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【承】 祝福の花火

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 地元に帰ってきてから二週間目。お盆。

「兄ちゃん。今夜俺んち来ない?」

 初めて誘われた。いつもうちに来るだけだったのに。

「え、何しに?」

 デリカシーなく聞いてしまったのは今が盆休みでお宅にはきっと嵐の両親がいるだろうから。しかも付き合い出して今日に至るまで、嵐がまったく俺に触れてこないから。

「何しにって、別に何もないけどさ」

 俺が車でも持ってりゃあ、この夏休みあちこち二人で出かけられたのだろうけど、生憎車は持ってない。レンタカーという手もあることはあるのだが。でも、今は俺も店の物件探しに忙しい。さすがに盆くらいは休むつもりはしているが。

「親と妹が家族旅行に行くから、三日間家に誰もいないんだ」

 そこまで言われたが、まだ俺の脳は嵐の言いたいことの半分も理解していなかった。

「え、お前行かないの? どこに行くんだよ、おばさん達」
「え? ディ…ズニーランドに、行くみたいだけど」
「うわっ、勿体ねぇな。お前も行きゃいいのに」

 そう言ってどら焼きの生地をひっくり返すと、しばらくの間妙な沈黙が降り俺はようやく嵐の言いたいことを理解した。

 背後の嵐はダイニングテーブルに着席している。

 背中から感じ取るのはわかりやすい不機嫌な空気。

 しまったしまった、しまったよ、やらかした。あまりにこの二週間何もなさすぎて、恋人だということすら忘れそうになっている。こいつは俺のことを兄ちゃんと呼ぶし、余計にこの関係性があやふやになってしまっていると思うんだ。

 恐る恐る振り返ると、案の定恨めしそうな瞳でじとりと睨まれた。

「わ、悪い。別にその……」
「いいよ別に。どうせ俺まだ子供だし。恋人より家族旅行選ぶようなガキに思われても仕方ない」

 おぉ……、怒らせた。

「ごご、ご、ごめんって。そういう意味じゃなくて」
「もっとも兄ちゃんが帰ってくる前から家族旅行には行かない予定だったけどね」

 ででで、ですよね。ホテルの予約とかありますもんね。キャンセルとかそんな面倒なこと……ね? うん、わかるよ、分かってる。だからごめんって。

「そんな怒るなよ。な? ごめんって。ほら、もうすぐどら焼き仕上がるから」

 焼きたての生地を見せて苦笑いすると、嵐は仏頂面のまま席を立ち、俺をふんわりと抱きしめた。


「なぁ、来るだろ? ……蘭真」


 その腕はとても華奢だけど、俺を優しく包み込む。怒ってるくせに、この腕は俺を甘やかすみたいに優しい。
 ガキなんて言ったらまた怒られるんだろうけど、十三歳も年下のガキにドキドキさせられるとか……、これ反則。

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