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しおりを挟む戴冠式が始まる。
純白のドレスは明日の結婚式に着るので、この日はレヨルド国の海の様な青いドレスを着ているロゼッタ。
肩からマントを掛ける必要が戴冠式にはあるが、重い事もあるのでマントの代わりに長いレースのショールを肩から掛けている。
勿論、このショールはロゼッタが編んだ力作だ。
国王も参列したが、式中はずっと立つ事が出来ない為、車椅子で祭壇の近くで見守っている。
---緊張するけど大丈夫……オーギュ迄歩くだけだもの……
祭壇迄の通路を挟み、来賓達が並ぶ。ゆっくりと、エスコート役のリムルダールと歩いていた。
「うわぁ……綺麗だ……可憐だよ?オーウェン……何でクセ者だって思うのさ」
「…………そうだな……セヴィル、頑張ってくれよ、賭けに勝ったんだから」
「う、うん………っ!」
「!」
「え………?」
通路側に居たセヴィル。前のめりにロゼッタを見てはいたが、ロゼッタが通る瞬間倒れて来る。
横に居たオーウェンが押した様にロゼッタには見えた。
通路側には騎士も配置していなかったリード。前後には待機していたが、来賓達が見え難いので配置はされてはいない。
「っ!………ローゼ!」
「きゃぁぁっ!」
「殿下!」
乗りかかる様にセヴィルが倒れて来て、咄嗟にリムルダールも庇ったが間に合わなかった。
ドン、と倒れる3人に、会場は騒ぐ。
リードも職務を忘れ、通路へと掛けて行った。
「お、おい……オーウェン……お前……セヴィル押し………」
「ダニー、セヴィルが勝手に倒れたんだ」
「っ!…………で、で……」
「レインもいいよな?」
「「っ!」」
殺気立つオーウェンに、レインもダニーも固まる。
「ローゼ!大丈夫か!」
「っ!………だ、大丈夫です………リムルが……」
「兄上………腹は……守りました……」
リムルダールの腕が、ロゼッタの脇腹と太腿を支え、衝撃を和らげていた。
その分、リムルダールがロゼッタとセヴィルを支えたので、肘を強打した様だった。
「セヴィル殿下も大丈夫ですか!」
「っ!…………は、はい………すいません!ロゼッタ姫!体調も良ろしくないのに……」
「ロゼッタ王女、お手を……」
リードがリムルダールの怪我の様子を見ている最中、立ち上がらせようと床に座ったままのロゼッタに手を差し伸べて来るオーウェン。
「………あ、いえ………結構です………貴方の手は借りませんから………セヴィル殿下………申し訳ございませんが、立たせて頂けますか?」
「ローゼ……」
「宰相はリムルの怪我を………私は大丈夫です」
「姫、お、お手を………」
「ありがとうございます………そのまま、祭壇迄エスコートお願い出来ますか?護衛騎士が私を守り怪我をしたので……」
「は、はい!喜んで!」
「…………ちっ!」
ロゼッタがオーウェンの手を拒み、セヴィルに頼んだ事は、また騒動になるだろう。
だが、ロゼッタはセヴィルはオーウェンの傍に居ない方が良いと考えた。
リムルダールの怪我は打撲で済んだが、その後のエスコートは、他の騎士に変わって貰い、戴冠式は終了した。
「すいません!すいません!本当にごめんなさい!姫!」
「済んだ事です。セヴィル殿下」
「ローゼ!何故彼にエスコートを頼む!」
「閣下………落ち着いて下さい……」
戴冠式が終わると、戴冠式が行われた会場の控室にセヴィルを連れて行かせたロゼッタ。
この騒ぎの元になったセヴィルに事情を聞くのは勿論、リードも納得しているが、祭壇迄のエスコートをロゼッタが頼む等、リードの嫉妬心を煽るばかりか、問題が起きる事だった。
セヴィルの侍従達さえも事の顛末を聞こうと集まっていて、レヨルド国の重鎮さえも居るので、控室はかなりの人数だった。
「ヴェルゴ、落ち着けるか!」
「宰相………」
「っ!………ロー……ロゼッタ殿下……」
「胎教に悪いです」
「っ!」
「…………え……姫………お腹の中には……」
「はい!私と夫となる彼との子が居りますわ」
「…………あ……だから……体調が……」
「はい………貴方ならばお話出来ると思いましたから」
「…………え?」
「押されましたよね………オーウェン殿下に」
「っ!」
ロゼッタの言葉で、一斉にセヴィルへ視線が注がれた。
「違いますか?」
「あ………」
「私には押された場面が見えました。セヴィル殿下が私を見ていて、横のオーウェン殿下は貴方を見ていたのを………タイミングを合わせ、私が貴方の前を通る瞬間に………」
「…………わ、悪く……言わないで下さい、オーウェンを」
「何故ですか?庇うんですか?」
「ロゼッタ殿下」
「…………宰相」
「後はお任せ下さい………念の為、医師の診断を」
「…………分かりました」
セヴィルにもセヴィルの事情があるのだろう。
ロゼッタには分からない観点でも、リードには分かる事も同性なら話せる事もあるかもしれない。
ロゼッタはセヴィルをリードに任せ、護衛騎士に囲まれ部屋へ戻ったのだった。
「あ………あら?……ショールが外れてたわ……」
「おい、誰か探しに行ってくれ」
「は、はい!直ぐに!」
だが、このショール。貴族の女達が奪い合っていた。
「私がお渡しするわ!」
「私が先に触れたのよ!」
「いいえ!私よ!」
「ご婦人方……そのショールを受け取りに参りました。申し訳ありませんが……ご婦人方が言い争う様は似合いませんよ」
「あ、あら…………嫌だわ、私ったら」
「ど、どうぞ………」
「ありがとうございます」
そのショールを探しに来た騎士は、ショールを見つけられなかった。
「あ、あれ………通路に落とされた筈じゃ……」
倒れた際、外れやすくなっていた様だ。
その後もそのショールは探したが、会場にも控室にも見当たらず、戴冠式中は付けていたのは分かっているので、それから辿っても見つからない旨を、ロゼッタに伝わった。
「見つからなかった?………誰か来賓の女性が持っていったのかしら」
「有り得る話かもしれませんね、素敵なショールでしたし」
「力作だったのに………欲しいなら言ってくれたら新しく作る事だって出来るんだけどな」
「人気ですから、ロゼッタ殿下のレースは」
この時は、ただ盗まれたと思っていたショール。それが悪用されるとはロゼッタも思ってはいなかった。
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