17 / 46
縋らせたい手
「小山内さん、ちょっと」
業務終業時間の少し前。律也に呼び出された羽美。
「あ、はい」
律也のデスクに行くと、手招きされPC画面を見せる。
「これ、間違ってない?」
「………あ!すいません!直ぐに直します!」
「小山内さん、今日集中してないみたいだけど、それは仕事に関係する事?」
「…………い、いえ……関係……ありません……っ!」
身体の前に手を組み立つ羽美の手を握る律也。何かを持たせると、言葉を続ける。
「すまないが、終わらせてから帰ってね………あと、今度から気を付けて」
「申し訳……ありません……失礼します」
律也から渡された物を握り締めながら、自分のデスクに帰り、律也が指摘したファイルを開く。
―――こんな初歩的ミス……情けない……あ、コレ何だったんだろ……っ!
渡されたメモ。走り書きだろうか、字を崩して流れる様に書かれた楷書体の言葉。
『仕事終わったら、話がある』
「…………」
そのメモを破り捨てる事も出来ず、律也の書いたメモはマウスパッドの下に隠し、仕事を再開する。
―――今は集中しなきゃ……
終業時間を過ぎてから、少し経過した所でた終わった修正。律也はまだ仕事をしているらしく、報告も兼ねて先程のメモの裏に、羽美はメモを書き、律也の元へと行く。
「係長、先程のファイル、修正しました。確認して頂けると……」
デスクの片隅に、そっとメモを流し置き、律也にも分かるように目の前に残す。
「…………」
律也は無言のまま、ファイルを開く確認後、溜息を吐いた。
「…………分かった……お疲れ様」
「お先に失礼します」
『今日は、帰らせて下さい。気持ちの整理がつきません』
と、メモを残し羽美は営業部を出て行った。この一週間は夢の様な幸せな時間だったと思い、涙が溢れそうになりながら、我慢して会社を出ようとすると、高田が会社の前に立っていた。
「小山内さ~ん!」
「………高田さん?」
「今日こそ、先週のお礼させてよ」
そのまま帰るのも、気分ではなかったのもあった羽美。渋りながらではあるが、二つ返事で、高田に了承しようと思っていた。
しかし、羽美の腕を引っ張る者により、高田から引き離される。
「ちょっと来い!」
「係長?」
「高田、悪いがその礼をさせるつもりは無い!」
「………か、係長!……い、痛いです!歩きますから引っ張らないで下さい!ごめんなさい!高田さん!また明日!」
律也が慌てて出て来た様で、息を切らしながらズカズカと羽美を引っ張って歩く。それに堪らず羽美は解こうと、腕を掴む手を抓った。
「っ!」
「歩くって言ってるじゃないですか!引っ張るの止めて下さい!」
「……………はぁ……」
駅に近くなり、会社の社員もチラホラ見掛けるが、気にも止めていない様子の律也。
「羽美……」
「…………はい……」
「とりあえず、ついてきて」
「…………はい……」
羽美は、この場で拒否したら、恐らく無理矢理にでも律也に連れて行かれるだろう。その光景は律也には不利になる為、素直に従う羽美。
マンションに連れて行かれるだろうと思っていたら、隠れられそうなビルの間の物陰。
「…………聞いてたろ」
「な、何を………ですか?」
「常務室の会話だよ」
「…………聞こえたんです……怒鳴り合ってたから」
「…………ごめん……嫌な思いさせたな……」
「………っ!」
我慢していた思いが、その言葉でヒビが入る。泣くのを堪えていたのが溢れそうだった。
「俺がこっちに来てから見合い話は今迄散々あった……でも、全て断ってきている………安心してくれ………俺は羽美が好きだし、今羽美との付き合いを楽しみたいから、将来的にまだ結婚を考える時期にはないが、見合いで結婚なんて事にはするつもりないから………羽美?……そんなに泣くな……大丈夫だから」
「…………くっ…」
気が付けば涙が止まらず、律也を見つめていた羽美。頬に伝う涙も、律也から指摘され、やっと気が付く程だった。
律也がハンカチを出し、羽美の涙を拭う。
「羽美?」
「…………律也さん……好きです……誰にも渡したくない!」
「羽美………俺だってそうさ……好きじゃなきゃ焦って自分の物にしないさ……」
涙を拭き終えると、羽美をそのまま抱き寄せた律也。
「………私こそ、すいません……心にも無い事を言って……」
「………あぁ、女達に囲まれていた時の?仕方ないだろ、仕事中なら……その分、プライベートでは縋らせたくなるから、会社ではまだそれでいい………その代わり、プライベートでは甘えて我儘になっていい……今みたいな泣き顔、唆られるよ」
「…………っ!」
「………あぁ、気が付いたか?……今直ぐにでもめちゃくちゃに犯したいぐらいなんだよな………駄目か?」
抱き寄せられているので、スーツの中で硬く主張している律也の杭がむくむくと元気になっていくのが分かる。
律也は涙が完全に止まった、充血した目でいる顔の羽美を覗き込むと、目線が合った羽美は顔を火照らせた。
「よし!マンションに行くぞ!」
「…………え!平日ですよ!明日も仕事!」
「何の為に、服買って置いてあると思う?こういう時の為だろ?………拒否は却下する!もう俺その気」
先程とは違う意味の、引っ張られ方をしながら、羽美をマンションに連れ帰ったのは、もう会社の社員達の姿が見られなくなってからだった。
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。