忍の恋は死んでから。

朝凪

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第3章

訪問者

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まだ日が高く昇っているうちに、佐助は誰もいない校庭を重苦しい足取りで歩く。

真田を保健室に運んだあとは、とても授業なんて受ける気分じゃなかった。

北条に当然、何があったのか聞かれたが、佐助はなにも言えずに学校を飛び出してきた。

『…最悪だ。』

鞄もコートも教室に置いたまま帰路についたため、凍てつく風が容赦なく突き刺さる。幸い、家の鍵はいつもスラックスのポケットに入れているため、野宿する心配はないが。

『真田…、もう目を覚ましたかな…』

この時代に来てから、佐助は一度も忍術を使った事はなかった。というのも、加減を間違えれば簡単に相手の命を奪ってしまうからである。

あの時、もしあと少しでも術を解くのが遅かったらもしかしたら真田は…。

そこまで思考が至った瞬間、ぞくりと背筋に悪寒が走った。

『くそっ…!』

また自己嫌悪に襲われ、佐助は頭を抱える。

任務の為なら家族でも朋輩ほうばいでも躊躇うことなく手にかける忍であった筈なのに。

こんなに自分を制御できなくなるのは、決まって‘幸村’が関わっている時だけだった。

『明日、小太郎になんて言おう…。』

佐助の担任になった以上、真田とは嫌でも顔を合わせなければならない。いや、下手すればもう自分は退学になる可能性だってある。

そうぼんやりと考えてる内に、佐助はいつの間にか自分のアパートの部屋の扉の前に立っていた。のそのそとポケットから鍵を取り出し、中へと入る。

日当たりの悪いせいで、部屋の中はまだ昼間だというのに薄暗く、外とたいして気温が変わらない。佐助はすぐに電気ストーブのスイッチを入れて、制服のまま万年床と化している布団に潜り込む。

『こんなに気疲れした一日は初めてだな…。』

瞼を閉じると、羞恥と悔しさで涙が滲んだ真田の顔が蘇る。目尻を朱色に染めた真田は、目眩がするほど艶やかで、佐助の理性を簡単に奪い去っていく。

だが気の昂りと同時に、身を斬られるような罪悪感に襲われ、佐助は益々身動きが取れなくなっていた。

知らないふりをするには、あまりにも永い時間が流れすぎている。

このまま手の届く距離にいられたら、自分自身を抑えられなくなるかもしれない。

「…俺が、此処から消えるしかないのかもな…」

それが自分にとっても、何よりも真田のためにも一番いい選択かもしれない。

佐助が真田の首筋につけた痕…。

きっと北条は気付いている筈だ。

誰かに見せ付けるような所に付けた痕は、餓鬼みたいな独占欲と稚拙な欲望の証。

「…馬鹿みてぇ…」

段々心地よい室温になってきたのを肌で感じながら、佐助は意識を沈めていった。




















……
………







「…っ…?」

真っ暗な部屋の中で、電気ストーブの橙色だけがぼんやりと浮かび上がっている。夜の帳に包まれた空間に、無機質な音が聞こえたような気がして佐助は寝惚け眼を擦る。

気の所為かと再び布団を被った時、

ピンポーン

と、チャイムの音が鳴った。しかし、身体は鉛のように重く、佐助はとても布団から起き上がることができなかった。

それに、今は誰とも会いたくない。

佐助は訪問者には悪いが、居留守を決め込むことにした。部屋の電気も付いていないし、すぐに留守だと諦めるだろう。

そう自己完結し、佐助は再び目を閉じる。しかし、

ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!

と何度も呼び鈴を連打され、佐助はガバリと半身を起こした。

このしつこさはきっと小太郎だ。

前に佐助が風邪で学校を休んだ時も、うつるから見舞いには来るなと言ったのに頑として聞き入れず、部屋に入れるまでずっと呼び鈴を鳴らされたことはまだ記憶に新しい。

「ったく!今日という今日は速攻帰ってもらうからな!」

今は小太郎とでさえも一緒にいたくない。

佐助はずかずかと大股で玄関に辿り着くと、勢いよくドアを開け放った。

「おい小太郎!悪いけど今日は帰ってくれ……」

佐助はドアを開けたことを激しく後悔した。

何故ならそこにはーーー、

「さ…真田…」

佐助が今、最も会いたくない奴が立っていたからだ。

「遊馬…、話がある。入れてくれないか。」

仄暗い外灯に照らされた真田の端整な顔は、暗い影を落とし、よく窺い知ることができない。

だが、真田が何か言いたそうにしているのはわかった。

『俺への処罰の事…だろうな。自宅謹慎か、あるいは退学処分…。』

なんてことはない。思いの外早くケリがつくだけだ。

佐助はもう、真田と離れる覚悟はできていた。
例え、もう二度と逢えなくなるとしても。


「…入れよ」


だけど佐助の手は、情けないくらいに震えていた。



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