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成人
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しおりを挟む婚約式が行われる会場では、はっきりと王族派と神殿派で分かれて集まっていた。それが何を意味するのか、王族派が神殿派に流れている数も確認が取れる。
領地に神殿があると無いとで、聖魔法師が雇えない、という難点があるからだ。それもあり、エレノアはこの6年、神殿の無い地域に行き、慈善活動や病人や怪我人を無償で治療している。だが、1人では限度があり、魔法研究所と開発した、治癒が出来る魔道具を配っている。しかし、それはいつしか神殿に没収されるという事もあって、まさにイタチごっこの状況だった。
「覚悟は?」
「今更聞く?私の人生経験、舐めないでよね」
「打たれ弱いだろ?意外に」
「レオ程じゃないわ」
「強くなったんだけどな………俺」
「知ってる、だから婚約に承諾したんじゃないの」
「……………フッ………いざ!戦場へ!」
レオナルドは何か言いたげだったのを飲み込んで、エレノアと1歩目を踏み出す。
エレノアはそれを分かっていたが、今はそれどころではない。気持ちを伝えるのは、終わってからだ。歩み出すスタートは此処からで、今迄の戦いはほんの序章に過ぎない。
神殿を潰す為なら、本気で戦うと、レオナルドの傍で決意出来た。昔は1人で戦って負けたエレノアは逃げていただけ。今回は味方が居るだけで心が強くなれた。
「うん!」
会場に入れば、王宮には近寄らない神官達も居て、エレノアを汚らわしい物を見る目つきで睨んでいる。
「神官、て入れるんだっけ」
「神官の中でも貴族の者も居るからな」
「紛らわしいよ、あれ…………しかも妹居るし……成人した人だけじゃないの?」
「クソッ…………何処迄、王宮の決めた事を無視する気だ」
妹は神殿の聖女用の着衣を着ていて、ベルセルク公爵家の中に、家族に守られながらエレノアを睨んでいた。
「エレノア、ちょっと見せつけてやろうか」
「何?…………っ!」
エレノアはエスコートをされて歩いているのに、レオナルドはエレノアの額にキスを落としたのだ。しかも、エレノアはレオナルドとキスもした事は無い。正真正銘、これが異性からの初キスだ。
「ごちそうさま」
「あ、後で見てろ………不意打ち卑怯よ……」
「まぁ、仲睦まじいですわね、王太子殿下と聖女様」
「王族が認めた聖女様を王太子殿下が射止めたのだ。こんなに嬉しい事は無い」
「何を言うか!神殿が崇める聖女こそ、真の聖女だ!」
「ぅゔっ…………お母様……お可哀想……レオナルド殿下…………出来損ないに洗脳されてしまったのよ………」
「そうだ!聖女とは偽りのその娘に王族は洗脳されているのだ!こんな会は即刻止めるべきだ!」
祝いの場として、王族の権威を示す場として、不仲な神殿派の貴族達も招いた婚約式。神殿がいつも無許可で神殿の権威を翳し、好き勝手に行うので、王族派は礼儀に則っているのに、招待をされていない妹迄連れてきている事へ怒りを感じずにはいられなかった。
国王の挨拶迄も野次が飛ぶ程、神官の服を着た者達は特に礼儀がなっておらず、追い出されたりもしている。貴族に扮した者なのか、わざと煽る役目であるのかは分からない。
「私、レオナルド・オルレアンはベルセルク公爵家三女、エレノア・ベルセルクを婚約者として、共に歩む事を誓います」
「お間違えですぞ!王太子殿下!三女ではない!四女でございます!」
誓いの言葉さえも邪魔する声。
「オルレアン王家の取り決めに、逆らう者は反逆罪と見なすぞ!王太子自ら選び、国王の余が承認した娘だ!政治や策略等で選んだのではない!初代聖女エレノアの生まれ変わりのこの娘こそ、今代の聖女である!」
「生まれ変わりだと………?」
ベルセルク公爵がレオナルドの言葉を遮らなければ、国王もここ迄言わなかっただろう。場を汚され、息子の門出になる祝いを邪魔されて冷静さは保てはしなかった。
「う、生まれ変わりこそ、四女のエレノアでございます!その娘は、生まれた時こそ光に覆われ、獣達が集まった邸の中で生まれましたが、魔力は皆無だと分かったのですよ!親を糠喜びさせ、悲しませた親不孝な娘が、何故聖女だと言えるのです!」
「……………閣下」
「エレノア………何する気だ?」
本当に腹立つ言葉だ。生まれたばかりの赤子が、親不孝と言われて、子供ならどう思うだろうか。エレノアは自分の為に、やってしまった事だが、魔力の有無だけで、親孝行か親不孝かで決められたら、親のさじ加減で変わるではないか。
「わたくしが魔力皆無?…………ご覧に入れましょう…………此処に5本の指………それぞれ違う魔法が使える人が、どれだけ居るか………恐らくわたくしだけ…………」
右手を翳し、5本それぞれの指先から色の違う玉を出したエレノア。1本は火、1本は水、1本は風、1本は雷、1本は光。
これを見れば誰が魔力が無いと言えるであろうか。
「わたくし………聖女になりたくなかったんですよ、閣下…………だって、神殿はゴミ溜めですから…………わたくし、5代目聖女であった時、聖魔法を絞り取る為だけに監禁されました……4代目聖女の時、当時の国王は叔父の傀儡になり言いなりで、わたくしは国王に殺されました………それでも、わたくしはこの国を愛し、生まれ変わり…………貴方の娘になったのです………初代国王サムエル………わたくしの弟だったサムエルの妻の実家に……マーゴットの家族の子孫から生まれた事は嬉しかったのに………墓場でマーゴットは嘆いているでしょう…………」
「駄目だ!エレノア!感情的になるな!」
「っ!」
殺気が湧き出て来たエレノアに、背後からレオナルドが抱き止めて、エレノアは一瞬にして治めたのだった。
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