上 下
121 / 126
白銀の風神

120

しおりを挟む

 モルディア皇国、コルセア国との国境の街。街人達を避難させ、宿屋の1部屋でモルディアー二の城で賛辞を受けて、ご機嫌だったルカスだが、急に呼び出され不貞腐れている。それは、コルセア国国境に兵士達が武装してやって来るのを見た、という伝達が来たからだ。しかも呼び出され方がえげつない。

「熱いじゃないか!!」
「仕方なかったじゃないですか、実体に痛みが無いと、気付かなかったんだから」

 蝋燭に火を灯し、ルカスの身体に火を当てたマーク。

「せめて、叩くとかなかったのか?」
「叩いたら、顔傷付けるな、とか言うかと」
「当たり前だ」
「なら、腹蹴りますか?」
「痛いじゃないか」
「殴る蹴るは今迄やって、気付かなかったんで…………あぁ、あと落書きも」
「…………もう、絶対にお前の前で、実体から精神を抜かない…………で?兵はどれくらいだ?」
「ざっと、5000ですね」

 宿屋に報告に来た兵から、配置を示される。

「……………コルセア兵がここなら……俺達がそのまま行くと待ち構えられる可能性もあるな……森の木の陰では戦いにくい、それならこの森手前で配備しよう……ここに近い隊は?」
「レナードが近いですね」
「レナードの隊は少ないだろ………他の隊も向かわせろ、俺達も行くぞ!」
「はっ!」

 白銀の髪が靡き、馬で駆ける。

「ルカス様、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「神力ですよ、1時間ぐらい使ってましたし」
「大丈夫だろ」
「使えても1時間ぐらいしか残ってないんですから温存しておいて下さいね!」
「1時間しか使えない訳じゃないと思うぞ」
「え?」
「使い方で消費量が変わる………前回のは、ネックレスにマシュリーの姿を撮っていたから短かっただけだ…………今日はまだ余裕ある」
「ですが、俺は神力の量の動きが分かるんですから、俺がと言ったらですからね!」
「……………へぇ~い」
「……………やな返事ですね…」

 緊迫感をまるで醸さないルカスの返事に、マークはそれが安心する。適度な緊張感と、脱力感がなければ、集中力が保てない。戦闘がどれくらい続くかも分からないからだ。

「見えたぞ、森だ!」
「以前、ドランゴ将軍が配備していたのは森の向こう………国境手前ですが本当にここで待ち構えるんですか?」
「コルセアの国境砦に街がある、一般人を傷付ける可能性があるからな………とは違う………俺達は神力の封印が解かれたんだ………他国であろうと武器を持たない相手であるなら戦うな」
「しかし、この辺りは魔獣の棲家でしたよね」
「あぁ………ピリピリしてる………今、俺に敵意剥き出しだ……」

 コルセアの兵士が来るのに、魔獣さえも出る平原で、縄張りを争うとしなければ、大人しくしている種の棲家で、戦闘を待ち構えるルカス達。既にモルディア兵士達の殺気でピリピリし始めていたにも関わらず、ルカスが来てから様子を見ている様だ。

「で、では何故ここで……」
…………魔獣達にも分からせてやるんだよ………言わば、になれるかどうか」
「…………は?」
「ここの魔獣は賢い………荒らす者と守る者が分かれば、になってくれる………筈……だが歯向かうなら、魔獣討伐…………だが、コルセアが来てからだ!」

 ひぇェェエエ工!!、とモルディアの兵士達は怯える。

「怯えるな!魔獣の餌になるぞ!」

 1種の度胸だめしだ。ルカスも敵意剥き出しの魔獣に気を緩めてはいないまま、森からコルセア兵士が出て来る気配がし始め、ルカスは無言で合図する。コルセア兵士を平原半周を取り囲む様に、配置させていた兵士達に、武器を構えさせた。

「な!何だ!!何故ここに兵士が!!」
「今日はモルディアでは祝いの祭りじゃなかったのか?」

 囲まれる様に配置され、行く手を阻まれている一触即発の空間に、魔獣達も姿を現せる。

「う、うわぁ!魔獣だ!」
「な、何だ!モルディアは魔獣を飼ってるのか!」

 コルセアの者達は魔獣が居る事を知る者は少ない。血の匂いのしない者は襲わない、この付近の魔獣は、血の匂いには反応するからだ。モルディアの者達は、怪我をしたらこの地に踏み入れない事にしている。
 ざわざわとコルセア兵士達は隊列を乱す。

「コルセア兵!!このまま帰れ!無闇な殺生は俺達は好まない!!」

 ルカスは声を張り上げ、コルセア兵士達に言い放つ。しかし、帰るつもり等ある訳はなく、コルセア兵士側から号令が掛かる。

「ルカス様、合図を」
「……………まだだ……」

 走って切り掛かって来ようとするコルセア兵士達。

「ルカス様?」
「最後尾が完全に平原に入ってからだ」
「ですが、コルセア兵達は広がってますよ」
「まだ」
「……………まさか、やろうとしてます?」
「……………フッ……」
「はいはい」

 号令は今か今かと、待っているとコルセア兵の一部が魔獣に切り掛かって行くのが見えた。

「!!…………俺から離れろ!!」

 ルカスは剣を抜くと同時に斬撃を出した。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,056pt お気に入り:1,362

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:3,713pt お気に入り:2,709

蒼い海 ~女装男子の冒険~

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:36

俺の妹が優秀すぎる件

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

女装魔法使いと嘘を探す旅

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

処理中です...