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会社で波乱
結局、日曜日のデートは昼食だけに終わってしまった。
『すまない、呼び出しが入ってな……用事が出来た』
と、昼食は羽美のペースに合わせて食べた後、律也は申し訳無さそうに、デートを終わらせた。
そして、連絡も無いまま数日、出社した羽美は、午後にとんでもない噂を耳にする。
「小山内さん、聞きました?噂」
「何?噂って」
「あ、知らないです?………係長、お見合い結婚するらしいですよ」
斉木から羽美に届いた噂。
「………お見合いをするとかじゃ……なく、もう結婚迄話あるの?」
「今、係長は常務に呼ばれてましたよね?そのお相手が来てるみたいなんですって」
「…………ち、ちょっと秘書課に行ってくるわ……これ持って行かなきゃならないし……」
―――聞きたくない!
震える手をなんとか止めながら、実際に持って行かなければならない書類を羽美は持ち、営業部を出る。
声は震えていたのだと思う。平静を保とうとすればする程、震えて行くのが分かった。
律也との交際はまだ社内では知られてはいない。律也の人気の高さから、羽美に支障が出ない様に、と『仕事モード』で朝から対応されていた羽美。だからこそ、羽美も顔に出ない様にはしていた。
―――お見合い結婚するのに、私と交際話なんてする不誠実な人だと思いたくな………え?
秘書課に向かう途中、常務室から出て来る律也と1人の女性。エスコートをする姿を見て、羽美はエレベーター横にある給湯室に隠れた。
「良い返事をお待ちしています、律也さん」
「…………ご期待に添えれるかは……まだ何とも……」
2人で歩く姿はお似合いで、上品さを備えた才女の様に見える。羽美に気付く事なくエレベーターに乗り、階下へと行く様で、戻って来るのか分からないが、羽美は早く営業部に戻る為に、秘書課へ急ぐ。
―――動いて、足!
足取りは重い。付き合う前なら諦めもついた恋心。だが、密なる関係になった一週間は、更に恋心を増長していたのだと分かる。
―――泣くな!仕事中なんだから!
涙が出そうになるのを抑え、秘書課へと足を踏み入れる。
「お疲れ様です、小山内です」
ざわざわと、秘書課内も落ち着かない。
「あ、お疲れ様です、小山内さん………あ、如何だった!常務室!」
「常務は、薦めたがってたわよ、森本係長にお相手のご令嬢」
「やだ!イケメンの結婚話!」
「あ、あの!営業部からの書類置いていきますね!」
秘書課でもいたたまれなくなり、羽美は退散しようとした。
「小山内さん!営業部では何も聞かされてないの?」
「………え……な、何を……」
「何を、て森本係長のお見合い話!」
「わ、私には分からないわ………ごめんなさい、戻らないと……」
引き止められそうになった羽美は、秘書課を出て行くと、またもタイミング悪く、常務室に入って行こうとする律也を見かけてしまった。
『ふざけんな!見合いしない、て言ったろ!勝手にセッティングしやがって!』
『あっちが乗り気なんだ!大事な取引先を無下に出来るか!お前も会社を背負って立つ人間なら分かるだろ!』
怒鳴り声が常務室から聞こえる。その声で立ち止まる羽美。
―――常務に対して暴言して大丈夫なの?
『大事な取引先なら兄貴が結婚すればいいだろ!兄貴も独身なんだから!』
『仮面夫婦を装えと言うのか!俺には無理なの知ってるだろ!』
―――え?お兄様なの?常務が?
常務と言えば、社長の息子ではあるのだが、名字が律也とは違う筈だ。『森本』ではない。
『とにかく!俺はお断りだ!』
『好きな女でも居るのか、律也』
―――!
『…………あぁ……今付き合ってる……付き合い始めたばかりで結婚話なんて出す事も出来ん………』
『………はぁ……分かった……とりあえず保留にしておこう』
『は?断れよ!』
『そうはいかん!今、あの会社と業務提携する話もある!上手く行けば、見合いはスムーズに断れるだろうが、まだその段階じゃない!』
『…………そうかよ……のらりくらり逃げりゃいいんだろ!』
『律也!何処に行く!』
『仕事に戻るんだよ!兄貴と今これ以上話たくない!』
―――隠れなきゃ!
しかし、律也の方が早く、逃げる羽美の後ろ姿が律也の視界に入った。
「羽美?………まさか、聞いてたのか?」
「………如何した、律也」
「………あ、いや……戻るよ」
ドアを開け、バタバタと足音が遠退く常務室の前。見間違える訳がない、愛しい恋人の後ろ姿に、律也は大きな溜息を吐いた。
―――知らぬ存ぜぬ、じゃあ通せないな、きっと………
❊❆❊❆❊❆❊
営業部に戻って来た羽美に待ち構える様に営業部の女性社員が羽美に集う。
「小山内さん、何か聞けました?」
「し、仕事中でしょ?戻りなさい!」
「気になるんですもん!」
「係長は皆の憧れなんですから!」
仕事をしそうに無いので、羽美は見た事を話す。
「お見合いはしたようよ、お相手も常務室にいらっしゃったわ……それしか知らない」
「小山内さんは、何も感じないんですか?」
「小山内さん、係長にそういう目を持ってないのよ」
「っ!…………そ、そうね……仕事上のお付き合いだから、上司としてしか見てないわ」
「…………あ!係長!」
―――え!
背後に、営業部に戻った律也の姿。その姿を確認すると散り散りになる社員達。
律也はまたも溜息を吐いて、自分の席へと座る。
―――如何しよう……言いたくなかった言葉を聞かれた……
羽美はその日、仕事に手がつかなかった。
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