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第14章
夏の陣
しおりを挟む慶長20年、豊臣軍対徳川軍による天下分け目の最終決戦、大坂夏の陣が勃発した時ーーー。
「…あの日は、戦をするには最悪の天候だったな」
佐助はゆっくり目を閉じて小さく深呼吸し、一つ一つの出来事を頭の中に広げて行く。
「真田軍の士気は高かったが、濃霧のせいで後方部隊を任されていた真田軍が前軍の陣まで辿り着けずに壊滅。初手の時点で大きく策が破綻したことは、今でも後悔しているよ」
何故、視界不良という忍が得意とする領域の中で俺たちが先駆けて動かなかったのかと。
「いや、その隊の指揮権は全て俺が握っていたし、何よりお前たちには別の重要な任務を俺自ら命令していたからな。佐助達には何の落ち度もないさ」
真田は自重気味に笑う。
「だが、幸村は逃げなかっただろう。それどころか殿まで請け負いやがって。俺がどれだけ肝を冷やしたか分かるか?」
佐助は少し眉を顰めた。
殿とは、撤退する軍の最後尾の事を指し、敵に背を向けて後退していく部隊を守り、無事に逃すという重責を伴う役割だ。
この殿の活躍度合いによっては戦の命運を分けると言っても過言ではないが、敵の集中砲火を一身に受けるため死亡率がとても高い。
「ふっ…追走してきていたのは、徳川軍の中でも独眼竜率いる猛者揃いのあの伊達軍だぞ。それこそ文字通り、意地汚く死に物狂いで逃げたさ。佐助たちも流石というべきか、すぐに俺たちと合流してくれたお陰で随分命拾いした奴等も多い。感謝こそすれ、恨むような奴は真田軍にはいない筈だ」
「…死に物狂いって…よく言うな。馬上で敵軍のことを男じゃねえみたいなこと言って煽り散らかしてただろうが」
もちろん、味方を逃すまでの陽動作戦の1つであることは佐助も分かっている。だがわざわざ死傷率を自ら上げに行くのは納得できなかった。
そんな佐助の思いはつゆ知らず、真田は快活に笑う。
「む、“関東勢百万と候え、男はひとりもなく候”と言ったことか?よく覚えているな。いや、まさか俺もあんな一言が後世まで伝わるなんて思わなかったよ。まあそうでも言わないとやってられないから、俺も必死に見栄を張ってたのさ」
「軍に合流してから俺はずっとお前の側にいたからな。その見栄を張った口上も、声がデカいから嫌でも聞こえてたわ」
少し皮肉めいた口調で佐助は言った。真田は少し照れ臭そうに視線を逸らす。
「でも、惜しかったなあ…。徳川本陣まで踏み込めたのに後一歩という所でまんまと逃げられてしまったし…」
後の史料には、東軍総大将の家康が、あまりの真田の猛攻に気圧され、2度も自害を考えた程だったらしい。
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