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第10章 -過去追想篇-
色里
しおりを挟む日もとっぷりと暮れ、月が夜空に高く昇った頃。
佐助は再び城下町を闊歩していた。
先刻手に入れた情報を確かめる為に、佐助は手当たり次第に酒場や裏路地、賭博場を訪れていたが、有益な情報は依然として掴めない。
『流石にそう簡単にはいかねえか』
斯波裡は、落武者の集団だが腐っても武士である。個々の自己主張が強く、一枚岩となるには容易ではないだろうと佐助は踏んでいた。
きっと娯楽場などで居丈高に、真田家への復讐計画を曝露しているのではないかと思っていたが、奴等もそこまで馬鹿じゃないようだった。
ちらほらと、斯波裡の連中らしき人物を見かけたという証言は得られるものの、今ひとつその先に進めない。
『あと、探してない処はあそこか……。』
色里、いわゆる遊女屋であるーーー。
斯波裡は全て男で構成されている。女に飢え、欲を満たそうとしている奴が居ても不思議じゃない。
男を悦ばせる術を心得ている遊女たちは、聞き上手でもある。もしかしたら、斯波裡から何か重要なことを聞き出しているかもしれない。
佐助はそう思ったのだが、どうも足取りは重かった。
遊女と話すには、客として店に出向かなきゃならないからである。
佐助は房術に多少の心得はあるが、任務やそれ以外で女と交わった事は数える程度しかないのだ。
好き好んで性交しようとも思わないし、無駄に体力を使うこの行為は、どちらかと言うとしたくないというのが本音だ。
『…ま、そんな悠長な事も言ってられねえか』
佐助は腹を括り、色里へと足を踏み入れた。
…
……
………
赤い格子の向こうには、煌びやかな衣装や装飾を身に纏い、病的なまでに真白い肌を惜しげもなく晒して怪しげな色気を醸し出している遊女たちが、道を行き交う男たちを誘惑している。
まるでこの空間だけ別世界だ。
佐助は遊女屋には任務で何度か訪れた事があるが、何度来ても慣れるものじゃない。
「ちょいと、そこの男前のお侍様!わっちの店に寄ってかないかい?」
「きゃー!わっちたちの所にも来てよ!いい思いさせてあげるよ。」
煙管を吹かしていた遊女たちが佐助を見るや否や、格子から身を乗り出す勢いで迫ってきて思わずギョッとする。
だが、佐助は得意の作り笑いを顔に貼り付けて格子に近付いた。
「お、嬉しいねぇ。そのいい男ってのは俺の事かい?あんたらみたいな別嬪にそう言われるとは、男冥利に尽きるってもんだ。」
慇懃に答えながら、佐助は軟派な態度で遊女たちの手を格子越しに取り、ちゅっと音をたてて手の甲に口付けを落とす。
遊女は紅をさした頬をさらに朱く染め、陶酔した表情を浮かべた。
これは、佐助が女を口説き落とす際に使う常套句。
相手と視線を合わし、呼吸が重なった瞬間に覇気を送り込み、一種の催眠状態にして、一時の間だけ言いなりにさせる術である。
「なあ、そういえばお前さんたちの中で斯波裡を名乗っている男たちを知っている奴はいないか?」
遊女の頭をポンポンと撫でながら、佐助はさらりと本題に入る。
「斯波裡?…それって確か、あの盗賊紛いなことをしているっていう噂の…。それなら、さっき見かけたよ。」
「ほんとか!?何処に行ったか教えてくれ。其奴らに用があるんだよ」
佐助の読みはやはり外れていなかった。しかし、遊女の顔がみるみる怪訝な顔付きになっていく。
「…なら、お侍様も“そっち”に興味がお有りということかい?」
「?どういうことだ。」
質問の意味がわからず、佐助は首を傾げる。
「彼奴らが入って行った店の名は“艶”。陰間茶屋でありんす」
「…なに?」
陰間茶屋とは、簡単に言えば男が男に身体を売る、男色専門の店の事だ。
「あの店は、言っちゃあ悪いけど評判は良くないから、あまりお勧めはできないよ。ああいう怪しげな男たちが出入りしているのも少なくないし。」
「そ、そうか…」
動揺を隠す様になんとか平静を装うも、内心佐助の心算は早くも崩れ去った。
男を抱いた事がない訳じゃない。
房術は女だけではなく、男との性行為の仕方も体得する必要がある。
男色は武士の嗜みとまで言われている時代に於いて、任務で男と関係を持たざるを得ない事もあった。
だが佐助にとって、ただそれは反吐が出るほど嫌悪するものである。
任務じゃなきゃ死んでもしたくない。
『そもそも性行為自体好きじゃねえのに、更には男同士?俺には全く理解出来ねえし、したくもねえ』
一瞬、この陰間茶屋に行くか否かを逡巡するも、漸く掴めた大きな手掛かりだ。
『…仕方ねえ』
どうしても斯波裡に会わなければならない理由がある。
佐助嫌な汗を滲ませながら、艶という名の陰間茶屋に向かって歩き出した。
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