暗闇の麗しき世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

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「お嬢!」

 晄を麗禾から離そうと、割って入って来ようとする朔也だったが、直ぐに晄は手を離した。

「何も、今直ぐに食うつもりは無い………朔也と言ったな………麗禾が俺と結婚しちまえば、お前は俺に楯突く事になる………組の命令に逆らうのなら、俺と殺り合うか?」
「朔也!…………お願い………引いて……」

 まだ、結婚は正式なものではないが、朔也の方が分が悪い。紳士的では無いが、一線は越えていない晄の方が、既に立場は上だ。
 組織規模で大きな組である黒龍組。傘下になるのかは分からないが、晄は黒龍組の跡目であるだろうし、その晄から麗禾は青葉会から守られる存在になるなら、麗禾は黒龍組に嫁ぐ事になるだろう。そうなれば、自ずと神崎組は黒龍組の傘下になってしまう。

「お、お嬢…………」
「……………黒龍さん……私に触らないで下さい………結婚の承諾もしていませんし、私は極道が嫌いなんです………でも、護衛をしてくれている朔也や組員達は家族と同様………彼等を傷付けるなら、私はこの場で舌を噛んで死にます。無事に此処から帰らせて下さい」
「フッ…………なかなか肝が座ってやがる………朔也、それ以上近付くなよ………神崎組のバックには黒龍が付く、て大事な時期だ………青葉会との抗争を助けてやれるのに、お前が俺に手を出しゃ…………分かるよな?」
「っ!……………す、すいません……黒龍の若頭……」

 朔也が只のだったのだと分かる。
 組織の規模も違えば、その力や晄の威圧感も朔也と比較にもならない。

「麗禾、着替え終わったら家迄送ってやる。これからはお前は黒龍組の若頭のになるという自覚を持って貰うからな………1人で暮らすマンションから大学迄の送迎、その他外出、マンションの警護は黒龍組に任せておけ」
「……………い、要らないと………言いました……朔也が護衛で不服なら、私は1人で良いんで………」
「分かってないな…………青葉会にお前が攫われでもしたら、抗争が激化する、て事ぐらい分かるだろ」
「っ!」

 いつまでも小競り合いを続けられても困る。
 少しでも、麗禾を取り巻く極道の気配を消し去ってしまいたいのは、麗禾も同じだ。その弱点になる麗禾が無事であるならば、それだけで両親や神崎組の組員達も組を守りやすい。

「馬鹿じゃない様だな…………姐さんは神崎の頭と此方にお泊りでしたよね?」
「えぇ、夫と泊まるわ………麗禾は帰りなさい」
「……………帰るわよ………この着物は如何するの?」
「それは、こっちで預かっておいてあげる………アンタの済むマンションじゃ、和箪笥無いでしょ」
「私の着物でも、お母さんの着物でも無いでしょ?」
「それは、俺からお前に贈った物だ」
「西陣ですよね、これ………戴けません」
「返されても困る…………要らなきゃ捨てろ」
「…………そんな……職人の苦労を何だと………」

 高価な振り袖を簡単に捨てろと等、麗禾には言えない事だった。麗子が麗禾にあれやこれやと、高価な物を与えてきて、着せ替え人形になっている中でも、麗禾の好みとは違う服や小物をこっそりオークションに出して手放して、小銭稼ぎをしては、少しずつ極道から離れた生活をしようとしていた矢先だったのだ。
 小銭とも言いきれない程の高級ブランド品ばかりで直ぐに大金を手にしていたが、簡単に使って良いとは思ってもいない、堅実派だった麗禾。
 それは、いつ神崎組が潰れるか分からない世界に居るからだ。財産が麗禾に入る訳ではないだろうし、1人で生きて行ける身で居なければならない、と思っているからだ。

「お前がもう着ないというなら、不要な物だからな…………似合ってるし、何度か着る機会もあるだろ」
「機会があったって、これは着ません」
「…………フッ……」

 これが揶揄われている様に感じ、麗禾はもうそれ以上、この男と話す気は無くなって、着替えにスイートルーム内の他の部屋へと入って行った。
 着替えて戻れば、晄と麗子が談笑していた。

「本当に見違える程、良い男になったわね、貴方」
「……………以前、姐さんとお会いした時は、まだ俺は学生でしたからね」
「あの時は高校生だったかしら………今、何歳になったの?」
「26ですよ」
「極道もん同士で、敵対する事もなく、黒龍と神崎、上手くやれてるわよね……昔から」
「神崎の頭は、親父とは兄弟盃を分かち合った仲でしたしね………黒龍の先代頭からも神崎の頭を可愛がっていたと聞いてます」
「らしいわね…………私は先代とお会いした事もないけど、よく話を聞いてたわ」

 麗禾の知らない過去が聞けている。それはそれで、新鮮な話で聞き入ってしまった。だからだろうか、その話をしていた晄と麗子が話を止めた。

「着替えたなら、送って行こう」
「……………貴方に送って貰う筋合いは無いと思いますが」
「理由はあると言っていた筈だ………他に理由付けるなら、幾らでも出るぞ」
「理由なんて………他に無……」
「警護する対象周辺の情報収集、お前の行動範囲確認、住んでいる場所から大学迄の通学経路の下見等々…………充分な理由だ」
「…………」
「姐さん!やっぱり、俺………お嬢の護衛任せて下さい!何で俺が護衛じゃ、駄目なんですか!」

 帰宅しようとする麗禾の後で、朔也が麗子に懇願し、麗禾に付いて行こうとしている。

「黒龍組と神崎組との取り決めを、アンタが覆せる事じゃないんだよ!」
「っ………」
「アンタには、青葉会との抗争で役に立って貰うから」

 麗禾は振り返ろうとしたのだが、その視界を晄に阻まれる。

「行くぞ」
「っ!…………ち、ちょっ……」
 
 結局、スイートルームから押し出される様に、朔也とは話せぬまま、晄に連れ出されてしまった麗禾だった。

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