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謁見
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しおりを挟むドレスに着替えたマシュリーは姿見で確認する。タイトな膝上ワンピースの様に見えて、バックシルエットは、足首迄隠れたドレスだ。オフホワイトのベースに赤の差し色が襟元や腰回りに映え、後ろ身衣は刺繍が施され、露出も控えめだ。だが、胸元は谷間迄開き、虹色のネックレスがきらびやかに輝き、黒レースの膝上迄のストッキング。マシュリーは何故か、このドレスを着てみたくなって選んだが、アナとエリスは物珍しそうに、マシュリーを見つめた。
「アナ、エリス………似合わないかしら?」
「いえ!お似合いです!姫様」
「はい!今迄にない美しくてらっしゃいます!」
意志の強そうな前から見た膝上タイトスカートの印象と、柔らかい後ろ身衣のシフォンの裾とのアンバランスではあるが、マシュリーの性格を物語っていた。
「お美しいですわ…………このお姿なら、ルカス様のご婚約者であるアンナレーナ様も悔しがるでしょう」
「……………アンナレーナ様?」
「はい…………実は2年程前に、政略的に婚約者がルカス様に決められておりまして、ルカス様は内々に破棄を求めておりました………私はルカス様の乳母ではありますので、ルカス様の性格上、アンナレーナ様は合わないと思っていましたので、マシュリー様が全くの真逆な方で安堵していた所です」
「ご婚約者様が居られたのですね………」
密かに灯っていた、ルカスへの恋心を、マシュリーは消そうと、消沈する様に落ち込む。アナやエリスも寝耳に水だった。
「ご安心下さいませ、マシュリー様…………このお部屋は、皇太子殿下であるルカス様の妃にご用意されたお部屋でございます。アンナレーナ様はこちらへの入室は、ルカス様から許可は出ておりませんので」
「……………伺いますが、モルディア皇国は一夫多妻制ですの?」
「いいえ、一夫一妻制です………ですが、妃にお子が出来なければ、妾は入れる事はあります」
「……………そうですか………ならば、わたくしもルカス様を繋ぎ留める必要があるという事ですね?」
覚悟しても揺らぐ気持ち。不安で仕方ない。
「…………今は不安定かもしれませんが、見守らせて頂きますわ…………準備も整いましたから、ルカス様をお呼びしますね」
カレンは侍女に合図をすると、室内の扉をノックする。
「皇太子殿下、マシュリー様ご用意出来ました」
『……………今行く』
カチャ。
ルカスも着替えを終え、マシュリーの部屋へ入って来た。夫婦の部屋となれば、部屋続きになるのは理解してはいたマシュリーだが、途端に緊張が舞い戻る。
「……………マシュリー……」
入室して、直ぐ立ち止まるルカス。茫然と立ち尽くし、マシュリーを見つめ固まった。
「ルカス様……………ルカス様!!何かお言葉は!?」
「!!」
カレンから括が入り、ピクリとルカスの肩が動く。
「綺麗だ………マシュリー」
「…………本当ですか?……ありがとうございます、ルカス様」
「……………あぁ、押し倒したい程に」
「ルカス様!なりません!」
「ちっ……」
「ルカス様………ご結婚が決まる迄、お部屋間の扉は行き来禁止でございます……扉は閉じ、マシュリー様がお部屋を使用中も廊下からの入室は私達で監視しますので」
「…………何だとっ!!」
「マシュリー様とまだ婚約も出来ておりません…………しかも今はジェルバ国王女様………国婚となるお相手を、ルカス様の欲望のまま、傷物になるのはモルディア皇国の恥」
「……………も………止めて………下さい……」
ルカスがカレンと言い合う姿に、マシュリーは止めようとしたが、声が小さくかき消されていた。だが、先走るルカスに括を入れた方が良いような気がして、息を深く吸った。
「同意ならいいだろ!」
「……………まだ同意しません!!ルカス様!わたくしの事も考えて下さいませ!!」
「!!…………マシュリー?」
「…………わたくしは、ジェルバ国の事が解決する迄、自分自身の身の上は考えたくありません!!」
控え目な、大人しくしていて、モルディア皇国に入った数日、ルカスに引かれたレールを黙って従っていたが、我慢出来なくなってはいたらしいマシュリー。その括で、ルカスやカレン、モルディア皇国で用意された侍女達はマシュリーを見て驚く。
「姫様、ご立派なお言葉ですわ」
「うん、うん………我慢されてましたからね」
アナとエリスは、いつか爆発するだろうとは見ていたのだ。ルカスの一方的な感情の押し付けは、マシュリーの戸惑いが半端ない。マシュリー自身も、ルカスへの感情は感じてはいたが、同レベルの感情ではないからだ。
「ルカス様、もう少し女性のお気持ちを考えなさいませ………でなければ、マシュリー様のお部屋変えますからね」
「……………はい」
ルカスも少しは反省するだろう、とマシュリーは少し安心したのだった。
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