忍の恋は死んでから。

朝凪

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第10章 -過去追想篇-

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「陰間茶屋‘あで’…。ここか」

色里のほぼ外れに門を構えているこの店は、果たして本当に営業しているのかさえ疑問に思う程外見は廃れていた。

壁のあちこちには穴が空いており、長年雨風に晒されている為か店の看板の文字は所々掠れていて読めない。

それでも、看板の中央に太字で書かれている‘艶’という文字だけは、かろうじて目視する事ができた。

『さて。ここからどうするか…』

破れた障子から微かに漏れる灯りを見る限り、一応店はやっている様だが、こうも人の気配が薄いと逆に不気味である。

『人目がねえってのは、俺にとっては逆に好都合だがな…』

一先ず中の様子を探る事にした佐助は、裏手に音も無く回り込む。

店の周りを取り囲む様に生い茂った木の幹を、器用に蹴り上げて屋根に着地した。

瓦を一つ一つ慎重に外し、そこに細身の身体を滑り込ませて神経を研ぎ澄まして人の気配を探る。

『……4、いや…5人か?』

ボソボソと話し声が聞こえるが、店の中にいる正確な人数はこの位置では窺い知る事はできない。佐助は声を頼りに天井裏を移動する。

はっきりと会話が耳に届く場所に辿り着き、佐助は感覚の全てを聴覚に集中させる。

椿つばき、これから来る客は大事な太客だ。お前さんは会うのは初めてであろう?」

「…は、はい」

「呉々も失礼のないようにな」

『声から察するに、老人と若い男が一人か…』

“大事な太客”

聞こえてきた言葉を佐助は頭の中で反芻してみる。

『こりゃ、大当たりかもな…』

佐助は口端を微かに上げた。

太客とは、大金を落として店の売り上げに大きく貢献する者のことである。

斯波裡の中で、上に位置する者たちは相当稼いでいるという話を聞いた。

まだ核心はないが、その太客というのは斯波裡の幹部連中ではないか。

佐助はそう思った。

無意識の内に唇を舌で舐め上げ、佐助は次の手に出る事にした。





……
………




「椿、あの方がお見えになった。さあ行ってこい。ここの最上のお部屋に通してある」

「…はい」

椿と呼ばれた男は、老人に頭を下げて部屋を後にした。

ギシギシと軋む長い廊下を、古びた建物に似つかわしくない程見事な刺繍が施された臙脂色の着物を引き摺りながら歩く。

ミシリ

「…?」

不意に、天井から音が聞こえた。

だが、椿が顔を上げた時には既に、目の前に黒い影が自身に覆い被さった後だった。

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