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第10章 -過去追想篇-
斯波裡
しおりを挟む太陽が西へ傾きかけた頃。
城下町を行き交う人々の往来はますます増え、町全体が活気に溢れていた。
「しっかし…。なんか随分騒がしいな。」
暮六つ時の鐘を遠く聞きながら、佐助は茶屋の店前に据え置かれた長椅子に腰掛けて団子を頬張る。
もうすぐ日が暮れるというのに、皆何処と無く忙しない。足腰には自信があるが、如何せんどこを歩いても人ごみに飲まれてしまう。
佐助は体力よりも精神的に疲弊していた。
「おや、お客さん初めてかい?この城下町に来るのは…。」
「あ、いや…。そういう訳じゃないんだけどよ。なんか、いつもとこの町の雰囲気が違うなぁって」
佐助が独りごちていると、無精髭をたくわえた店主に声をかけられた。
店主は気のいい声で笑い、佐助の隣に腰を降ろしてお茶を淹れる。
佐助は有り難くそれを受け取り、ゆっくりと嚥下した。緑茶の馨しい香が鼻孔を擽り、ほうと息を吐く。
「なんだ、お前さん知らないのかい?もうすぐ、豊盛祭の季節じゃないか。それで町のみんなは浮き足立ってんのさ。」
「あー、そういえば…。」
この城下町では毎年、真田家が主催する農民や商人、誰でも参加出来る豊作・商売繁盛を祈願する豊盛祭というものが開かれている。
数日前に、佐助は幸村に祭の手伝いを頼まれていたことを思い出した。
「毎年豊盛祭で振舞われる料理は全て無料!!身分も立場も関係なく、誰でも平等に楽しめるようにと…。これは幸村様の提案らしい!いやはや全く、あの若さで頭が下がるよ。」
「……ほう。幸村‘様’がね…。」
佐助はほんの一瞬だけ眉を顰めるも、すぐにへらりと表情を崩す。この僅かな変化に店主が気付く筈もなく、嬉々として話を続ける。
「彼の方は、間違いなく人の上に立たれるべき器を持っておられる!あれ程、町のみんなに慕われているお方はそうはおるまい。」
熱弁する店主を余所に、佐助の心にはもやもやとした蟠りが渦巻いていく。
そんな噂は、今日はもう嫌という程聞いた。
農民たちに混じって収穫を手伝っているとか。
よく子供たちの遊び相手になってくれるとか。
暴漢に襲われていた町娘を助けたとか。
飯処の親父に、万屋の店主。町娘に子どもたち。
真田幸村という男のことを、まるで自分の事の様に話し、皆一様に口を揃えて自慢するのだ。
『…もしこの話が本当だとしたら、やっぱりあいつは武将には向いてねえな。』
人を護れるか否かは、己の力量次第。中途半端な優しさなど、戦場で何の役にも立たない。
佐助は常々そう思っていた。
半ば店主の話を聞き流していると、唐突に店主は声の音量を数段落として、小声になった。佐助は不思議に思い、再度店主の話に耳を傾ける。
「そういえば嫌な噂をこの前耳に挟んでね…」
「…嫌な噂?」
「ああ。お前さん、斯波裡って知ってるかい?」
「斯波裡?それって確か、戦に敗れた落武者たちで構成された盗賊団のことだろ?」
この時代では特に珍しいものでもない。敗戦した国からは、必ずそういう輩が生まれるのだ。
斯波裡は、最近巷を騒がせているその落武者集団の一つである。
「いやね、彼奴らの頭を張っているのが、元々武田家と敵対してお家取り潰しになった、八雲って男みたいで。その武田家の忠臣だった真田一族を相当恨んでるって話なのよ。どうやらその斯波裡がこの町に潜り込んで、真田家の方々に復讐しようと画策してるとか…。」
武田家ではなく、その家臣に恨みの矛先を向ける時点で相手の器は知れた。
斯波裡には腕利きも多く、南蛮由来の武器の密輸まで着手しているらしいが、所詮寄せ集めの烏合の集。佐助ならものの数分で壊滅させられるだろう。
「…ふうん。でも、あくまで噂なんだろ?大体、茶屋の親父にまで知れ渡ってるなんて、とんだ間抜け集団じゃねえか。」
「んー、まあそうなんだけどなぁ。」
「ま、色々と面白い話が聞けて楽しかったよ。じゃあな親父。ごちそーさん。」
佐助は興味のない体を装い、店主に団子代を差し出して立ち上がる。
「あ、おいお客さん!代金が多いよ!」
「気にすんな。取っとけよ。」
『いい情報をくれたお代も含まれてるからな』
佐助は少し不透明だった夜の予定を変更した。
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