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子供と共に
しおりを挟む3年後、王都ウィンストン公爵邸。
「こら!待ちなさい!ゲイル!!」
「嫌ぁ!!」
王宮で夜会があり、その為にカイルとアリシアは王都にやって来た。
2年程前に、長男ゲイルを産んだアリシア。
そして、今1人またお腹に宿った命がある。
王都に住む、義理両親や義理兄夫婦に挨拶も含めて泊まりに来たのに、人見知りが酷くなり、逃げ惑っている息子を追いかけようとしていた。
「ゲイル、母上を走らせちゃ駄目だぞ、転んだらどうする。」
「ふぅ………良かった、捕まえてくれて。」
「当然だ、お腹の子に何かあったらどうする。」
馬車を降りてカイルがセシルと話込み、その挨拶中にゲイルが逃げ出したのだ。
「カイルも父親になったなぁ。」
「兄上の所はまだ歩いてないんだっけ。」
「やっと、掴まり立ちした頃だ。」
「何をしている、お前達。身重の妻をいつまで立たせる気だ。」
中から、前宰相のカイルの父が声を掛けてきた。
母のエマも、孫の顔を見たさに出て来た。
「お義父様、お義母様、ご無沙汰しております。」
「アリシア様、身重で移動大変だったでしょう、中で休みなさい。ゲイルも大きくなって………お祖母様ですよ。」
「…………。」
「人見知りが激しくなってしまって……ウィンストン領の侍従に対してもこうなんです。」
カイルに抱かれたゲイルは、カイルの肩に顔を埋めてしまう。
しかし、子育て経験者のエマは困る様子等なく、ゲイルの背を擦った。
「仕方ないわ、この時期にはあるものだから………カイルもそうでしたよ?ね、カイル。」
「覚えてませんよ、そんな事。」
「ふふふ。」
不貞腐れた顔したカイルは、記憶にあるのだろうか誤魔化した。
今回の夜会は、コリンの結婚式が翌日行われる為に前乗りして、アリシア達は来たのだ。
なかなかコリンは結婚相手が決まらず、前皇帝や前皇妃、兄であるリュカリオンも悩ませて来た案件だったのだ。
カイルと結婚が決まった頃、コリンも妃候補の令嬢と上手くいっていた筈だったのだが、その令嬢が別の貴族の男と駆け落ちしてしまい、結果的に破談となった後、相手に恵まれる事がなく、やっと決まった相手が、アリシアの義妹だったのだ。
アードラの第二王女とコリンの結婚という事で、父のアドラードも、母アマンダと王女の母の側妃と共にレングストンから来る為、身重の身体でカイルと共に参列させてもらうのだ。
「まさか、コリン兄様が義妹と結婚するなんてびっくりよ。」
「アリシアと似てたとか?」
「……………3年以上会ってないから……でも、銀髪でふわふわ髪は一緒だったわ。性格はちょっとキツかった記憶ある。」
「じゃあ、アリシアと似てるじゃないか。毒舌小悪魔王女。」
「!!失礼ね!!私は毒舌だけど小悪魔じゃないわ!!」
「……………。」
「……………。」
それを聞いていたセシルと義父は、思い当たり過ぎて苦笑いしている。
「ほら、納得されてる。クククッ。」
「……………。」
「小悪魔はさておき、毒舌なのは健在であろう?」
「お、お義父様………すいません……。」
「小悪魔も健在だぜ?俺の腕の中限定で。」
「!!……カ、カイル!!」
「分かった分かった………その手の話は子供達が居ない所でやりなさい。」
父に注意されるカイルを見たアリシアやエマ、セシル夫婦は笑い飛ばしたのだった。
✧✧✧✧✧
その夜、アリシアはカイルとゲイルと共に、王宮に入った。
王都の邸ではなく、王宮の客室に宿泊を許されたのだ。
アドラードやアマンダに会えるように、とリュカリオンの配慮だった。
「アリシア。」
「お父様!お母様!」
アドラードが滞在する客室にアリシア達が会いに行くと、アドラード、アマンダが出迎えてくれた。
「ほら、ゲイル………お祖父様とお祖母様に挨拶しなさい。」
「…………嫌っ!」
「ゲイル………ご挨拶出来ない子は………こうだっ!」
「きゃははははははは…………やぁぁ!!」
カイルが抱いていた為、ゲイルの脇腹を擽るとゲイルは泣き笑いを始める。
ウィンストン公爵家でも大人しく、カイルの両親とも話せなかったのが、カイルも気にしていたようだ。
「人見知りが酷くて、カイルのご両親にもなかなか打ち解けてくれなかったの……。」
「2歳なら仕方なかろう……。」
「2人目は順調なの?」
「はい、順調に育ってくれてます。」
お腹を擦り、アマンダに見せるアリシアをカイルとアドラードも微笑ましく見守る。
「僕、お兄ちゃんになるの!」
「そうだぞ、ゲイル。お兄ちゃんなら挨拶出来るよな?」
「…………こんばんは……お祖父様、お祖母様………。」
「偉いなぁ、ゲイル。おいで、お祖父様が抱っこしてあげよう。」
「…………嫌っ!」
「おやおや……。」
挨拶はするが、抱っこは嫌だというゲイルに仕方ない、と思うしかなかった。
「明日の式はゲイルは預けるのだろう?」
「はい、明日はゲイルが懐いている侍女見習いの娘と侍従に………まだ10代でゲイルの世話を中心に見てくれる子達なので。」
「見習いで大丈夫なのかね?」
「えぇ、ゲイルが産まれる前から、ウィンストン公爵邸で働いていた孤児の子で、俺達が保護し、そのまま侍従に。」
「孤児?では、カイル殿が親代わりなのかね?」
「そうです…………その子達が居なければ、ゲイルもまだ産まれてなかったでしょうね……。」
