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第4章
変わらぬ日常
しおりを挟む佐助はあれ以来、真田ときっぱり関わるのをやめ、いつもと変わらない日常に再び飲み込まれていった。
真田は佐助に処罰を下すことなく、次の日も何ら変わらない様子で通常通りの授業を行っていた。
まるで初めから何もなかったかのように。
だけど確実に、佐助の感情は少しずつ削れていった。きっとこれは自己防衛本能だろう。
こうでもしないと、自身を保てなくなるとわかっていたからだ。
そうしてまた、特に変わり映えのない一日が過ぎようとしていた。
「なあ佐助!冬休み、なんも予定ないならどっか遊びに行こうぜ!」
今日最後の授業が終わり、佐助が足早に帰ろうとしていた時だった。
突然小太郎に腕を掴まれ、佐助は面倒くさそうにため息を吐く。
「悪いけど小太郎、冬休みはほとんどバイト入れてるから無理だって。」
バイトは今テスト週間ということで、二週間程休みをもらっているため、その分冬休みに殆どシフトを組んでもらっている。
「でも毎日じゃないだろ?一日だけでも遊びに行こうよ!」
「それよりもお前、期末試験は大丈夫なのか?うちの学校じゃあ赤点を一つでも取ると冬休みのほとんどを補習で潰されるじゃねえか。」
話題をすり替えると、小太郎はわかりやすく顔を強張らせて動きを止めた。
「ど、どうしよう佐助…。今回のテストは、俺の苦手な公民と歴史がある!」
「いや公民と歴史は前期もお前赤点だったじゃねえか。まあ俺も歴史はギリギリだったけどよ。」
「なあ佐助、テスト終わるまでバイトないって言ってたし、期末まで一緒に勉強しようよ!佐助って暗記系得意じゃん!」
歴史は嫌な事を思い出しすぎるから、そもそも佐助は勉強をしないのだが、こと暗記に関しては、間者の生きる術そのものだったと言っても過言ではない。
佐助が間者だった頃は、現代みたいな記録メディアはもちろんないし、メモを取ったりして万が一外部に漏れたら首が飛ぶしで、自ずと記憶するしかなかったのだ。
佐助の生きるための暗記法は、今の時代のものとは根本から違う。そもそもそんな方法など、一日や二日で到底身につくものではない。
「俺の暗記は昔からの癖みたいなもんだ。小太郎には無理だよ。」
「えー、そんなぁ…。どうしよう。」
がっくりと項垂れた小太郎は、うーんと頭を抱えて逡巡する。
「まあ試験まであと一週間はあるんだし、その間くらい頑張って机と向き合ってみろ。」
佐助は小太郎の頭をくしゃりと撫ぜ、教室を出て行こうとしたその時、
「遊馬と渚!話があるからちょっと来てくれないか。」
よく通る声が呼び止めた。
佐助はピクリと肩を震わせ、ゆっくりと振り向く。
「はーい!なんですか、真田先生?」
小太郎が素直に真田の元へと走っていく。佐助は少し躊躇いながら小太郎の後に続いた。
「実はな、明日の放課後から生徒達の苦手科目に応じた個別指導が行われる事になったんだ。」
「個別指導?」
「そう。遊馬と渚は歴史が苦手みたいだから、明日から俺が二人の個別指導したいと思うんだけど…。明日の放課後から何も用事ないか?」
ーーー嫌だ。
『俺は必要最低限以上、真田と関わりたくない。』
それは真田も同じだろう。
だけど担任と生徒の関係である以上、真田が自分と否が応でも関わらなくてはいけないことはわかっている。
何か適当に理由をつけて断ろうした時、
「大丈夫です!俺もテスト準備週間で部活ないし、佐助も、バイトないって言ってたもんな!」
「っ!」
「そうか。じゃあ二人とも明日の放課後から頑張ろうな。」
取り付く島もないまま、真田は踵を返して早々と教室から出て行ってしまい、小太郎の馬鹿正直のせいで、佐助はあっさりと逃げ道を見失った。
「嘘だろ…」
「どしたの佐助?」
悪気のない無垢な顔を傾げ、小太郎が不思議そうに佐助を見上げる。
佐助は理由を話せる訳もなく、ただ呆然と小さくなっていく真田の背中を見つめていた。
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