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しおりを挟む本当に、麗禾が住むマンションに車が着いた。
---ど、何処かに連れ去られるかと、本気で思ってたのに………
「おい…………おい!」
「ひゃっ!」
「……………変な声……」
「っ!」
本当に自分の住むマンションに着いた事が信じられなかった麗禾に、晄が顔を近付けて来て、変な悲鳴を挙げてしまった。
「降りろ」
「……………あ、ありがとう……ございました……」
車から降りると、既に待機していたのか見知らぬ極道の男達が立っていた。
彼等は晄に一礼するぐらいなので、恐らく黒龍組の男達だろう。
「部屋に入れろ」
「……………へ、部屋!…………嫌です!絶対に!」
「取って食やしねぇよ!今日は………お前の部屋に、盗聴や盗撮されて無いかを見るだけだ」
「……………え……?」
神崎組の所有するマンションだ。そんな事を麗禾の部屋に仕掛けられていたならば、直ぐに神崎組の組員達も気付くだろう。
「う、ウチの組員達が気が付く筈です………そんな話、聞いた事ありません」
「俺は心配症なんだ………自分の目で確認しなきゃ気が済まない」
「で、でも………全員は………このマンションにも組員が住んでますから、刺激させたくないんです」
「安心しろ………知らなかったのはあの番犬だけだ」
「……………番犬、て………朔也の事、ですか?」
「他に誰が居るよ………ほら、行くぞ」
「っ!」
立ち話をマンションの入口でしていては目立ってしまう。再び、晄に背中を押され、歩かせられた麗禾だったが、その背中に当たった晄の手は腰に回された。
「は、離れて歩いて下さい!」
「嫌だね」
「黒龍さん!」
「煩いと本当にその度に、その口塞ぐぞ?俺の口でな」
「っ!」
場所は弁えてくれるのか、断わりを入れてくれる辺り、一線は引いてはくれている気がした。肌への過度な触れ方はしては来ない。ホテルで顎を持ち上げられた時以外、肌には触れられてはいないのだ。
麗禾と晄、そして榊と他に2人程、付いて来たのも目立つのだが、部屋の確認だけなら、その人数ぐらいならば我慢出来そうだった。
「ど、どうぞ………あ、あの……あれこれ触らないで下さいね」
「俺達が物を破壊すると思ってんのか?麗禾」
「そうじゃありませんが………盗聴器探すって言われたら………」
「部下達が探知機持ってる………探してあったら、撤去するだけだ」
ある訳は無い、と麗禾は思っていても、本当に設置されていては気持ち悪い。
そして、麗禾の部屋に何故設置出来たのかも調べが必要になるだろう。
榊達が部屋を調べ始めるのに対し、晄はドカッと麗禾の部屋のソファに勝手に座ってしまった。
「……………何してんだ?お前も座れよ」
「……………結構です……黒龍さん達が居ると落ち着けません」
「あっそ…………煙草吸うぞ」
「禁煙です!」
「嘘吐け…………お前のお袋さんは電子煙草吸ってんじゃねぇか………親父さんも喫煙者なのも知ってる………此処に来て吸わねぇ2人じゃねぇ筈だ」
「……………くっ……」
麗禾は20歳過ぎてはいないし、吸わないし吸うつもりも無い。副流煙を吸わざる得ないので、吸いたいとも思っていないのだ。
そう思っていても、灰皿は部屋にあり、仕方無く麗禾は晄に灰皿を差し出した。
「あるじゃねぇか、灰皿………出されなきゃ、灰を床のこのラグに落とす所だ………」
「火事起こしたら許しませんよ」
「良いじゃねぇか、お前の住む家は俺ん家にすれば」
「……………しません!」
直ぐに否定したかったが、間が空いてしまった。
「一瞬、悩んだな…………引っ越して来るか?今夜から」
「違います!」
本心はこのマンションからも出たいのだ。
極道の住むマンションで、神崎組のマンションが嫌いだから、無くなれば良い、と思っての間だったのだ。そうすれば、両親の管理下から引っ越せるだろうと考えただけ。
だが、このマンションが無くなっても、また違う所有するマンションに入れさせられるか、実家に帰らされるだけなのだ、と容易に考え着いた。
---この人、私をよく見てる……しかも、私の神経逆なでする言葉を選んでる気も………
何でも見透かして来そうで、麗禾は晄に恐怖心を拭えない。苦手な男と認定してしまっている。
麗禾の理想の男性像とは真逆だ。
「若頭…………ありました……」
「此方にも………」
「俺は寝室で………」
「脱衣場にもありましたよ、若頭」
「え!」
榊達が見つけたのは4つ。
リビングのTV台の影、寝室のスマートフォンの充電の為にベッドに付けていたタップ、観葉植物の影と脱衣場に隠してあった盗撮カメラ。
「っ!……………そんな………に……」
「脱衣場は関心しねぇな………電源は切ったか?」
「一応、切りました………神崎組の組員達の仕業か、組長の指示かは分からないですが、もし組長の指示だったら、切った事を問題視されませんか?」
「組長の指示じゃねぇし、姐さんの指示でもねぇだろ…………あの2人は毒親だが、こんな手を掛ける人達じゃねぇ」
「……………」
麗禾の両親が毒親だと、何故晄は知っているのだろうか。
確かに娘を利用価値としてしか見ない親で、暴力も奮われてきた。恐怖心を麗禾に浴びせるだけの教育しかしてきてはいないのに、それを晄に見られていた訳でもない筈なのに、と麗禾の思考は目まぐるしく回転している。
「では、これ等は如何しましょうか」
「調べるに決まってんだろ………付けた奴を見つけて、神崎の頭に突き出す………娘の動画がもし流出なんてしてたら、それはそれで問題だろうが」
「流出されているかも調べます」
「あぁ、そうしてくれ」
「……………こ、黒龍さ………皆さん……ありがとうございます、見つけて下さって……」
晄達、黒龍組が設置したと、麗禾は過ぎったが、その考えを片隅に置いておいて、今は礼だけ述べた。
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