143 / 143
第14章
最後の約束
しおりを挟む椅子の背凭れに寄り掛かり、溜息を吐きながら真田は天井を見上げた。当時の記憶が蘇って400年ぶりの悔しさが滲み出ているのか、無意識に口の形がへの字になっている。
「仕方ねえさ。その後は西軍は不運続きだったし、もう豊臣側は戦意喪失しちまってたからな。最後に越前の軍や井伊家との交戦ではもう幸村はボロボロだっただろ」
「んー、実はもうその辺から記憶が曖昧で…。と言うのも、今思えばアドレナリンのせいだとは思うが全然痛みを感じていなくて、闘いの昂揚感だけが残っているんだ」
ただ必死に十文字槍を振り翳し、眼前の敵を薙ぎ倒す。血豆が潰れ、柄が血で滑ってもサラシを巻いて意地でも握って我武者羅に戦場を駆け抜けた。
一度立ち止まれば待つのは死。
怖く無かったと言えば嘘になる。
ーーーだが、
「振り返った時には…必ず佐助がいた」
「……!」
『お前となら、本気で世界のどこまでも行ける気がしたんだ』
確実に近付いてきている死の匂いに気付かないフリをして、とっくに超えた限界の果てに真田はいた。
その時、不可解な記憶の穴を思い出して、佐助に問い質した。
「……そうだ、あの時…。不意に頭に衝撃を感じて、俺の意識はそこで一時ブツリと途絶えているんだ。なあ佐助、直前までお前の顔は見えてたのは朧げだが覚えているんだ。何があったか知らないか?」
佐助は一瞬狼狽し、少しバツが悪そうに口籠ったが、意を決して口を開いた。
「……それは、俺の…仕業だ。後頭部に衝撃を与えてわざと脳震盪を引き起こし、お前の意識を一時的に奪ったんだ」
「!…なに?どういうことだ」
真田は少し語気を荒げるも、佐助は真剣な眼差しで真田を見つめる。
「ここからが、幸村の知らなかった過去の話になる。そしてきっと、幸村が1番知りたかった過去でもあると思うが………聞いて後悔、しねえか?」
真田は徐にそっと佐助の手を握った。冷えた指先は少し震えており、佐助の覚悟が伺える。
「ああ…。後悔なんて絶対にしない。俺は佐助の“主人”だ。ならば、お前が抱えているものも全て、俺にも背負う権利がある」
迷い無く言い切る真田の顔を見て、佐助は無言で頷いた。
「俺に、最後の約束を果たす時が来たのさ」
微かに口元に弧を描きながら、佐助はゆっくりと目を閉じた。
「最後の…約束?」
真田の表情が僅かに強張り、少しずつ自身の心臓が高鳴っていく。真田は黙って先を促した。
「ああ…。前に一度だけ幸村にも見せた事があっただろ?“変化の術”をーーー」
「!」
正確には、本当に姿形が変わる訳ではない。
忍の特異な体質と気の歪みで相手に別人だと錯覚させるというのが正しいだろう。
声帯も特殊な訓練をして老若男女の声音をほぼ再現できるため、術に嵌った相手の目には、擬態した人物そのものが映るという訳だ。
術の精巧さは、変化する相手をよく知っていればいる程、緻密さを増す。姿や声はもちろん、細かな所作や普段の口癖など“本物”になり変わってしまう事も可能だ。
ーーー嫌な予感がする。
真田はここまで聞いて、無意識に肌が粟立った。
「お前を気絶させた後、敵方に悟られないよう秘密裏に忍部隊が安全な場所に運んだ。数名の護衛と共にな」
「何故……そんなことを…」
「幸村にも言った筈だ。変化の術が、俺の“命の使い道”だと」
「………っ!」
真田の過去が想起される。前世の時の記憶だ。
哀しげに微笑んだ佐助の姿もーーー。
「最後の約束ってのは、俺が俺自身に課したものだ。お前の“陰”として生きると決めた時、俺は自分の中である誓いを立てた」
「……誓い……?」
「真田幸村の為に生き、真田幸村の為に死ぬ事だ」
真田は言葉に詰まった。
何か言いたいのに、喉に声が張り付いて出てこない。
真田はもう理解していた。
『佐助は………』
己の“身代わり”になったのだとーーー。
10
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(14件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新されてる(。ŏ﹏ŏ)
嬉しいです。
リアルは落ち着かれましたでしょうか?
丁度先日離職して、少し自由時間が増えた所なので、頭から読み直ししてきます!
お久しぶりです凪様(^^)
大変……っ!大変長らくお待たせ致しました!!少しずつプライベートが落ち着いてきたので、まだまだスローペースですがなんとか最後まで書き切りたいです_:(´ཀ`」 ∠):それもひとえにこうして待っていてくれる読者様がいてこそだと思っておりますので、どうか長い目で見ていただければ幸いです。今後とも「忍の恋は死んでから。」をよろしくお願い致します。
はじめまして。
オススメから一挙に読み漁り、最新話迄読み切りました。
幸村に佐助、お互いに想い合ってるのにすれ違って切なくて、何度も泣きました。
政宗も良い漢過ぎるし、他にも転生者いるなと中身を想像しながら読んでいました。
続きがとても気になる所ですが、数年は更新されていないようで、もう執筆されて無いのかもと残念に思いっています。
まだ待ってる人がいますよ!の応援になればと思い、コメントさせて頂きました。
願わくば、作者様に届きますように!
初めまして凪様。心温まる感想ありがとうございます。お恥ずかしながら私生活の方で色々と立て込んでおりまして、ここ数年更新できず本当に申し訳ありません!一応細々とですが執筆はまだ続けており、できれば完結まで書き切ってから更新した方が待っていてくださる読者様のためにもなるかなと思い、ここまで時間が経ってしまいました。正直、ここまで期間が空いてしまうと読みにきてくれる方はほとんどいないのではないかと思う事もありましたが、凪様の励ましに胸のすく思いです。改めて気を引き締めていきますので、可能な限りお付き合いしていただければ幸いです。今後とも「忍の恋は死んでから。」をよろしくお願い致します。
はじめまして
最後までイッキ読みしたくらい、話に引き込まれてしまいました!
真田さん好きです!
大変だとは思いますが、是非続きを読んでみたいです。
ころるまる様初めまして(^ ^)「忍の恋は死んでから。」をお読みいただけて大変嬉しいです!中々更新頻度は高くありませんが、完結まであと少し…というところですので、最後までお付き合い頂けたらと思います!