忍の恋は死んでから。

朝凪

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第13章-過去改過自新篇-

佐太夫の遺言

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2日前、真田家の屋敷に幸村を運び込み、御典医に治療を任せた佐助は単身で古寺へと乗り込んでいた。

しかし斯波裡しばうらの連中の姿は八雲も含めて誰一人として無く、真新しい血の跡が残っているばかりだった。

佐助は血の臭いを辿るも、途中川を越えたのか行方は終ぞわからなかった。

佐助が帰路に着くと、幸村が負傷したとの噂は既に屋敷中に広まっており、当然の如く佐助は幸村の父である昌幸に呼び出された。

佐助は昌幸に、今回の騒動の件について包み隠さず全て打ち明けた。

幸村を亡き者にしようと画策し、斯波裡と手を組んだ事や、裏切り者である筈の己を庇い、幸村が負傷した事。

「幸村様の御身に傷を付けたのは、他でもない俺自身…。その代償は、如何様にもお受けするつもりです」

佐助は何度も床に額を擦り付けた。

真田家当主の大事な御子息を裏切り、剰え命を危険に晒したのだ。打首獄門にされても生温いくらいである。

卯月流忍術の一族諸共、末子に至るまで根絶やしにされても文句は言えない。

昌幸は暫く口を開かなかった。久遠のような静寂が辺りに広がる。

佐助の背中にたらりと冷たい汗が伝った。

おもてを上げろ佐助」

「は…」

ゆっくりと視線を上げると、昌幸は無精髭を撫で付けながら佐助を一瞥した。

「お前、佐太夫の遺言を覚えているか?」

「………え?」

叱責や怒号ではなく想定外の事を聞かれ、佐助は困惑した表情を浮かべる。

「あの、確か次男である幸村様に仕えるようにとの事だけが書かれていたと記憶しておりますが…」 

「そうだ。ならば、もう答えは出ておるな」

「?」

昌幸の意図がわからず、佐助は眉間に皺を寄せる。

「わしはただ、真田家当主として今回の騒ぎの発端と経緯を聞きたかっただけだ。医者によれば幸村の命に別状はないらしい。わしは息子が無事ならそれだけで十分だ」

「なっ…!」

昌幸はそれだけ言うと、立ち上がって部屋から出て行こうとする。佐助にとっては、到底納得のいかない返答であった。

「お待ち下さい昌幸様!!それでは俺の気が済みません!」

昌幸はゆっくりと振り返る。

「言うたであろう。既に答えは出ていると。お前が仕えているのは幸村に対してだけだ。ならば、お前に沙汰を下すのはわしじゃない。幸村自身だ」

「……っ!」

「佐助よ、今ならもう分かるのではないか?佐太夫が何故なにゆえ、幸村に仕えろと申したのかが」

全てを見透かすような、だが底抜けに優しい光を孕んだ目を細めて、昌幸はカラカラと笑った。

幸村とよく似た顔でーーー。

「この件、わしが預かろう。この事は他言無用だ」

そう言い残すと、昌幸は踵を返して悠々と去って行った。



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