34 / 46
航の友人
しおりを挟む割烹料亭おさない。
店裏口で、仕入れの荷を車から下ろしている航。
「っと!………で終わりだな」
「よぉ、航……久しぶりだな」
「……………裕司?……裕司か?お前」
「元気か?」
煙草を更かし、両腕をズボンのポケットに突っ込んで立つ裕司。サングラスをしていたが、航は見間違えない程、裕司の事を知っていた様子。
「お前、高校出てムショ入ったって聞いたが、それから音沙汰無しで何してたんだよ!」
「………お前、親父さんの店継ぐのか?」
「あぁ……まぁな……高校出てから調理師免許取って親父と一緒にやってるよ」
「お前、光当たる場所に行ったんだな……」
「…………お前……足掻いてんのか?まだ……」
「…………」
裕司は灰を駐車場に落とし、煙草をまた咥える。
「おい!店汚すんじゃねぇよ!ほらよ、携帯灰皿」
航は投げて裕司に携帯灰皿を渡す。
「なんだよ、灰ぐらい風で飛ぶだろうが」
「あぁ?………てめぇ、俺がどんだけ努力して這い上がって来たと思ってやがる!高校卒業して、殴られようと蹴られようと、昔に対抗していた奴らが諦める迄、地獄見たんだ!お前もムショで地獄見てた様にな!店は俺の家族の次に大事なんだよ!てめぇにもあるだろうが!大事なもんがよ!」
「…………まぁな……だが、手に入らねぇ高嶺の花だ……」
「裕司………」
「だからな………航……店は諦めろよ……家族もよ……」
「…………はぁ?」
航は、裕司に近付いて行く。血の気の多い性格の航は、幾ら更生したと言っても根本は変わりきれない部分もある。
「俺の大事なもんの邪魔なんだよ、お前の妹がな」
「あぁ!?………お前……白河酒造の回しもんか!」
「今日は警告だ……気を付けろよ、航」
―――アイツの大事なもん、て何だよ……あ、まさか………
裕司の後姿は航と似ている。雰囲気も似ていたのもあり、気が合っていて高校生の時の親友だったのだ。身分証明書さえどうにかすれば、少しメイクで航に似せれば、警察に晃司の事を取り下げる事を考えていたかもしれない。
「ふざけんなよ………アイツ……何しようってんだ、また……」
もう、連絡先等知らない。家にも行った事もあるが、裕司が刑務所に入った事で、一家離散していると、航は耳にしている。
「親父!ちょっと出掛けてくる!開店迄には戻るから!」
航は裕司の行きそうな所を探しに出た。しかし、10年以上会って居なかった者の行き場等分かる筈も無かった。
だが、航は見つける。1人では如何する事も出来ず、翌朝繁華街のとあるビルのゴミ捨て場に傷だらけで発見された。
打撲や捻挫、殴られた痕、包丁を持つ手が特に酷く、全治3ヶ月の診断だった。
「誰にヤラれたか教えて貰えませんかね、小山内さん」
「…………」
「航、答えろ!」
料理人の命である腕を負傷し、店に立てる事も出来なくなった航。心配な航の父は、警察の質問に答えない航に痺れを切らす。
「………コケたんだよ」
「転んでそんな切り傷ありませんよ、刃物やガラス破片が身体中に付きますか?小山内さん」
「俺、器用っすから」
「航!」
何を言っても、誤魔化す航に一旦引くが、警察も馬鹿では無い為、探し出すだろう。
「お兄ちゃん!何で言わないの、警察に!」
「正攻法で説得しようとして、返り討ちにあっただけだ………俺を殴ってお前に害が無きゃそれでいい………まぁ、無理だろうがな」
入院翌日に、律也と病院に来た羽美は、酷い傷の航に泣いて懇願する。
「お兄ちゃんが黙ってたって、警察に捕まるのがオチよ!ただ、証拠固めで聞いてるんだから!」
「分かってる!………分かってるさ……バレて余罪追求されたら、またムショ行きになる奴が俺をヤッたんだからな………」
「庇ってるんですか?航さん」
「…………庇ってねぇよ…別に……ただソイツの大事なもんが何か知りたかっただけだ……白河酒造と繋がりあるんでな………業務提携なんて事するんだろ?速水物産……馬鹿な俺でも分かる……警察沙汰になりゃ、立場悪くなるだろ?白河酒造もな」
「誰ですか、航さんを殴った人間の背後」
「知らね……白河酒造が経営してるバーやクラブを渡り歩いて、漸くソイツに会えて、『会わせろ』と言ったらこの有様さ」
「…………バー……クラブ………なる程ね…大人しくしてなかった、て事か」
律也は、誰か分かった様だった。
「話してくれて構いませんよ、航さん」
「相手をか?」
「えぇ、業務提携なんて優しい結末にはしません、警察沙汰大いに結構……航さんは、隠してる人物を助けたかったかもしれませんが、そこ迄されといて優しさ見せたら、それは相手には屈辱的な結果になりますよ」
航は納得したのか諦めたのか、息を吐いて整えてから、言葉を噤む。
「…………警告されたのさ……ソイツの大事なもんの敵が羽美だと言ってきた……その大事なもんに会わせてくれれば、俺だってこんなになる前に逃げて来る……羽美を敵と見做す奴は俺の敵だ、足掻くに決まってるだろ」
「お兄ちゃん………だとしても、包丁握れなくなったら如何するのよ!切り落とされてたかもしれないのに!」
「そしたら、ある手で料理人続けるさ」
航は晴れやかな表情を見せる。身体中痛いだろうに、窓の外を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる