婚約破棄された王子を拾いまして 解呪師と呪いの王子

大江戸ウメコ

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1巻

1-3

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 何冊も本や手記を読み漁り、ふと気になる内容を発見した。

「あ」
「なにか見つかったのか?」
「あー、いえ、そうですね。手掛かりはあったんですが」

 トレッサが読んでいたのは、人体のどこに魔力が溜まりやすいかを研究した書物だった。
 本によると、すでに試した血や涙、唾液以外にも、魔力を溜めやすいものがあるらしい。
 口に出すのがはばかられる内容だったため、トレッサは言葉を濁し、書物をレニーに差し出した。

「ここ、読んでください」
「ん? これは」

 レニーは書物に目を通して、少し顔を赤くした。
 無理もない。本には性的分泌液、つまり、精液や愛液といった体液に魔力が溜まりやすいと記載されていたのだ。

「これで上手くいく可能性もあるんですが……試してみます?」
「試すって、これをか? どうやって」
「えっと、レニーが出した液体を、瓶に詰めていただければいいんですが」

 トレッサが気まずい思いで提案すると、レニーは難しい顔をした。
 そして、ぎゅっと眉根を寄せてから、ゆっくり首を左右に振る。

「無理だ」
「やっぱり、ダメでしょうか。ものがものですし」
「あ、いや。渡すのが嫌というわけではないんだが、別の問題がある」
「別の問題?」

 問い返すと、レニーは宙を眺めてから、気まずげに口を開く。

「なんというか、非常に言いづらいのだが……アレがたないのだ」
「アレがたない」

 トレッサはレニーの言葉の意味をすぐには理解できず、思わずオウム返しにしてしまった。
 女性であったカチヤと長く引きこもり生活をしていたトレッサは、異性の身体に対する知識が少ない。どうにか書物で知った知識をひっぱり出し、意味を理解しようと努めた。

「つまり、性的興奮をしても、男性器が起立しないということでしょうか?」
「う、まぁ。そういうことだ」
「それは、治癒魔法では治らないのですか?」

 レニーは治癒魔法の使い手だ。男性器が起立しないというのは、おそらく身体的なやまいだろう。治癒魔法は外傷だけでなく、病気を治すのにも使えると聞く。
 トレッサはそう思ったのだが、レニーはゆっくりと首を左右に振った。

「身体的なものならともかく、精神的なものは魔法ではどうしようもない」
「精神的。なにか、そうなる原因があったのですか?」

 つい聞いてしまってから、トレッサはしまったと思った。
 身体の機能を損なうほどの精神的な原因など、デリケートな出来事に決まっている。

「あ、すみません! 話したくないなら、いいんですけど」
「いや、かまわない」

 慌ててトレッサが手を振ると、レニーはひとつ頷き、理由を話し始めた。

「俺には婚約者がいたんだ。幼い頃に決められた婚約者で、将来はその人と結婚するのだと思っていた。俺なりに、彼女を愛して大切にしてきた……つもりだった」

 レニーに婚約者がいる。そう聞いて、なぜかトレッサの胸が苦しくなった。
 自分の服の裾をぎゅっと強く掴みながら、トレッサは話の続きをうながした。

「俺が顔に酷い怪我を負ったあとも、彼女だけは変わらない態度で接してくれた。けれども、俺は見てしまったんだ。彼女が、俺の弟と隠れて口づけをしているところを。そのとき、彼女は弟に言っていた。本当は俺ではなく弟と結婚したい。可哀想だとは思うが、やはりあの顔が恐ろしいと。そして、俺が冤罪えんざいをかけられたとき、彼女は俺を信じてくれなかった。それどころか、俺との婚約を破棄して弟と婚約を結び直したのだ」

 固く握られたレニーの拳は、怒りのためか、あるいは悲しみからか、微かに震えていた。
 それが彼の受けたショックを物語っているようで、トレッサは気がつくと彼の手を掴んでいた。

「トレッサ?」
「すみません。そんなに強く拳を握ったら、てのひらが傷つくと思って」

 トレッサはそう言い訳をして、ゆっくりと彼の拳を解きほぐす。

「レニーがたなくなってしまったのは、それがきっかけなんですか?」
「ああ、そうだ。元婚約者の裏切りを知ってから、なにをしてもダメになった」

 レニーの言葉を聞いて、トレッサの胸にふつふつと怒りが湧き上がる。
 その婚約者の女性は最悪だ。レニーを裏切っていながら、表向きは彼に気があるような素振りを見せていたということなのだろう。
 しかも、肝心なときに彼を見捨てた。
 そんな女のせいでレニーが傷つくなど、あっていいはずがない。

「治しましょう。精神的なものが原因で、肉体に異常がないのなら、きっと治るはずです」
「そう簡単に言われてもだな」
「なにか試していないことはありませんか? 自分で刺激して無理だとしても、他の人に刺激してもらえばどうにかなるとか」

 トレッサの言葉に、レニーは呆れたように言った。

「他人に試してもらうなど、できるわけがないだろうが」
「私が協力します」
「は?」

 トレッサが名乗りをあげると、レニーは唖然あぜんとした。

「君はなにを言っている」
「私が試してみたら、治る可能性はありませんか?」
「それは……ないとは言わないが、どういう意味かわかっているのか?」

 トレッサは世間知らずの生娘きむすめだが、そういった知識がゼロというわけではない。
 男女の営みについては、カチヤから知っておけと何冊か書物を読まされたからだ。

「もちろん、わかっています。でも、私はレニーの力になりたいんです」

 トレッサの言葉を聞いて、レニーはごくりと唾を呑んだ。
 けれども、そんな自分を叱責するように軽く首を振り、トレッサを制する。

「年頃の娘が、簡単にそんなことを言うものじゃない」
「これは、治療です。そして、研究の一環でもあります」

 なかなか首を縦に振らないレニーにれたトレッサは、そう主張した。

「レニーの精液が呪いを解く鍵になる可能性があるんです。私は、どうしても呪いを解きたい」

 はき出した言葉は、トレッサの本心ではない。
 もちろん呪いの研究も目的だが、それだけではきっとここまでしなかっただろう。
 トレッサは解呪以上にレニーのこのやまいをどうにかしたかった。
 婚約者の裏切りが原因で出てしまったその症状を、自分が治したいと強く思ったのだ。

「お願いします、レニー。あなたの精を私にください」

 トレッサがそう申し出ると、レニーは顔を真っ赤にしながら、ゆっくりと首を縦に振ったのだった。


 さすがに研究室でそういうことをおこなうわけにはいかないと、トレッサたちはふたりでレニーの部屋へと移動した。
 ギシギシと鳴る木製の階段を踏みしめて二階に上がると、いちばん手前にあるのがレニーの部屋だ。元々はカチヤが寝室として使っていたが、彼女が亡くなったあとは物置と化していた。
 扉を開けると、ベッドと小さな机がひとつ。物置だったときの名残で部屋のあちこちにまだ荷物が積み上がっているが、これでもかなり片付いたほうだ。
 時刻は夕方。室内は薄暗く、レニーは壁に取り付けられたランプに火をともす。
 荷物を避けながらトレッサたちはベッドへと向かった。

「本当にするつもりか?」

 ベッドの前まで来てから、躊躇ためらうようにレニーが言った。

「もちろんです。といっても、私もこういったことは経験がないので、上手くやれるか自信はありませんが」

 意気込んでやるとは言ったものの、トレッサには男性経験がまったくない。
 本で少し読んだ程度の知識で、上手くやれるとは思えなかった。
 トレッサが眉をハの字にすると、レニーはゆっくりと首を左右に振る。

「いや、その気持ちだけで十分嬉しい。無理だと思ったらすぐに言ってくれ」
「わかりました。えっと、ではまず、服を脱いでもらえばいいのでしょうか」
「あ、ああ。そうだな」

 レニーは少し戸惑いながら、腰紐をゆるめて衣服をくつろげた。
 下穿きをずらすようにして男根を取り出すと、ベッドに腰かける。
 トレッサは不思議な気持ちでレニーの陰部を見つめた。
 自分のものとはまったく形が違うそれは、重力に従って力なく垂れ下がっている。
 レニーの背が高いだけあって、しおれた状態でもかなりの大きさがあった。

「まじまじと見られるのは恥ずかしいな」
「ごめんなさい。なんだか珍しくて。普通はこれが硬くなるんですか?」
「そうだな。刺激を受けるとそういう反応をするのが普通だ」
「触れてもかまいませんか?」
「ああ」

 緊張しているのか、トレッサは自分の鼓動が速くなってくるのを感じた。
 普通、恋人でなければ見ることも触れることもできない領域。
 そこに、治療という名目でトレッサは立ち入ろうとしているのだ。
 ほんの少しの罪悪感と、理由のわからない優越感。
 自分の感情を持て余したまま、トレッサはそっとレニーの陰部へと手を伸ばした。

「っ!」

 トレッサの指先が触れた瞬間、レニーの身体が震える。

「あ、すみません。痛いですか?」
「いや、そうではない。続けてくれ」

 レニーの言葉に力を得て、トレッサは片手でそっと彼の男根を持ち上げた。まだ柔らかなソレは温かく、てのひらの中で脈打っているようだった。

「どのように刺激すればいいのでしょうか?」
「そうだな。両手で包むように持って……そう、そのまま、指で軽く上下に」

 レニーに言われるがまま、トレッサは彼の陰部に指をわせた。
 どのように触ればいいのか知識も経験もないトレッサは、恐る恐る手を動かす。
 指とてのひらで上下に擦ると、柔らかな皮膚が動いた。
 トレッサの動きに従って、レニーの口から小さな吐息が漏れる。
 その音が普段の声よりもつやめいていて、トレッサの鼓動がさらに速くなった。

「このような感じで合っていますか?」
「ああ……ありがとう」

 お礼を言われたことに力を得て、トレッサの動きがほんの少し大胆になる。

「これは、気持ちがいいのでしょうか」
「ああ、とても」

 掠れるようなレニーの吐息が耳元にかかり、トレッサの顔に熱が集まっていく。
 治療のためにと、トレッサが無理やり申し出た行為だ。
 それでも、まるで恋人のような距離感に、鼓動が高鳴るのを止められない。
 微かに漏れるレニーの声をもっと聞きたくて、トレッサは懸命に手を動かした。
 てのひらの中の男根は少しだけ硬さを増したような気がするが、ち上がることはなかった。
 諦めずにしばらく刺激を続けたが、やがてレニーがトレッサを止めた。

「ありがとう。もう、ここまででいい」
「でも」
「これ以上続けても、おそらく無理だ。トレッサは十分頑張ってくれた」

 やんわりと断られて、トレッサは少し不満に思った。
 この行為をまだやめたくないと思ってしまったのだ。
 もう少しレニーに触れていたくて、トレッサは口実をひねり出す。

「刺激が足りないのではないでしょうか?」
「なに?」
「こういう行為は、生まれたままの姿でおこなうと聞いています。私の裸体では、刺激にはなりませんか?」

 トレッサの大胆な発言に、レニーは目を見開いた。
 彼の反応を見て、トレッサは不安になる。
 自分からこんな提案をするだなんて、ふしだらな女だと思われただろうか。
 もし思われなかったとしても、果たしてトレッサの身体で彼は興奮できるのか。
 食生活がお粗末だったためか、トレッサの身体は女性らしさとはほど遠く、貧相なのだ。
 背は低く、胸にもお尻にも肉が足りない。
 今までそれを恥じたことなどなかったのに、急に見苦しいように思えてきて、トレッサは慌てて前言を撤回する。

「すみません。私のみっともない身体なんかで興奮できるはずありませんよね」

 トレッサはレニーから手を離し、逃げるように身をひるがえした。
 そもそも、レニーはトレッサに触れられるのが嫌だったのかもしれない。
 それなのに、自ら身体を見せようとするなんて、呆れられても仕方がない。
 口から出た言葉を取り消して、このまま彼の前から消えてしまいたい。
 そう思って、逃げようとしたトレッサの腕をレニーが掴む。

「待て、逃げるな」
「逃げてなんて……」
「逃げようとしているだろう。これだけは言わせてもらうが、君の身体はみっともなくなどない」

 レニーに肯定してもらい、トレッサは再び彼へと向き直った。
 その言葉は本音だろうか。
 レニーは貴族だった。きっとトレッサよりも美しく、蠱惑的こわくてきな女性がたくさんそばにいただろう。
 彼の元婚約者だって、トレッサのように貧相な身体ではなかったはずだ。

「でも、私の身体なんか、見たくはないですよね?」
「どうしてそうなる。見たいに決まっているだろう」

 レニーは軽く憤慨したように告げる。トレッサは驚いて目を丸くした。

「え、見たいのですか?」
「当然、見たい」
「そ、そうですか」

 レニーに掴まれた腕が熱い。トレッサを射抜く目が熱を帯びて見えるのは気のせいだろうか。
 行くなと引き留めてくれた手が、彼に求められているかのような錯覚を呼び起こす。

「あの、このような貧相な身体でよければ、お見せします」
「いいのか? 嫁入り前の身体だろう」
「いいんです。貴族と違って、庶民はそこまで貞操にこだわりません。それに、結婚の予定もありませんから」

 このような森で暮らしていては、出会いなどあるはずがない。トレッサと同じ年頃の異性など、ふもとの村に数人いる程度だ。それも、ほとんど交流がない。結婚などできる気がしなかった。
 この機を逃せば、異性に身体を見せることなど一生ないかもしれない。
 それならば、レニーに見てもらったほうがいいのではないか。

「私の身体が刺激になるかはわかりませんが、少しでもレニーの助けになれるなら」

 トレッサはそう言って、衣服の紐に手をかけた。結びをいくつか解いて服をくつろげていく。
 男性の前で自ら肌をさらすなど、娼婦のようなはしたない行為だ。
 一枚ずつ布をはがすたび、いけないことをしているのだとトレッサの鼓動が速くなる。
 けれども、これは治療のためである。
 そう自分に言い聞かせながら、トレッサは衣服をすとんと床に落とした。
 少し日に焼けたトレッサの肌が、ランプの薄明かりに照らされる。

「あの、どうでしょうか。あまり綺麗な身体ではないのですが」

 自ら脱いだとはいえ、下着姿をレニーにさらしていることに、思った以上の羞恥が込み上げてくる。
 まともにレニーの顔を見ることができずトレッサは顔をそむけるが、それでも肌にじりじりと彼の視線を感じた。
 静かな部屋の中に、ごくりと小さく唾を呑むような音が響く。

「綺麗だ。――トレッサは、健康的な肌をしているのだな」
「日に焼けているんです。外に出ることが多いので」

 薬草採取や食材集めをしていると、どうしても日に当たる時間が長くなる。
 女性のトレッサよりも、貴族だったレニーの肌のほうが白いくらいだ。

「日に焼けた肌は、みっともないですか?」
「とても好ましいと思う。が、こんなふうに、簡単に見せるものではない」

 レニーはトレッサの肌を肯定しながらも、どこか怒ったように告げる。

「君は自分の価値をわかっていない。まさかとは思うが、俺以外にもこんなふうに肌をさらしたことはないだろうな?」

 あらぬ疑いをかけられて、トレッサは慌てて首を横に振った。

「ありません、レニーが初めてです!」

 トレッサが否定すると、レニーの表情から険がとれる。

「そうか。いや、それなら問題はないんだ。俺にならかまわない」

 レニーは独り言のように言ったあと、背筋を伸ばしてトレッサを見つめる。

「肌に触れてもかまわないだろうか?」
「は、はい」

 頷くと、レニーの手がトレッサの頬にそっと触れた。
 彼の手は、顔の輪郭を確かめるようにあごのラインをなぞり、首筋へと下りていく。
 親指で鎖骨をなぞられると、なぜだか背中がぞくりとした。

「レニー、少しくすぐったいです」
「くすぐったい? ここが?」

 トレッサとは明らかに違う、節張った手がき出しの肌を撫でる。
 直接肌に触れられて、トレッサの鼓動はどんどん速くなっていく。
 彼の手はトレッサの肩口を彷徨さまよってから、胸元へと近づいた。
 つつましやかな膨らみを隠した下着に、レニーの指がぶつかる。

「トレッサ。こちらも脱がせてかまわないか?」
「あ。でも、それは……」
「脱がすぞ」

 トレッサが許可を出す前に、レニーはあっさりと下着を取り去ってしまった。
 小さな二つの膨らみがレニーの眼前にさらされて、トレッサの顔に火がともる。

「レニー、まだいいと言っていません!」
「だが、俺は見たかった」
「あっ!」

 レニーのてのひらがトレッサの膨らみに触れた。
 トレッサの身体を確かめるように、レニーは薄く膨らんだその部分を揉みほぐす。

「あっ」

 ごつごつとした中指が先端を掠めると、トレッサの口から小さく声が漏れた。
 強請ねだるようなその声に、トレッサは恥ずかしくなって慌てて口を閉じた。
 けれどもそれをとがめるかのごとく、レニーはトレッサの胸元で手を動かす。

「その声、腰にくる。もっと聞かせてくれないか?」
「そんな、待って。ああっ」

 トレッサの制止を無視して、レニーの手は容赦なくトレッサの胸をいじり始めた。
 彼の手が動くたびに、ささやかな柔肉が形を変える。
 いただきの蕾に触れられると、トレッサの口から何度も短い声が漏れた。

「あっ、んっ、レニー」

 レニーはトレッサの様子を楽しむように、先のとがりを二本の指で挟んで、ぐりぐりと押しつぶす。
 そのたびに、トレッサの身体に小さな熱がともって、おかしな気分になってしまう。
 お腹のあたりに熱が溜まっていって、もっと触れてほしいと懇願しそうになるのだ。

「レニー、あっ、もうやめてっ」

 未知の感覚が恐ろしく、トレッサはレニーに訴える。

「治療を手伝ってくれるのだろう? これが一番効いている気がする」
「そんなっ、あんっ」

 身体を見られる覚悟はしていたが、こんなふうにもてあそばれる覚悟はしていなかった。
 レニーを興奮させるどころか、トレッサが一方的に熱くさせられてしまっている。

「こんなものが、治療になるわけ……あんっ、ありません」
「そんなことはない。ほら」
「あ」

 レニーにうながされ視線を下げると、彼の下半身が先ほどよりも硬くなっていた。
 自分の痴態を見てレニーが興奮しているのだと思うと、トレッサのお腹のあたりがじんわりと熱くなる。

「これは治療だ。だから、こっちに来い。俺の上に座って、そう」

 レニーに言われるがまま、トレッサはレニーに背を向けた状態で彼の膝の上に座る。
 すると、レニーは背後から抱きしめるような形で腕を回し、再びトレッサの身体をいじり始めた。
 彼の温かな唇がトレッサの肩口に吸いつき、指はトレッサの官能を探るかのごとく肌のあちこちをいまわる。
 指でぐるりと円を描くように胸肉をほぐされ、かと思えば、突然二本の指先で赤くれ上がった蕾を転がされる。そのたびに、トレッサの身体はびくびくと震えた。

「あっ、まって、そこばっかり、ああんっ」
「トレッサの、その声が好きだ。もっと聞かせてほしい」
「そんな、あっ」

 レニーが与えてくれる、痺れるような刺激にじっと耐えていると、お尻のあたりにぐりぐりと硬いものが当たることに気づいた。
 レニーの下腹部が硬くち上がっているのだ。
 責め苦の合間を縫って、トレッサは荒い息をはきながら後ろを振り返る。

「レニー、そろそろいいのでは?」
「いいとは、なにが」
「もう、硬くなっています。採取を……あっ!」

 トレッサがそう言った瞬間、なぜか責めるようにキュッと先端を摘ままれる。

「あっ、レニー、とめて、あっ」
「あと、少しだけ」

 レニーは名残惜しむように、ぐにぐにと指先を動かした。
 トレッサが涙目になってレニーを睨むと、彼は小さくため息をついて、ようやくトレッサを攻める手を止める。

「それでは、もう一度触ってみてくれるか?」
「はい、もちろんです」

 トレッサは頷き、身体を反転させて再びレニーの男根に指をわせた。
 トレッサの指が往復するたび、レニーの口からなまめかしい吐息が漏れる。
 けれどもそれだけで、一向にレニーが達する気配はなかった。
 それどころか、てのひらの中で硬さが少しずつ失われていく。

「すみません。あまり気持ちよくありませんか?」
「そういうわけじゃないんだが……すまない。やはり、ダメなようだ」

 レニーは諦めたように息をついて、トレッサの動きを止めさせた。

「こんなにも協力してもらったのに、上手くできなくてすまない」

 レニーは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「とんでもない。私こそ、下手ですみません」
「そういうわけじゃないんだ。ただ……なんというか、やはり彼女の顔がちらついて」

 彼女というのは、おそらく元婚約者のことだろう。
 それがわかって、なぜかトレッサの胸が苦しくなった。
 今、レニーの隣にいるのはトレッサだ。
 それなのに、レニーの頭の中には、まだその裏切ったという婚約者が住みついている。

「まだその人のことが好きなんですか?」
「違う、そうじゃない。そうじゃないんだが、彼女にみにくいと言われたことが忘れられない」

 レニーは軽く指で顔の傷をなぞる。

「トレッサはこんなにも尽くしてくれるのに、やはり心のどこかで疑ってしまうのだ」
「顔の傷ですか? 私はなんとも思っていませんけど」
「わかっている」

 わかっていると言いながらも、レニーは苦しそうに顔を歪め、目を伏せた。

「トレッサが呪いにしか興味がないことも、解呪のために全力を尽くしてくれていることもわかっている。自分の身体を犠牲にしてまでだ。君にとっては、俺の傷なんて些細ささいなことなんだろう」

 レニーの言葉を聞いて、トレッサはもどかしい気持ちになった。
 たしかに、レニーを拾ったのはその呪いがあったからだ。


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