「それはどういう訳で?」
カイルはアドラードとアマンダに経緯を説明した。
「…………アリシアはそんな事を言ったのか……養子等と………。」
「子供は産んで欲しかったですし、一気に7人の子供の母親というのも、と思い……もう少し2人の時間を大切にしたかったんですけどね………。」
「私のせいだって言うの!?」
「俺だって、あの子達が居なきゃ、あの時子供欲しいなんて言わなかったさ。だから、ゲイルが産まれたろ?………ん?」
「確かに、予定通りだったけど………。」
実際に、カイルが予測した日を狙って、避妊せず房事をしたから、妊娠したアリシア。
予想外の妊娠にはならず、心構えも出来て精神的に楽だと知ったのだ。
「計画的に妊娠出来るものなのか?」
「出来ますよ。俺達で確認したもんな。」
「…………お父様に説明しなくても……というかそういう話、親にして欲しくない……。」
「俺、親父には報告したぞ?だから、兄貴も予定通りに子供作ったし。あとは産み分けだよなぁ……次は女の子がいいけど。」
「興味深いなぁ………アルも婚約したし、産み分け方法が分かるなら…………。」
「アドラード様……そればかりは授かりものだと思って下さいませ。」
「お父様、産み分け方法はまだ分からない、と言ったではありませんか。」
「カイル殿、分かったら教えて欲しい。」
「………分かったら、でしたら………。」
「男、て何でそういう話が好きな訳?」
アリシアもアマンダも苦笑いするしかなかった。
✧✧✧✧✧
「陛下………皇妃様にご挨拶申し上げます。」
翌朝、リュカリオンとナターシャに挨拶をしに行ったアリシアとカイル。
侍従達が居た場の為、礼儀を重んじて頭を下げた、アリシアとカイル。
「宰相、人払いを。」
「はっ……。」
宰相になっていたセシルの合図で、人払いが行われると、リュカリオンも姿勢を崩し、足を組む。
「久しぶりだなぁ、カイル。子供も産まれて順風満帆とはこの事か?」
「何を仰いますか、陛下こそ妹に休み等与えぬのか、と思うぐらい子沢山でいらっしゃって…………。」
リュカリオンは、兄弟のトーマス、タイタスに子供が出来る度、ナターシャに子供を強請る節があり、今は4人目を妊娠中のナターシャ。
「お兄様も言ってやって下さい。今回の妊娠はアリシア様の妊娠がきっかけなんですよ?」
「…………何で俺達に対抗する意味がある?まだ2人目だぞ?」
ナターシャがカイルに愚痴を飛ばすが、カイルの子とナターシャの子の人数の差は追い付ける筈もない。
「アリシア様が2人目妊娠の報告があって直ぐ、もう1人欲しい、と仰ったんですよ?セシルお兄様の子の時は流石にわたくしも突っぱねましたが…………。」
「陛下………妹の体力も少しは考えて下さいませんと………。」
「仕方ないじゃないか、ナターシャの可愛さに止まらないんだ。」
「避妊すれば良いでしょう。」
「どうせ、闇雲に避妊せずナターシャに迫ったのが目に見えてますね。」
カイルとセシルが交互に君主を貶す。
「お前達、段々似てきてないか!?父親の前宰相に!」
「そりゃ、親子ですし。」
「当たり前じゃないですか、親父なんですから、それを見てきてたんですよ?」
「お兄様達は、お父様そっくりですから。」
「何言ってるナターシャ。お前が一番似ているぞ?」
「だな、ナターシャが一番似ている。」
ナターシャは兄2人にフォローされる事なく落とされた気がした。
コンコン。
「失礼します、陛下………あ、人払いしてあった………。」
「タイタスとアニースか。」
「失礼します………アリシア!元気だったか?」
「アニースお姉様!お久しぶりです!」
久しぶりの再開に喜ぶアリシア。
しかし、コリンの式の時間も迫り、その後に直ぐ出発準備に呼ばれてしまった。
「また夜会で会おう、アリシア。」
「えぇ、わたくしも募る話もありますし、ラメイラは直接大聖堂に来ますから、沢山お話しましょ?」
「はい!アニースお姉様、ナターシャお姉様。」
アリシアはナターシャとアニースと別れ、カイルと共に大聖堂へ向かう。
義妹がまさかコリンの妃になるとは、俄に信じられなかったが、それでコリンが幸せになるなら、文句はない。
アリシアはウィンストン公爵家の並びに居たが、ウィンストン公爵家の面々は、アードラ王族の両親近くに用意された。
ナターシャは、レングストン王族の席にある為、リュカリオンの隣に寄り添っている。
上皇になるコリンの父で前皇帝と前皇妃が最前列の通路側に鎮座するのも、リュカリオンの配慮だと分かる程、参列者の並び方も気を使っていたようだった。
コリンも幸せそうで、アリシアの義妹もコリンと並ぶ姿を見れば、幸せいっぱいの笑みで、コリンを見つめていた。
「………良かった………2人が幸せそうで……。」
「…………やっと肩の荷降りたよ………コリン殿下から、アリシアを奪ったようなものだったしな。」
「………でも、後悔ないんでしょ?」
「ある訳ないじゃないか………離すと思うか?俺がアリシアを。」
「ふふふ………全然思わない。だって……カイルは私を愛してくれてるもの。」
「お前も俺一筋だから、離すかよ。」
大聖堂の一角で、ひっそりと指を絡めたアリシアとカイル。
いつまでも仲睦まじく、喧嘩しながら寄り添う領主夫妻として親しまれたアリシアとカイルだった。
End
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