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アガルタの使者は
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しおりを挟むルカスは衝立の前に立ち塞がる。デイルに衝立の中を見られる訳にはいかず、ルカスの居た場所に、マークが代わりに立った。
「…………陛下は、気分が優れない為、衝立を立てている……顔色悪い陛下は客人の前に姿を表すのは失礼だ、と仰りそれでも尚、姿を見せたのだ……衝立を外すのは勘弁願おう」
「…………何だ?死に間際か?………なら話しは早い…………マシュリーを連れて行きますよ………アガルタで俺の妻として大事にしてさしあげますのでご安心を」
両手を広げ、声を大にし嬉しそうに言うデイル。
「…………マーク……卿」
「………はい」
衝立の中でマシュリーはマークに声を掛ける。
「…………分かりました……お待ちを……」
マークは玉座脇から、デイルに向かって叫ぶ様に聞いた。
「何故、アガルタへ行って無事に済み、使者としてジェルバに帰ってきたのか、陛下が聞いています。王太子殿下の死から今迄何をしていたのか、と」
デイルは、その質問にあざ笑う様に返す。
「何故言わねばならん、俺達家族がアガルタへ逃げたのも全ての元凶は国王じゃないか!ザナンザが死に、ジェルバの行く末を嘆いたのは、アンタだけじゃない!民全員だ!だから、父はザナンザの代わりに、と息子であり王族筋の俺をマシュリーの夫と画策し、話しを持ち掛けた………いい話じゃないか………それをアンタは、マシュリーにも話を通さず、ただ一言、却下で済ました………見限って何が悪い!何度もザナンザが生きている間にも父と俺は掛け合ったよな?…………ならマシュリーをこんな狭い籠の中に居させる必要等無い!俺が連れ出してやるよ!そして新たな場所でジェルバ国を再建してやるから、とっとと死ね!」
「違います!!ディル兄様!」
「!!」
衝立の中からマシュリーが出てくる。
「「マシュリー!!」」
ルカスとデイルが同時に声を出す。
「マシュリー!出てくるなとあれ程……」
「マシュリー様………駄目ですよ」
「マシュリー……迎えに来たぞ!」
ルカス、マーク、デイル3人がマシュリーに近寄って行くが、デイルはマークに阻まれ、近寄らせない。
「違います………ディル兄様……お父様やザナンザお兄様はディル兄様との婚姻も、わたくしに打診されました……ですが…………わたくし…………」
言い難いのか、マシュリーはデイルを見ては口を閉ざし、俯いたりルカスの顔色を伺いながら、口を閉ざしたり俯いたりを繰り返し、間に阻むルカスの服をキュッと握る。
「言わなきゃ相手に伝わらないぞ、マシュリー」
「…………わたくし……ディル兄様とのお話は、わたくしから断っていたのです!」
「「「「「「………………」」」」」」
誰も知らない事実らしく、臣下達はマシュリーはデイルを許婚にしていたとばかりに思っていた節があり、臣下達からは確認が入る。
「マ、マシュリー様……3年前は確かに許婚だと噂も流れ……」
「確かに噂ははあった………」
「そ、それはディル兄様や叔父様が流した嘘です………わたくし………わたくしはディル兄様が嫌いで嫌いで…………ザナンザお兄様はよく親しく出来たのか不思議で………」
「…………プッ………嫌いだってさ……」
「な、何故だ!あれだけ貢ぎ、山の様に手紙には愛を語り、募る想いの丈をマシュリーにぶつけたのに!」
「……………だ、だから………そ、それが気持ち悪いんです!行く先々でディル兄様が待ち伏せし、花束や贈り物を渡しに来られても、気持ち悪かったのです!」
ワナワナとデイルは身体を震わせ、腰の剣に手を掛けると剣を抜くが、ルカスはデイルが抜く前に待ち構えていた。
失笑が起きる謁見の間に、益々デイルの立場等無く、その騒ぎからアガルタの使者デイルは勿論、兵士達も取り囲まれているのに気が付きもせず、デイルは剣を下ろす。
「生憎だったな………マシュリーは2ヶ月後には俺の妻になる………アガルタには連れて行けないな………これは正当防衛だ、貴方が先に剣に手を掛け抜いてマシュリーに剣を向けようとした……俺のが剣の扱いに優れていたから、俺のが貴方より構えが早かっただけの事…………悪いが聞きたい事があるんでな……拘束させてもらう………マーク」
「はい」
マークの合図でモルディア皇国とジェルバ国の兵士達は、アガルタ国から来た者達を投獄した。
「…………さて………マシュリー……」
「…………わ、わたくし……部屋に……戻りますわ……」
ルカスの顔が引き攣る様な笑顔で、マシュリーは逃げた方が良いと察知すると、ルカスの服をパッと離し後退りをする。
「うん、部屋に戻るなら俺が送って行こう」
「け、結構ですわ…………お忙しいでしょう?」
「マークに任せるからいい」
「わ、わたくしもディル兄様にお話が………」
「嫌いだと豪語した口が言う台詞かぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
マシュリーはルカスに肩に担がれ、謁見の間から姿を消した。
「ルカス殿は…………」
「ルカス様は明日の朝迄………いや、昼過ぎ迄、仕事しないでしょうから、我々で処理しましょう…………はぁ……全く………心狭過ぎ……」
マークのぼやきがざわつく謁見の間に轟く。その言葉に、モルディア皇国の面々は納得せざる得なかった。
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