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知った経緯
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しおりを挟む翌朝から、グレシア子爵の取調が開始した。魔法で逃げられない様に、防御魔法で魔法が使えない部屋が王城にあり、グレシア子爵やマリア、罪を犯した者が収容されている。
「教えて貰おう………グレシア子爵」
「………」
ラスウェルは、格子の外から取調風景を見ていた。兵士がグレシア子爵に対応している。暴力を奮われて結婚式前に怪我をしない様に、という理由だ。
「何故、イルマ・クライン公爵令嬢が『聖女』だと知っていた?」
「……………」
「答えろ!」
「グレシア子爵………お前が大罪を犯している……今更黙秘した所で、話した所で、罪の重さは変わらない……自白する様にお前に魔法を掛けてもいいんだぞ?それとも、拷問でもするか?したくはないが………」
ラスウェルはドスを効かせて格子の外から話す。
「…………昔………大聖堂でイルマ嬢の『聖女神託』を聞いた………ただそれだけだ………」
「聞いた?………そんな馬鹿な!!人払いして大聖堂で確認したのだぞ!」
声を荒らげるクライン公爵。『聖女神託』は重要な為、大聖堂を貸切って国王夫妻と『聖女』の可能性のある令嬢とその両親だけが聞ける神聖なものだった。
「…………家族で……両親や兄弟達と前日に参拝に行ったんだ………そこで、グレシア伯爵だと証明する印章を俺は落とした………失くすと怒られると思った俺は、翌日探しに大聖堂へ行った」
サウスローズ国では貴族の証明になるバッチを貴族達は持っている。身分証明書で印章には各家の家紋が彫られており、魔力が込められていて、小さな子供の迷子になったり誘拐されたりすると、その魔力から場所を辿れるという物だ。外出時は特に身に着ける様に、と子供は育てられている。
「…………俺は、魔力が高かったが、使い方が下手で兄達にはよく馬鹿にされて育ったから、印章を失くしたと知られたら、余計に兄達から暴力を奮われる………だから大聖堂へ行ったら、貸切りだと言われて入れず、裏口から一目を盗んで忍び込んで探していた………貸切り、てぐらいだから、大貴族なんだろうぐらいしか思わなかった………だが、来たのは国王夫妻とクライン公爵夫妻、そして赤ん坊………俺だってクライン公爵の顔ぐらい分かる……宰相なんだからな………咎められたくなかったから、隠れていたら神託を聞いた……」
「警備は厳重だった筈………」
「知らないね……そんな事………それで印章を見つけて家に帰って両親や兄弟に話したら、誰も信じない………『聖女』が発表された所で、我々には恩恵等与えられない、王子2人の何方かの妃になり、国を繁栄に導く、と言われた………だが、何年か後にイルマ嬢が王子達の婚約者候補になったと聞いたから、子供の時聞いた、『聖女』の文献を調べ尽くした………大聖堂の書庫を確認する為に、神官にらなる努力をし、子爵の爵位を持った」
グレシア子爵は神官になった後は小さな聖堂の神官に配属されたが、『聖女』を忘れる事は無く、同時に社交界に出る様になったイルマを手に入れる事を考えたという。
バルカスに冷遇され、『聖女』の立場を隠し、当時バルカスの婚約者として噂が絶えなかったイルマを、嫌がっていたバルカスから救いだそうと、王子妃を狙う令嬢達の中から、目ぼしい者を探した。
「ドルビー侯爵令嬢は魅惑魔法の使い手だと、直ぐに分かった………神官になれば魔法の属性や効果、特徴は分かる……そして、俺も魅惑魔法を覚えた」
「覚えた、だと!!………産まれつきの特性から反対属性だったら、と考えなかったのか!」
魔法には属性が幾つもあり、反対属性の魔法は相性が悪いのだ。グレシア子爵の魔法属性と魅惑魔法の相性が良くなければ使えないし、精神迄破壊したり、暴走する可能性だってある。
「相性?………まぁ、俺無属性だったし……簡単だったから、マリア嬢とドルビー侯爵を操ってた、て訳………マリア嬢は魅惑魔法持ってるから、バルカス殿下に掛けてしまえば、イルマ嬢が手に入る、とね………誤算と言えばラスウェル殿下の存在だったけど………そこ迄見れなかった…………」
「お前…………それでどれだけの人間が操られ廃位になったと!!バルカスは廃嫡に迄なり、都へは帰れなくなったんだぞ!!」
ガシャン!!
ラスウェルが格子を掴む。2人きりの兄弟で性格に難はあったが、ラスウェルにとっては大事な弟だった。イルマの事が無ければ、関係は悪くなかったのだ。
「イルマ嬢からすれば良かったじゃないか……夜会で、バルカス殿下からどれだけ泣かされてきたか………気の毒で見ていられなかった………」
「それでも…………お前のやり方はやり過ぎだ!」
「ラスウェル殿下………だが、アンタはそれでイルマ嬢を手に入れたんだろう?…………実行していないだけで……アンタからは感謝が欲しいぐらいだ……」
「自分がした事を正当化するな!イルマがバルカスと結婚した所で、別れるぐらい予想は出来ていた!ただ、お前が介入した事で早まっただけの事!!」
ラスウェルは予想していた。イルマが義務感でバルカスと結婚した所で2人の間に出来た傷は埋まらないし、バルカスが変わらなければ、国王から廃嫡を言い渡される事等容易に予想出来たのだ。イルマがバルカスを好きになっていたら、ラスウェルも諦めただろうが、好きにはならず嫌いになる一方になるイルマに入り込む隙等容易にあったから。
犯罪が起きてイルマは幸いにもラスウェルを受け入れたというだけ。被害があるのを望んで等いない。最悪、バルカスの廃嫡のみにしたかったというラスウェル。それがいいのか悪いのか、と言えば悪いだろう。ラスウェルは腹黒いのも分かっている。それでも変わらないバルカスの報いなら受けて貰わなければ、国政に邪魔な存在になるのなら、廃除せざる得ないのだ。それが王族の責任だと思っている。それがラスウェルだった。
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