私は競売に出された……でも終わりだと思ってたら大間違いよ!番外編【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 晩餐会は着席の仕様で行われた。
 病の国王と、悪阻の酷いロゼッタには、立ち尽くす事は難しいからだった。
 着席の晩餐会は、座る場所にも配慮が居る。
 それをかなり悩み席を決めたのはリードだった。
 要注意の4人はバラけさせられたが、着席での晩餐会でも、食事が終われば、席を立ったりするだろう。
 だから、見渡せやすい様に騎士達も配置していた。
 上座には国王と王妃、そしてロゼッタを3人並ばせ、ロゼッタの後ろにはリムルダールを張らせていた。

「外交の場は初めてですよね?ロゼッタ殿下は」
「はい………不慣れで失礼があったら申し訳ありません………今後も何かあればご指導頂く事もあろうかと思います」
「この様な美しい王女が居られたとは………しかも気が付けばもう結婚されると……残念でなりませんな」

 なるべくロゼッタの周りは既婚者で国王と親交がある各国の重鎮達を集めている。
 若い独身は離しているが、彼等には面白くはないだろう。

「あんなに遠くては話しに行けないな」
「全くだ………警戒態勢なんだろうよ」
「それに、姫の警護の騎士も、威圧感出してるし、近くに寄る奴も居ないな」
「食事が済んだら誰か動くさ」

 そんなコソコソ話も聞こえて来そうな、独身男達の目線。
 
「閣下、顔が怖いですって………その笑顔の中の顔が」
「私に付いてなくても良いですよ、ヴェルゴ伯爵」
「怖いので、付き添っております。宰相」

 リードの引きつく顔が、今迄とない苛立ちなのが分かるヴェルゴは、リードが無茶しないかを見張っている様だ。

「来賓には女性貴族も居られますから、あの独身男達も流れていきますよ」
「ほぼ、既婚者ですよ……来賓の女性は」
「…………まぁ……確かに」

 そう思って、王族派閥派の貴族も、伴侶同行で参加しているので、勿論ヴェルゴの妻、トゥーイも来ているし、ロゼッタの教師だったトランコート夫人も来ている。

「ほら、トゥーイがトランコート夫人を誘ってロゼッタ殿下に」
「…………あぁ、少し表情は明るくなるな」

 夫婦隣り合わせで食事をしている座席ではないし、リードやヴェルゴはその輪には入ってはいなかった。
 
「ロゼッタ殿下」
「トゥーイ夫人、トランコート夫人………お久しぶりです」
「この度は立太子おめでとうございます」
「ロゼッタ殿下………私は知らぬとはいえ……ずっと謝罪したかったのですが、お会い出来ず…」
「トランコート夫人………謝らないで下さい。私は気にしてませんし………あ……使って頂いたんですね」
「ま、まぁ………殿下、直ぐにお気付きになられたんですね!そうなんです!この日が初お披露目させて頂きましたわ」

 以前、トランコート夫人に譲ったレース生地をドレスのショールとして使ってくれていた。

「この日の為にある物だと思いまして」
「ロゼッタ殿下、私も頂いたハンカチを持参してますわ」
「トゥーイ夫人もありがとうございます」

 満面の笑顔で夫人達と話した事で、多少の緊張は解れたロゼッタだが、やはり目線は贈られる様で、少しずつ席を立つ男達。

「失礼、ロゼッタ王女………私と1曲踊って頂けませんか?」
「…………え……大変申し訳ありませんが、私は体調も今良くないのです。体調管理不足と言われたらそれ迄ですが、今は踊るのを控えさせて下さい………お申し出はありがたいのですが、またの機会に」
「そんな事仰らずに………」
「失礼………殿下にお手を触れぬ様お願い致します」
「…………っ!」

 手がロゼッタの前に伸びてきて、リムルダールがその手を阻んでくれた。

「ありがとう、リムル」
「いえ………まだ続々と此方に来られる様ですね」
「顔色悪いですわ、ロゼッタ殿下」
「そうですわね、明日の戴冠式も控えてますし、晩餐会が終わる前に、退出なさると宜しいのでは?」
「昨日、来賓のお出迎えも出来ていなかったので、今日は失礼な事をしたくないんです」
「…………殿下………」

 トランコート夫人がロゼッタの前の料理を見て、何となく理解出来た様だ。

「はい」
「まさか………お腹に?」
「…………はい……結婚式後に発表はする予定なのですが、分かっちゃいましたね……」
「分かりますとも……経験者ですもの」
「…………私はまだなので、羨ましいですわ……そちらもおめでとうございます」
「ありがとうございます」

 しかし、頑張っていても無理な時は無理なもので、暫くすると吐き気も出て来るロゼッタ。

「し、失礼………」
「殿下、ご一緒します」
「…………」

 リムルダールに支えられて退出するロゼッタは、リードが会場の片隅に吐ける場所を用意してくれていた方へと向かった。
 人払いをさせていた一角。
 数人の配置した騎士達に囲まれる様に、リムルダールに背中を擦られる。

「ありがとうございます………リムル……楽になれました」
「お休みになられたら?」
「駄目………こんな醜態だけでも失礼だもの……」
「おやおや………王女殿下が騎士と密会ですか?」
「!…………貴方は………ベリエフ国のオーウェン殿下?」

 絵姿もあった来賓者のリストから覚えていた顔だ。
 騎士達に囲まれ、リムルダールに支えられていたロゼッタ。
 退出した時と戻って来る所を見られていた様だ。

「此方の国は、不倫や愛人は持てませんでしたよね?明後日結婚式を挙げる男とは違うようですけど、何をしていたんです?ロゼッタ王女」
「オーウェン殿下……貴方には関係の無い事。ロゼッタ殿下は体調が優れない日が続いているのです。日取りが決まってから準備をしていた疲れが溜まり、それは致し方ないかと」

 オーウェンを遮る様に、リムルダールや他の騎士達はロゼッタを隠す。

「怪しいなぁ………この男を愛妾にするんです?ロゼッタ王女」
「い、いえ………彼は私の婚約者の弟で、私を警護してくれているだけです。今、醜態を私が見せたのは、嘔吐をするのに背を擦って下さったからにすぎません」
「婚約者の弟にそんな事させます?侍女を連れて行けば良いじゃないのかな?」
「…………ご存知かもしれませんが、城には男尊女卑が根強い為、厳選した少数の侍女しか居りません。男性貴族に恐怖する者もおり、この場は男性給餌ばかり………侍女は連れて来てはいないのです」

 侍女はロゼッタ付きと王妃付きの僅かしか勤めていない。
 それは国政を担う場所に、女を入れて来なかった名残りで、男性貴族達が嫌うからだ。
 まだ改革途中のこの国では、それさえも賛同を得られないでいる。

「体調悪いのなら、侍女を控えさせておくべきなんじゃないかな、と私は思うけど?非ぬ誤解、招くよね………新婚早々、愛妾と晩餐会に抜け出した、と広めさせてもらうかな」
「お待ち下さい!オーウェン殿下!」
「待たないよ………クククッ………」

 確かにオーウェンの言った事も一理ある。
 せめてトゥーイやトランコート夫人に付き添って貰う事も出来たかもしれなかったのだ。
 醜態を晒したくなくて、悪阻が重いのも、伝える間もなく吐きたくて来てしまったロゼッタのミスだった。
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