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【結】 俺たちの答え
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兄ちゃんちは既に真っ暗だった。
「おばさんもう寝てるの?」
「あぁ、いつもだ。十時には寝たい人なんだよ」
「早いんだね」
兄ちゃんちは大きい。ザ・日本家屋って感じ。畳の部屋が何部屋も連なっていて、廊下があまり無い。おばさんの寝室は座敷の隣にある和室らしいけど、未だかつてその部屋を覗いたことはない。幼い頃よく遊びに来て今もこうやってお邪魔させてもらうけど、知らない部屋はまだまだ多い。
玄関入って左側は、台所、居間、座敷、おばさんの寝室。右側には二階へ続く階段と、客間、風呂、トイレ、あと一室ある気がするが、入ったことがないから何の部屋かは分からない。
二階に上がり、客間の上にあるのが兄ちゃんの部屋だ。学生の頃のまんま変わっていないと思われる部屋には未だ勉強机が置いてあり、そこは今も頻度よく使用されているのかケーキのデザインや材料のメモなどが記されているノートが開きっぱなしで置かれてあった。
「風呂入ってくる。ちょっと待ってて」
兄ちゃんはそう言うと、俺を部屋に置き去り再び階下へ降りた。
個人部屋にしては大きい部屋だ。八畳くらいあるのだろうか。机の上のノートをパラパラと見、隣の本棚を眺めた。
古い漫画本が並んでいるが、ケーキやデザートの本も沢山並べられている。だが紛れるように一冊のアルバムを発見した。
見ない方がいいと思ったけど我慢出来ずに開くと、それは以前の職場の皆が餞別に渡したと思われるアルバムだった。元カレとのアルバムかと思っていただけに少し拍子抜けしたが、同時に安心した。
「良かった……」
元カレとの写真を見つけてしまったら、きっと物凄く落ち込んだだろうから。
アルバムを片付け勉強机に腰を下ろすと、本棚の最下段に置かれてある箱が気になった。
蓋付きのクラフトボックス。そっと引き出し蓋を開けると、そこには緑色の袋に入ったお弁当箱が仕舞われていた。
「弁当……箱?」
中身を確認したが何の変哲もない普通の弁当箱。何故こんな所に仕舞われているのか。小首を傾げそっとそれを仕舞うと、俺はレシピノートへ再び視線を戻した。
店に並べる定番ケーキが厳選されている。あれこれ悩んだ後も伺える。
走り書きのノートは一見ぐちゃぐちゃに見えるけど、兄ちゃんが頭を悩ませ必死に考えている様子が良く分かるノートだった。
その中でも特に迷ったのだろうと思われるのが、オレンジのゼリーだった。ブラッドオレンジのクラッシュゼリーを使ったカップデザートの案はいくつもあったが、そのどれも全てにバツ印が記してある。
そして俺の好きな水色のゼリーを使ったデザート案も一つだけあったけど、『夏季限定?』という走り書きが添えられてあるだけで、採用するかどうか怪しい案だった。
どれほどかそのノートを一字一句逃さず読んでいると、風呂を上がった兄ちゃんが部屋へと戻ってきた。そして机に座る俺を見て柔らかく微笑む。
「どう思う? こういうケーキが欲しいとか希望ある?」
聞かれて苦笑いを返した。素人の俺じゃ「こんなのが欲しい」という閃きさえ浮かばない。
「ん~、どうだろ。一通り抑えてるじゃん。十分だと思うけど」
「そっか。あとは子供向けの安くて小さいケーキも作ってみようかなぁと思ってはいるんだけど」
「いいじゃん。クマとかうさぎとか」
背後から机に手をついてノートを覗き見る兄ちゃんを不意に見上げて提案したが、思いのほか顔が近くてびっくりした。
「ふふ、なんだよ」
