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しおりを挟むローズパレスホテルを逃げ出したかの様に感じた麗禾は、歩きながら晄に詰め寄る。
「話ぐらいさせて下さい」
「必要無い」
「黒龍さん!」
「黙れ………エレベーターに乗ったら俺はこのホテルの支配人に戻る。黒龍組の話は止めろ」
「…………何故ですか?」
「極道達が働いているのは極僅かなんだ……客も利用するホテルで騒がれたくない」
スイートルームのある階から下は、一般人の方が多いのだろう。付き添う者も晄と同じ様に、ホテルの制服を着ている男達しか付いては来ない。
「ホテルに居る間は、お前をVIP客として、俺が対応する。後に付いている奴等は、重役社員の肩書きがある俺の護衛でもあるし、客の中にも部下達をもう紛れ込ませているから、あんな餓鬼1人と比べる必要も無い」
「…………一般人も雇ってるホテルなんですか?」
「当然だろ………神崎組の経営する不動産会社だって、一般人を雇ってる」
上手く世間に溶け込みながら、極道業をしている大企業だという事だろう。一体、何処が悪徳で、何処が優良なのか、麗禾にはさっぱり判別が出来ない。1階に下りれば、家族連れの旅行客や、外人も多く利用していて、それはもう優良企業の様にしか見えなかった。
「榊」
「はい、支配人」
「車は着いてるか?」
「はい、専用出入り口に既に」
晄が誘導するのは、ホテルのロビーではなかった。従業員出入り口なのかは分からないが、ロビーに出れば、正面出入り口の方へは向かわずに、免税店の並ぶエリアに向かって行く。
「後は頼む」
「支配人、お疲れ様でございました」
ホテルの制服を着ていた者達は、その場で待機するのか、免税店エリアの中のスタッフ専用扉で立ち止まっている。
「こっちだ」
「っ!」
ホテル内では、麗禾を客の様に案内していたのに、スタッフ専用エリアに来ると、途端に麗禾の腰を抱き寄せ歩きを早めていく晄。
その後から榊と呼ばれた男と3人、何処にまた連れて行かれるのだろうか、と麗禾はずっと緊張が途切れてはいない。
複雑な通路にしたのか、右へ左へと迷わず歩く晄に付いて行くのがやっとで、指紋認証が必要な鍵付きのドアの所迄着いた。
その間、幾つもの部屋を通り、ドアを抜けたのかという程、迷路で遊んでいる様に感じている。
「乗れ」
「っ!…………本当に、私の住むマンションに向かってくれるんですか?」
「お望みなら、俺の家にしてやろうか?」
「け、結構です!」
「遅かれ早かれ、一緒に住む家だ。遠慮するな」
「住みませんから!結婚話も私は認めてません!」
「……………本当………チワワだな、お前」
「っ!」
車を乗る前に、こんな会話は不毛だと言わんばかりに、麗禾は晄に車の後部座席に押し込まれた。
「黒龍さんは良いんですか?」
「何がだ」
「……………私と………結婚する事に不満は無いんですか?」
極力、傍に居ない様に、ドアにピッタリとくっついて座る麗禾だが、話せなかった事や聞きたかった事を晄に聞けるチャンスだと聞いてみた。
その晄といえば、煙草にジッポライターで火を付けていた所で、その姿は晄の素性を知らない者なら、魅了されるぐらいに色気を出している。
「不満?…………無いな」
「な、無い?…………初対面ですよ?私達………」
「車を出せ」
「はい」
榊も助手席に乗り込んで、発進した車は麗禾の住むマンションの方向へと向かって行った。
「黒龍さん………答えて下さい」
「……………初対面だろうと、極道もん同士………結婚相手なんざ限られるだろ………俺は、女房になった相手とセックスして孕ませりゃ、それで組の維持に勤めるだけだ………その女房が一般人だと厄介なんでな」
「……………わ、私はその役目しか無い、て事なんですか!」
「……………ピーチクパーチク煩いチワワだな………その口、塞ぐぞ?」
「っ!」
猿轡でも噛ます気なのか、と麗禾はドアノブに手を掛け、いつでも逃げ出せる体勢に構えた。
「……………プッ………口を塞ぐのに、生命の危険性を感じてんのか?………お前を殺して何の得になる?キスでもその煩い口を塞げる、て事ぐらい分からないのか?」
「っ!」
麗禾はキスも未経験な女だ。
晄のほくそ笑む目を見れば、揶揄われたと思えてならない。
「処女か、お前」
「っ!」
「……………図星か………クククッ……」
「っ!……………い、いけませんか?………ず、ずっと…………恋人は欲しいって思ってました!で、でも…………皆………男は逃げてくんです!だって…………私は極道の娘だから!」
「だから、極道に嫁ぎゃ済むじゃねぇか」
「極道が嫌いなんだって言いましたよね!」
「……………フッ……」
不適な笑みを浮かべ、煙草を奥深く吸うと、その煙を吐いた晄。
「じゃぁ………よ……もしお前が、極道に惚れたら如何なるんだ?」
「っ!……………なりません!絶対に!」
「そうか…………それ………1ヶ月、もしくは2ヶ月…………経った後にもそうだったら、良いな…………クククッ………」
「…………」
確信めいた言い方に腹が立つ麗禾。
その晄の笑いに耳を傾ける気にならず、後は只管車窓の外を眺め、晄の声には応じる事は無かった。
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