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しおりを挟む見合いは終わりを迎え、着替えに麗禾と麗子、そして晄も何故か着替えた場所のスイートルームに向かっていた。
ホテル内で組員がぞろぞろと連なり歩かせられないので、神崎組の組員はスイートルームに待機している。
「姐さん、今夜からお嬢の護衛は我々に任せて頂きます」
「えぇ、お願いするわ」
「お母さん!本当にそれは止めて貰って!」
「アンタの意見で決められないのよ」
「っ!」
何度か懇願してはみたが、朔也の生命を天秤に掛けられる事もあり、結局お願いしても変わらない。
「信用してくれないか?俺達は青葉会のもんとは繋がりはないんだけどな」
「そんな事…………あっても無くても、私はそこはどっちだって良いんです」
神崎組でなくとも、極道と関わりたくないだけなのだ。頼むから、これ以上自分を極道の世界に入れようとしないで欲しい、と思っている。
「晄さん、この娘我儘なのよ。何不自由無く生きていられるのに、物欲も欲求も無いの………何が不満だってのよ。好き勝手出来る世界に居るってのによ?」
「…………まぁ、分からないんでしょう……闇の中での世界の楽しみ、てのを」
知りたくもないし、知ろうとも思わない。
話が通じない相手と話す事も無駄になる事は、麗禾は良く分かっている。
「どうぞ」
「ありがとう」
「……………っ!」
スイートルームのある階に、エレベーターが止まると、廊下には明らかに極道の雰囲気を醸し出した男達。
「この階の出入りは、黒龍組の者で抑えています。室内の神崎組の組員達にはまだ説明しないとなりませんし、それは姐さんに頼みますよ」
「そうね、大丈夫よ………少々、厄介な子が居るから、騒ぎにならない様にしてくれて助かったわ」
「っ!…………お母さん!朔也に手を挙げないでよ!」
「素直に応じるなら何もしないわよ。だから、朔也は出入りさせるな、て言っておいたのに、アンタが連れて来るから………」
「っ!」
こうなる事が分かっていたから、朔也をホテル内に入れない様に話していたのか、と理解した。
朔也は恐らく、不満をぶちまけるだろう。
よくおちゃらける青年で、格闘家を目指していたが、10代の頃に喧嘩を繰り返していた事もあり、暴走族に入り少年院に迄入った所で、神崎からスカウトが来て、今に至る。喧嘩早く、格闘家を目指していただけあり、至近距離の攻撃や防御には組員の中でも強い方だ。
此処で争う事は、何が何でも止めなければならない。
スイートルームに戻って来ると、出迎えたのは朔也だった。
「お帰りなさい、お嬢!本当に今日可愛いっすよね…………っと……え………だ、誰っすか?」
麗子から入室し、麗禾の後に立つ晄を見て、朔也は動きを止めた。
それは、一瞬にして警戒心。逆立つ毛が朔也の背から見えた気がした。それはそうだろう、廊下には極道の男達が立っているのだから。
「このホテルの支配人の方…………良いから中に入るわよ、朔也」
「麗禾、付け加えなきゃ駄目じゃない………婚約者ってね」
「お、お母さん!私はまだ………」
「お嬢!何すか!そんな話、俺聞いてないっす!」
「……………朔也、黙ってて………とりあえず、話するから、貴方も聞いて…………あと、落ち着いてくれるかしら」
「……………へ、へい……」
寝耳に水だろう、この結婚話。麗禾でさえそうなのだから、他の組員達も驚くと思っていた。
しかし、朔也以外は平然としていて、逆に麗禾は驚きを隠せない。
「お嬢、ご婚約おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「……………知らなかったの朔也………だけ?とかじゃないわよね、お母さん………」
「いやぁねぇ………朔也にもちゃんと帰ってから言うつもりだったわよ?騒ぐと思ってたからね………先に言えば、アンタ阻止させようとするだろうし、朔也にバラすと、絶対にアンタに漏らすと思って」
「姐さん、酷いっす………俺だけ除け者て……チクる、てあながち間違っちゃいねぇと思うけどよ…………」
流石母親、麗禾をよく知っている。
「其処でね………朔也………アンタには麗禾の護衛を下りて貰うわ」
「…………へ?………お嬢の護衛………俺、外れたら青葉会から、誰がお嬢を守るんっすか!」
「それは、俺達………黒龍組が守る」
「…………こ、黒龍………あ、アンタ………やっぱり黒龍組……若頭………の………」
朔也は極道の世界に入ってまだ数えられる年だったが、晄の事は知っている様だった。
「そう…………俺は黒龍晄………黒龍組若頭だ……アンタのお嬢の婚約者になった………宜しく………」
「っ!」
晄の宜しく、と言う声に棘があった。
朔也の麗禾へ対する言動からの牽制なのかもしれないが、そもそも麗禾と晄は初対面の筈で、極道の晄が一目惚れを麗禾にした、とは言い辛い。
麗禾自身、晄と婚約した覚えも無いので、麗禾は出来得る限りに、晄を睨んだ。睨んで殴られようとも、麗禾には後悔は無い。
「…………それで睨み切らしてるつもりか?………チワワみたいだな、お前」
「っ!………さ、触らないで!」
麗禾は隣に居た晄に、睨み上げた際に顎を持ち上げられ、近距離に顔を近付けて来る。
「俺はお前の夫になる男だ………触って何が悪い……」
「私は………認めてないし、婚約した覚えなんて無いです!」
今にでも、唇が重なり合いそうで、晄から煙草とフレグランス、そして先程迄飲んでいた日本酒のニオイを漂わせ、麗禾をクラクラさせた。
決して、晄に好意を持った訳ではない。ただ、ニオイだけで頭がクラクラするだけだった。
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