びっくりした俺に笑い、兄ちゃんはチュッと軽くキスを寄越すと、ノートを閉じて俺の手を引いた。
「エッチしよう。我慢出来ない」
「おばさんもう寝てるの?」
「あぁ、いつもだ。十時には寝たい人なんだよ」
「早いんだね」
兄ちゃんちは大きい。ザ・日本家屋って感じ。畳の部屋が何部屋も連なっていて、廊下があまり無い。おばさんの寝室は座敷の隣にある和室らしいけど、未だかつてその部屋を覗いたことはない。幼い頃よく遊びに来て今もこうやってお邪魔させてもらうけど、知らない部屋はまだまだ多い。
玄関入って左側は、台所、居間、座敷、おばさんの寝室。右側には二階へ続く階段と、客間、風呂、トイレ、あと一室ある気がするが、入ったことがないから何の部屋かは分からない。
二階に上がり、客間の上にあるのが兄ちゃんの部屋だ。学生の頃のまんま変わっていないと思われる部屋には未だ勉強机が置いてあり、そこは今も頻度よく使用されているのかケーキのデザインや材料のメモなどが記されているノートが開きっぱなしで置かれてあった。
「風呂入ってくる。ちょっと待ってて」
兄ちゃんはそう言うと、俺を部屋に置き去り再び階下へ降りた。
個人部屋にしては大きい部屋だ。八畳くらいあるのだろうか。机の上のノートをパラパラと見、隣の本棚を眺めた。
古い漫画本が並んでいるが、ケーキやデザートの本も沢山並べられている。だが紛れるように一冊のアルバムを発見した。
見ない方がいいと思ったけど我慢出来ずに開くと、それは以前の職場の皆が餞別に渡したと思われるアルバムだった。元カレとのアルバムかと思っていただけに少し拍子抜けしたが、同時に安心した。
「良かった……」
元カレとの写真を見つけてしまったら、きっと物凄く落ち込んだだろうから。
アルバムを片付け勉強机に腰を下ろすと、本棚の最下段に置かれてある箱が気になった。
蓋付きのクラフトボックス。そっと引き出し蓋を開けると、そこには緑色の袋に入ったお弁当箱が仕舞われていた。
「弁当……箱?」
中身を確認したが何の変哲もない普通の弁当箱。何故こんな所に仕舞われているのか。小首を傾げそっとそれを仕舞うと、俺はレシピノートへ再び視線を戻した。
店に並べる定番ケーキが厳選されている。あれこれ悩んだ後も伺える。
走り書きのノートは一見ぐちゃぐちゃに見えるけど、兄ちゃんが頭を悩ませ必死に考えている様子が良く分かるノートだった。
その中でも特に迷ったのだろうと思われるのが、オレンジのゼリーだった。ブラッドオレンジのクラッシュゼリーを使ったカップデザートの案はいくつもあったが、そのどれも全てにバツ印が記してある。
そして俺の好きな水色のゼリーを使ったデザート案も一つだけあったけど、『夏季限定?』という走り書きが添えられてあるだけで、採用するかどうか怪しい案だった。
どれほどかそのノートを一字一句逃さず読んでいると、風呂を上がった兄ちゃんが部屋へと戻ってきた。そして机に座る俺を見て柔らかく微笑む。
「どう思う? こういうケーキが欲しいとか希望ある?」
聞かれて苦笑いを返した。素人の俺じゃ「こんなのが欲しい」という閃きさえ浮かばない。
「ん~、どうだろ。一通り抑えてるじゃん。十分だと思うけど」
「そっか。あとは子供向けの安くて小さいケーキも作ってみようかなぁと思ってはいるんだけど」
「いいじゃん。クマとかうさぎとか」
背後から机に手をついてノートを覗き見る兄ちゃんを不意に見上げて提案したが、思いのほか顔が近くてびっくりした。
「ふふ、なんだよ」
びっくりした俺に笑い、兄ちゃんはチュッと軽くキスを寄越すと、ノートを閉じて俺の手を引いた。
「エッチしよう。我慢出来ない」
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