忍の恋は死んでから。

朝凪

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第13章-過去改過自新篇-

忠義と矜恃

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「そうか…。奴は死んだのか…」

幸村は何処か憂いを含んだ表情を浮かべ、ふと息を吐く。

「幸村、今回の件については全て昌幸様に打ち明けた。その上で俺への沙汰は、お前自身が決めろとの申し付けがあった」

「え…父上が?」

あれだけの不祥事を起こした佐助を拘束せず、そのまま幸村の世話をさせている時点で、昌幸が意図していることが幸村にはなんとなく理解できた。

『ふっ、やはりまだ俺は父の足元にも及ばぬな』

今日に至る迄、誰よりも佐助の側に居たのは他でもない自分自身なのに、佐助が抱えていた闇や苦悩を見抜く事が出来ず、結局死人も出してしまった。

幸村は自嘲気味に微かに笑う。

でもきっと昌幸は、佐太夫が遺した遺書を読んだ時から、なんとなく察していたのだろう。

誰よりも人の心を汲むことに長けている昌幸だからこそ出来た芸当だと言えば早いが、幸村にはまだそこまで割り切れなかった。

「悔しいな………」

「え?」

「あ、いや何でもない」

ポツリと溢れた本音を、幸村は慌てて呑み込んだ。気恥ずかしさで俯いていると、不意に佐助は居住まいを正し、真剣な眼で幸村を見つめた。

「…幸村。俺はお前を裏切り、殺そうとした。その過去はもう変えられない。でもお前はそれでも俺の事を家族だと言ってくれた」

「………」

己の失態を恥じる様に佐助は唇を噛む。

「この命一つでは到底贖えない罪を俺は犯した。幸村が死を望むなら、俺はそれを受け入れる」

「な…っ!佐助、俺はそんなこと…」

「分かってる!」

幸村の声を遮り、佐助は声を上げた。

「…いや、分かったんだよ。お前がそんな事を望んだりしない事は。本当は誰よりも強い筈なのに、決してその力を公にしなかったのは、お前が何かを護る時にしか見せなかったからなんだろう?」

「………」

いつになく饒舌な佐助を見て、幸村は無言で先を促す。

「俺はな、幸村…。生まれて直ぐに親に今の里に売られた。人を騙し、殺す術を叩き込まれ、それに何の疑問も持たずに今迄生きてきたんだ。この手にはもう、消えない程血の臭いが染み込んでいる」

佐助はぐっと拳を握る。その手は微かに震えていた。

「俺はこの先もきっと日陰を歩む人間だ。その生き方しかできない。もし、それでも幸村が良いと言ってくれるなら………。俺は、残りの人生も命も全てをお前に託したい」

「!」

嘘偽りのない、真っ直ぐな言葉だった。

読心術など使わなくても、佐助の決意と覚悟は幸村に痛い程伝わった。

「虫のいい話だと言うのはわかってる。でもお前に拾って貰ったこの命、せめて獣としてでは無く、幸村だけの陰として使ってくれないか」

「佐助…」


ーーーただ、真田幸村の陰として生きる。


忍である佐助にとって、これが最大級の忠義の証だった。

ポタリと幸村の手の甲に滴が弾けた。

「お、おい幸村!お前…何泣いて……」

「………え………?」

ぽろぽろと小さな涙が幸村の頬を伝った。佐助は予想外の反応に狼狽する。

「や、あの…っ、すまん。…あれ?何で俺…」

幸村は着流しの袖で顔を覆い、目元を拭う。それでも涙は止め処なく溢れてきた。

初めてだった。

真田家を背負って立つ信之の顔を立てるために自ら一線を引いていたとは言え、心の底から己に忠義を尽くし、命を懸けようとする者は幸村の周りにいなかった。

決して孤独だった訳じゃない。

だが心の何処かで、武人としての矜恃を出しきれない自分に対しての焦燥感もあった。


『そうか、俺は………』


ずっと誰かに、本当の自分を認めて欲しかったのかもしれないーーー。

幸村は涙で濡れた顔を上げ、凛とした声で言った。

「佐助、今日からお前は俺の唯一無二の陰となり、命尽きるその時まで俺を支えて欲しい。佐助の生涯を、俺に預けてくれないか」

「ーーー!………主人あるじの、御意のままに…っ」

佐助は深々とこうべを垂れた時、微かに嗚咽を漏らしたのを、幸村は聞き逃さなかった。
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