【完結】鬼畜皇太子にロックオンされまして…………

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
20 / 126
謁見

19

しおりを挟む

 ドレスに着替えたマシュリーは姿見で確認する。タイトな膝上ワンピースの様に見えて、バックシルエットは、足首迄隠れたドレスだ。オフホワイトのベースに赤の差し色が襟元や腰回りに映え、後ろ身衣は刺繍が施され、露出も控えめだ。だが、胸元は谷間迄開き、虹色のネックレスがきらびやかに輝き、黒レースの膝上迄のストッキング。マシュリーは何故か、このドレスを着てみたくなって選んだが、アナとエリスは物珍しそうに、マシュリーを見つめた。

「アナ、エリス………似合わないかしら?」
「いえ!お似合いです!姫様」
「はい!今迄にない美しくてらっしゃいます!」

 意志の強そうな前から見た膝上タイトスカートの印象と、柔らかい後ろ身衣のシフォンの裾とのアンバランスではあるが、マシュリーの性格を物語っていた。

「お美しいですわ…………このお姿なら、ルカス様のご婚約者であるアンナレーナ様も悔しがるでしょう」
「……………アンナレーナ様?」
「はい…………実は2年程前に、政略的に婚約者がルカス様に決められておりまして、ルカス様は内々に破棄を求めておりました………私はルカス様の乳母ではありますので、ルカス様の性格上、アンナレーナ様は合わないと思っていましたので、マシュリー様が全くの真逆な方で安堵していた所です」
「ご婚約者様が居られたのですね………」

 密かに灯っていた、ルカスへの恋心を、マシュリーは消そうと、消沈する様に落ち込む。アナやエリスも寝耳に水だった。

「ご安心下さいませ、マシュリー様…………このお部屋は、皇太子殿下であるルカス様の妃にご用意されたお部屋でございます。アンナレーナ様はこちらへの入室は、ルカス様から許可は出ておりませんので」
「……………伺いますが、モルディア皇国は一夫多妻制ですの?」
「いいえ、一夫一妻制です………ですが、妃にお子が出来なければ、妾は入れる事はあります」
「……………そうですか………ならば、わたくしもルカス様を繋ぎ留める必要があるという事ですね?」

 覚悟しても揺らぐ気持ち。不安で仕方ない。

「…………今は不安定かもしれませんが、見守らせて頂きますわ…………準備も整いましたから、ルカス様をお呼びしますね」

 カレンは侍女に合図をすると、室内の扉をノックする。

「皇太子殿下、マシュリー様ご用意出来ました」
『……………今行く』

 カチャ。

 ルカスも着替えを終え、マシュリーの部屋へ入って来た。夫婦の部屋となれば、部屋続きになるのは理解してはいたマシュリーだが、途端に緊張が舞い戻る。

「……………マシュリー……」

 入室して、直ぐ立ち止まるルカス。茫然と立ち尽くし、マシュリーを見つめ固まった。

「ルカス様……………ルカス様!!何かお言葉は!?」
「!!」

 カレンから括が入り、ピクリとルカスの肩が動く。

「綺麗だ………マシュリー」
「…………本当ですか?……ありがとうございます、ルカス様」
「……………あぁ、押し倒したい程に」
「ルカス様!なりません!」
「ちっ……」
「ルカス様………ご結婚が決まる迄、お部屋間の扉は行き来禁止でございます……扉は閉じ、マシュリー様がお部屋を使用中も廊下からの入室は私達で監視しますので」
「…………何だとっ!!」
「マシュリー様と…………しかも今はジェルバ国王女様………国婚となるお相手を、ルカス様の欲望のまま、傷物になるのはモルディア皇国の恥」
「……………も………止めて………下さい……」

 ルカスがカレンと言い合う姿に、マシュリーは止めようとしたが、声が小さくかき消されていた。だが、先走るルカスに括を入れた方が良いような気がして、息を深く吸った。

「同意ならいいだろ!」
「……………まだ同意しません!!ルカス様!わたくしの事も考えて下さいませ!!」
「!!…………マシュリー?」
「…………わたくしは、ジェルバ国の事が解決する迄、自分自身の身の上は考えたくありません!!」

 控え目な、大人しくしていて、モルディア皇国に入った数日、ルカスに引かれたレールを黙って従っていたが、我慢出来なくなってはいたらしいマシュリー。その括で、ルカスやカレン、モルディア皇国で用意された侍女達はマシュリーを見て驚く。

「姫様、ご立派なお言葉ですわ」
「うん、うん………我慢されてましたからね」

 アナとエリスは、いつか爆発するだろうとは見ていたのだ。ルカスの一方的な感情の押し付けは、マシュリーの戸惑いが半端ない。マシュリー自身も、ルカスへの感情は感じてはいたが、同レベルの感情ではないからだ。

「ルカス様、もう少し女性のお気持ちを考えなさいませ………でなければ、マシュリー様のお部屋変えますからね」
「……………はい」

 ルカスも少しは反省するだろう、とマシュリーは少し安心したのだった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メイウッド家の双子の姉妹

柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…? ※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

祓い師レイラの日常 〜それはちょっとヤなもんで〜

本見りん
恋愛
「ヤ。それはちょっと困りますね……。お断りします」  呪いが人々の身近にあるこの世界。  小さな街で呪いを解く『祓い師』の仕事をしているレイラは、今日もコレが日常なのである。嫌な依頼はザックリと断る。……もしくは2倍3倍の料金で。  まだ15歳の彼女はこの街一番と呼ばれる『祓い師』。腕は確かなのでこれでも依頼が途切れる事はなかった。  そんなレイラの元に彼女が住む王国の王家からだと言う貴族が依頼に訪れた。貴族相手にもレイラは通常運転でお断りを入れたのだが……。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

旦那様が素敵すぎて困ります

秋風からこ
恋愛
私には重大な秘密があります。実は…大学一のイケメンが旦那様なのです! ドジで間抜けな奥様×クールでイケメン、だけどヤキモチ妬きな旦那様のいちゃラブストーリー。

処理中です...