大層な争いにはなってはいないが、些細な揉め事は時々起きるのだ。
「神崎の頭………その事で、俺から提案があります。聞いて頂けますか?」
「若頭、何だね?娘婿の君の提案なら喜んで聞こうじゃないか」
「…………誰が娘婿よ……私は結婚するなんて言ってないわ………」
「…………フッ………」
西京焼きを一口含み、ボソッと呟いた言葉に、晄から失笑が漏れたが、晄は話を続けた。
「神崎組のお嬢の護衛に、俺の部下を付けさせて貰いますよ………青葉会も、黒龍組の組員がお嬢の傍に居れば、容易にお嬢には近付けないでしょう………護衛をお任せ下さいませんか?そうすれば、青葉会の方に神崎組は全力投球出来ますよね?勿論、青葉会との戦争をおっ始めるなら、俺達も参加しますが」
「……………え……」
「おぉ!それは有り難い!そうさせて貰いますよ!若頭………良いな、麗子も」
「えぇ!勿論!麗禾、旦那様になる人に、もう守って貰えるなんて、ラッキーじゃないの」
「要りません!護衛なんて!…………第一、朔也が私のボディーガードよ!朔也だって何と言うか………」
黒龍組からの護衛をされる事になれば、益々この結婚話が進んでしまう。冗談ではないのだ。
「朔也なんざ、如何とでもなる………アイツも青葉会との抗争の兵に入れてやらにゃならん。アイツの腕はそこそこ役に立つ。強いからお前の護衛に付けさせたんだ。それが黒龍組のもっと精鋭組員に任せられるなら、これ程安心出来る話はない」
「嫌よ!…………騙してここ迄連れて来させて、見合いさせられて………結婚話迄……私の意思は聞いてもくれないの!お父さん!お母さん!」
「……………麗禾……」
「っ!」
持っていた猪口を、今でも投げてきそうな眼光の両親から、麗禾は睨み付けられていた。
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