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第11章 -過去罪業篇-
歪-ヒズミ-
しおりを挟む〝夜目が利く〟というのはよく言ったものだ。
太陽の下を我が物顔で滑空し空を支配する鳥と、月が放つ妖しげな引力に逆らうように地を這う鼷鼠。
「光と闇」「陽と陰」ーーー。
住む世界が違う彼等は、決して交錯しない様にも思えるが、本質はどちらも同等、狩人のそれであると佐助は思っていた。
それは自らの能力に特化した舞台に獲物を引きずり出し、捕食すること。
夜を根城とする佐助にとっては、例え目を閉じた暗がりでも人や動植物、小さな羽虫でさえの姿形や呼吸音が手に取るように分かるのだ。
空気の振動、音の波及、生き物の匂いーーー。
視覚以外の感覚が限界以上に研ぎ澄まされ、佐助の脳裏にはまるで今自分が喧騒の中心にいるような幻が映し出されていた。
「…何だ、お前達は」
「どうも。お初にお目に掛かります、幸村様」
慇懃な口調で八雲は頭を下げる。
古寺の中には、八雲を含めた三人の男が刀を抜いて立っていた。
幸村は自分に向けられた穏やかじゃない空気を嫌でも感じ取る。
「……祭りを謳歌しに来た輩では、なさそうだな」
「そんな事はない。愉しみにしていましたよ?ずっと、この時が来るのを」
幸村は警戒しながらゆっくりと後退る。
「お前達、子どもはどうした?」
「…子ども?」
八雲は一瞬考え込む素振りをするも、すぐ合点がいったのかニヤリとほくそ笑む。
「ああ、彼等のことですか?元気ですよ。むしろ血気盛ん過ぎて、私の手に余るくらいだ」
「なに?」
そう言って八雲は手を挙げる。
それが合図だったのか、井戸に身を潜めていた数人の八雲の手下が幸村の背後に詰め寄り、退路を断つ。
「私の可愛い子分達です。貴方と遊びたいようですよ、幸村様」
「…そうか、お前達は最近噂になっている斯波裡の者達だな?」
「御明察。やれやれ、口の軽い子には困ったものですね。あとでお仕置きしないと。」
八雲は血が滾っていたのか、いつもより饒舌だった。
「本当なら、もっと秘密裏に事を運ぶつもりだったのに。とんだ〝犬〟に嗅ぎつけられてしまいましたよ。貴方も災難ですね。飼い犬に手を噛まれるなんて。」
「…犬、だと?」
ピクリと幸村の肩が震える。
「フッ、もう薄々気付いているんじゃないですか?」
「………………」
八雲の問い掛けには答えず、幸村は俯いたまま黙り込む。
『嗚呼これこそ、私が求めていた憎悪の快楽…!』
真っ新だった身も心も真っ黒に穢し、己と同じ狂気を孕んだ傀儡に作り上げる。
『そしてあの屠る瞬間の絶望に苛まれた死に顔は、筆舌に尽くし難いほど美しいのだ』
それが、八雲を此の世に留めている唯一の結びだった。
「貴方を殺して欲しいと頼まれたんですよ。貴方の犬に……否、佐助殿にね」
さあ、魅せろ。お前の死に様をーーー。
佐助はゆっくりと目を開けた。
しかしその瞬間、命をもぎ取られるような強大な覇気が八雲を襲った。
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