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しおりを挟むその夜はなかなか寝付けずに居たロゼッタだったが、夜間庭園を歩いている人影を見つけた。
「こんな警備が厳重そうなお邸で、泥棒なんて居る筈なさそうだけど………」
「寝付けないのですか?お嬢様」
「…………リードさん?」
「はい」
声でリードと分かる。数日よく聞く声だったからだ。
「如何されたのです?寝付けが悪いなら、温かい飲み物を運ばせましょうか?」
「いえ、必要ありません。リードさんこそ、この夜更けに何を?」
少々、声を張り上げないと、会話が出来ない距離だった。それなので、リードがロゼッタの真下に迄近付いて来る。
ロゼッタが居る階は2階だったので、距離は近くにはなった。
「ん~、これではまるで、逢瀬ですね」
「…………え……」
傍から見たら、夜這いにでも来たのか、とも思われそうな光景だ。
それに、リードはロゼッタの質問に答えるどころか話をすり替える。
「か、勘違いする人居ますか?」
それが逢瀬と、リードに言われて、質問した内容より、色恋を醸す発言に興味が逸れてしまったロゼッタ。
「分かりませんね、私はこう見えても、女性に好かれやすいので………歳が10歳以上下の幼女からも、子供の頃に告白された事もありましたし……まぁ、今は仕事に忙しく、女性を娶ろう等考えはまだありませんが」
またも自分に心酔する言葉がリードから出る。
自分を貶している様な皮肉染みたと思える態度で、自慢している様にも見えた。
「………独身、なんですか?リードさん」
「はい…………おかげで26にもなって、男色だとも噂も流れてますよ?その相手はヴェルゴだ、ともね」
「…………プッ………確かに……でもヴェルゴさんは奥様居ますし」
「そうなんですよ、困った噂でして………それでも、私には縁談も多く、ヴェルゴがいい防波堤になってくれています」
半分以上は冗談なんだろうが、リードの話は楽しい。
結婚した相手がリードの様な男なら、毎日楽しく過ごせたかもしれない、とロゼッタは一瞬思ってしまった。
「リードさん、薄情な様で温かい人だから、奥様になる人は、幸せかもしれませんね」
「…………っ!………あ、ありがとうございます……私が温かい人だと言われる方はロゼッタ様で2人目ですよ」
「そうなんですか?………冷酷そうな言葉を言われても、何処か優しい思いが入ってる気がします。ドレスや靴を買って頂いたお店でも」
「か、買い被り過ぎですよ、ロゼッタ様」
ロゼッタ以外にもリードの優しさを口にするのが1人しか居なかったのには意外だったロゼッタ。
もっと居るだろう、とは思うが、そう口にした人が少な過ぎて、余計に気になる。
「そのもう1人って、初恋の人だったり?」
自分はリードより身分が上だと言われているので、そういう態度なのだと思って聞いたが、リードの顔が夜空の月明かりに照らされても暗い場所なのに、顔が赤く染まったのが見えた。
「っ!…………ま、またその様な下世話な話を……」
「図星だったんですね」
「……………た、多分そうなのでしょう。笑顔が太陽の下で咲く向日葵の様に満開なお顔をされて、私にいつも笑って下さいました。とても愛くるしい人です」
「……………今はその人如何してるんですか?リードさんがそんなに今も想ってるのに、その人に告白すればいいと思うんだけど」
「……………今は……困難に立ち向かっている最中ですから、私の様な者の気持ち等、邪魔になるだけでしょう………しゃ、喋り過ぎました……私は失礼致します」
「……………あ……おやすみなさい、リードさん」
「おやすみなさいませ」
リードの後ろ姿を見送るロゼッタ。
何か寂しそうで、大きな背中なのに小さく見えた。
---あんなに想われてる女性って素敵な人なんだろうな………性格はちょっと毒舌で近寄り難いけど………想い人、気になってきちゃった
隠された気持ちは溢れ出る物で、好きになってはいけない、と思えば思う程、気になって来る気持ち。
口にしたら気が付いてしまったのはリードだ。
---駄目ですね……ロゼッタ様と話をするといつもの調子が出ない………あの頃を思い出す………
リードは首に掛けていたネックレスを出して見つめる。
それは、向日葵の彫りをされたロケットペンダント。銀製で出来た輝くペンダントは、ロゼッタの物とは違い、お揃いなのに美しく輝いていた。
『誕生日おめでとう、ローゼ』
『綺麗!』
『これはロケットになっていて、好きな絵を入れる事が出来るんだよ』
父から3歳の誕生日に渡されたプレゼントに喜ぶロゼッタ。
『ローゼは何の絵を入れる?』
『オーギュの似顔絵!』
『…………そ、それは………父様や母様の似顔絵じゃないのかい?』
手渡された時は、国王や王妃、そして当時の宰相であったリードの父と、リードも傍に居たのだ。
ロゼッタの無邪気に向ける笑顔には、微笑ましく笑っていた皆だが、ロゼッタが入れる似顔絵の相手がオーギュ、リードの名前だったので、驚いていた。
当時、ロゼッタはオーギュストと迄言い難かった様で、オーギュと短縮して呼んでいた。
14歳になるリードは、将来王太子になるであろう、ロゼッタのお目付け役として傍に控えていたのだ。
『オーギュがいい!だって大好きだから!』
『っ!』
『これは参ったな………宰相』
『はっ、何でございますか、陛下』
『もし、ロゼッタに弟が出来たら、降嫁させられるのだが、その先は其方のリード公爵家でも良いか?………私は国の連携を盤石な物にしたいのだ………其方の子、オーギュストなら安心出来る』
『…………必ずしも、王太子妃殿下の第二子が王子とは限りますまい………もし、王子でなら………ですが、初恋等淡く壊れやすい物でございます………ロゼッタ殿下が大人になっても息子を好きで居てくれてるのか等………それに息子も……』
『そうであったな………オーギュストの気持ちも大切だ………時期尚早であったな』
だが、その後王太子からリードにお揃いのペンダントがリードにも贈られた。
ロゼッタのお強請りで作らされた物だそうだが、贈られた数日後、王太子と王太子妃、ロゼッタの乗った馬車が襲撃される事件が起きた。
改革を掲げていた王族派閥であった王太子と、妊娠中の王太子妃、何も知らなかったロゼッタ。
政権争いで亡くなった事を隠したかった国王は、馬車に繋がれた馬が暴走し、事故で亡くなった、という事にし、乗っていたロゼッタだけが行方不明になった事から、葬儀は王太子、王太子妃、従事した者達のだけ行ない、ロゼッタは心を病み、療養しているとされ、籍だけは残されていたのだった。
空席になった王太子の座は国王の弟に決まったが、それはロゼッタが大人になる迄の期間として据え置きされる、と国王は明言している。
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