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しおりを挟むルシフェルは言葉を続ける。
「せいぜい、苦しめばいい………アマリエとして目覚める迄」
「何を言ってる!今直ぐ目覚める方法を教えろ!」
「…………もう、無理ですよ………私はもう疲れましたから死ぬつもりです………延命処置も拒否し、私の治癒魔法は力不足で、自己治癒も出来ない………貴方が来るのが分かってましたから、今は数時間だけ、執念で起きているだけ………私は…………はぁ……くっ………」
「ルシフェル!治癒魔法を掛け………」
「止めて下さい………父上……」
「ルシフェル………」
シュゼルトはルシフェルを傷付けて後悔はしていないが、この男に滅茶苦茶にされた事に対して、勝ち逃げされる気分だった。
「ふざけんな!どれだけアマリエを傷付けてきた!てめぇだけ逃げんじゃねぇ!」
「…………いい気味です……貴方に………アマリエを託すのですから、目覚める迄苦しめばいい………100年………という所でしょうか……」
「な、何だと!」
「…………私があの人間の身体を連れ去った後、細工をしました………あの場に居た身体は……アマリエそのもの………転生後の記憶を………人間の身体から………アマリエに植え付けてあります………」
違うとはあの一瞬では思わなかった。
抱き締めていれば分かったかもしれないが、佑美とルシフェルの間にシュゼルトは立ち塞がっただけで、少しも触れてはいないのだ。
「それなら、佑美の身体は何処に………」
「魂が抜けたのです………もぬけの殻の身体は………あの人間の男の家………私が……あの男に憑依しようとした時………あの男の本性が……私と重なった…………天界人の……私が………あの男と同じ事を………アマリエにしていた……と思ったら………私は………天界人らしからぬ事をした、と…………悔んだ………ならば、私は……アマリエの近くには…………居てはならぬ………と」
「…………それならアマリエに謝れ!お前は謝らずに先に逃げるのか!」
「…………そう………ですよ………貴方へ恨みや復讐を残して去ります………100年等………優しかった………かも………」
「…………だと!おい!ミカエル!コイツを回復させやがれ!」
「…………よして下さい……そんな事をしたら、私自身生命を絶ちます………」
「おい!ミカエル!」
覚悟あっての結論なのだと分かるが、シュゼルトは後味悪い結果に納得しなかった。
ルシフェルはアマリエにも佑美にも謝罪せず、先に逃げるのだ。意識の無いアマリエが後に知ったら、どう思うのか。
「儂には出来ぬ………アマリエへの責任をそう取るのなら、致し方あるまい」
「アマリエの気持ちは如何なる!妹だろ!娘だろ!」
「もう…………あの娘は儂の娘でない、と思っている………シュゼルト、帰ってもらおう」
「ふざけんな!100年、俺はまた待たされるのか!1人で逃げんじゃねぇ!」
「…………良いではないですか………貴方はその後、アマリエと過ごせるのです………邪魔する私は…………もう居ません………私の事は伝えても伝えなくとも………お好きに………喋り過ぎて疲れました……お引き取りを………」
「…………シュゼルト………これ以上、天界から立ち去らぬなら、攻撃する」
「…………ちっ!………ルシフェル!転生すんなら天界や魔界じゃねぇ所にしろ!」
「…………フッ………」
ルシフェルは僅かに口角を上げ、目を閉じる。
もう、何もシュゼルトには話が無い、とばかりの表情だった。
シュゼルトも聞けるだけ聞いたので、ルシフェルの部屋を出たが、腹立たしい事には変わりない。
「…………ルシフェル」
「はい………」
「アマリエに想いを残すでないぞ」
「…………えぇ………もう……無いです………200年前に……捨てれば良かった……転生しても………見向きもされませんでした………何度繰り返しても…………同じです………」
その言葉を最後に、ルシフェルは息を引き取った、と後にシュゼルトの方にも噂が届いた。
そして、ルシフェルを追うように、ミカエルも亡くなったという。
天王が亡くなっても、天界は変わらない。誰か天界人が新たに天王になるだけだ。
✦✦✦✦✦
100年という月日。
人間には長い月日ではあるが、それは魔界でも同じだった。
特にシュゼルトはアマリエが傍に居るのに、動かないアマリエが起きる迄、待っていなければならないからだ。
ただ眠っているだけ、というアマリエではあるが、生命力を感じなくなると死に向かうので、シュゼルトは毎日自分の力を分け与えている。
「アマリエ………」
時が過ぎる内に、佑美だった面影が消えていき、黒髪は白銀になり身体もアマリエの様な肉付きになっていったのには、ルシフェルからの説明にあった通りだった。
佑美、として呼ぶ気も無くなっていき、シュゼルトは子供の姿のままで変わらない。
「さぁ………アマリエ……俺を慰めてくれ」
アマリエの身体は薄い布のワンピースを着せていて、世話はシュゼルト1人でしている。
誰にも触らせたくなくて、身体を綺麗にするのも髪を漉くのも、シュゼルト1人だ。
「もう直ぐ100年か………全く………お前の兄には困ったもんだ…………」
ワンピースを脱がし、全裸にさせると身体を拭いていくのだが、いつもそれで終わらないのがシュゼルトだ。
体温もあるアマリエの身体は、硬直もしておらず、何処に触れても柔らかい。
「今日も美味そうだな………」
ジュル、と胸の頂きを吸い込んで、太腿を持ち上げる。
意識の無いのに、性欲処理をしようとするのか、と不思議ではあるが、生命力を注ぐには必要な事だった。
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