忍の恋は死んでから。

朝凪

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第4章

memoire-メモワール-

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トゥルルル、トゥルルルーーー、



数回の呼び出し音の後に、ガチャリと受話器を取る音が聞こえた。

「はい、月城つきしろです。どうしたの?佐助君。君が休みの時に連絡してくるなんて珍しいね。」

低く落ち着いた声が、優しげに佐助に問い掛ける。

「すみません。あの、突然で申し訳ないんですけど今日の夜ってシフト入れませんか?」

「うん、それは構わないけど明日の学校は大丈夫なのかい?」

「はい、問題ありません。」

「わかった。じゃあ、いつもの時間においで。待っているよ。」

手短に話し終えて電話を切り、佐助はほうと息を吐いた。

『少し、自分の気持ちを整理しないとな…。』







 

………
…………









ネオンがキラキラと輝き、昼間のように辺りを照らす。

仕事帰りのサラリーマンや、出勤前のキャバ嬢達が悠々と闊歩する夜の街をぼんやりと眺めながら、佐助は迷う事なくとある場所へと向かう。

佐助はネオン街の少し外れにある、商業ビルの中へと足を踏み入れた。

「おはようございます。」

そう言いながら、佐助がmemoireメモワールと書かれた看板の横の硝子戸を開けば、カランカランと取り付けられた鈴が乾いた音を鳴らす。

「おはよう、佐助君。」

佐助を笑顔で出迎えてくれたのは、この完全会員制BAR、memoireのマスター、月城ディオンだ。

ディオンは、日本とフランスのハーフで、日本語とフランス語を流暢に話すバイリンガルであり、四十過ぎとは思えない程の美貌の持ち主でもある。

綺麗なブロンドの髪に、透き通ったサファイアのような瞳は日本人離れしていて、背丈も佐助より少し高い。

男らしい引き締まった身体は、シワひとつないアイロンのかけられたノーカラーのYシャツに、黒の蝶ネクタイと黒のベストが、嫌味なくらい彼には似合っていた。

ディオンの微笑み一つで、十人の女の子は確実に落ちるという噂は、この界隈じゃ有名である。

しかし、ディオンは営業スマイルを女の子にふり撒く事はあっても、決して恋愛感情を向ける事はない。

「それにしても佐助君、今日も君は綺麗だね。どう?そろそろ僕と二人きりで…」

「飲みにはいきません。ディオンさん、それ何回目ですか…」

「ははっ、相変わらず手強い子だね。」

佐助が呆れ顔で返すも、ディオンは少しだけ肩を竦め、なんてことないといった様子で、スタッフルームへと消えていった。

そう、彼はゲイだ。

だけど先程のやりとりは、あくまでちょっとした戯れであり、本気じゃない。

佐助が大学生だと偽って、ここでボーイとして働き始めてからずっと言われ続けている誘い文句も、今やディオン特有の挨拶みたいなものだ。

memoireに面接に来て、彼に最初に言われた

「僕、ゲイだけど一緒に仕事できる?」

という、強烈過ぎるカミングアウトは今でも記憶に新しい。

そして佐助が生きてきて初めて、小太郎よりも先に前世のことを、幸村を好きだと打ち明けることができた人でもある。


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