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【結】 俺たちの答え

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 五ヶ月。兄ちゃんと付き合い出して、まだたった五ヶ月。まわりの奴らは五ヶ月続けば長いなんてクソみたいなこと言うけど、俺にとっちゃとんでもなく短い時間なんだよ。十三年も待ってたんだぞ?
 でもだからって、"短いから" なんてのは言い訳だ。この五か月。俺はまだ兄ちゃんの思い出を塗り替えられてない。どうすればそれが出来るのか毎日考えた。

 デートに誘おうか。沢山出かけようか。それとも兄ちゃんの過去の恋愛話をちゃんと聞いてやるべきだろうか……と。

 でも、体の関係だけで思い出を塗り替えたくなんかなかった。それでも兄ちゃんが理性を壊してくれって言ったから、そんなもんぶっ壊してやるって毎日抱いた。思い出を塗り替えるのは理性の箍が外れてからでも遅くないって。

 けどこんな事になるならもっとたくさん二人だけの思い出を作れば良かった。強引に連れ出してデートすれば良かった。もっとたくさん話をすれば良かった。過去の話も昔の恋も、全部全部聞いてやって、兄ちゃんの苦しみ半分俺が背負えば良かった。

 逃げてたわけじゃない、気付いてたから。兄ちゃんが何かから逃げてることも、ふと思い出に遠い目をすることも、全部見てた。分かってたけど、いつか兄ちゃんがちゃんと吹っ切るまで根気よく側に居ようって。俺だけは消えない存在で居てやろう……て。


 店で、二人は接触したのだろうか。兄ちゃんが厨房から出てきた感じはしなかったけど、連絡先とか……もしかして渡されてるかもしれない。兄ちゃんの出す答えはなんだろう。兄ちゃんの描く "幸せの形" に俺はいるんだろうか。

 例え居なくても、俺は兄ちゃんの "幸せ" を選べる男でありたい。それが俺にとって悲しい結末になろうとも、そこに兄ちゃんの幸せがあるなら俺は突き放してでも背中を押してやるんだ。

 兄ちゃんにとっての俺は "子供" じゃなくて、"いい男" がいい。どんな結果になろうと、俺は子供じゃなくて……いい男で居続けたいから。

 すぐそこで啜り泣く男の声。心は吹き荒れるこの木枯らしのように荒んでいく。寒いのは空気だけじゃない。この心もひんやりと冷たく……色をなくしていくみたいだった。

 男はその後駅に向かい、俺の前から消えた。でも、東京から兄ちゃんを追いかけてきてこれで終わるわけがない。あの男はきっとまた兄ちゃんに接触するだろう。


 俺は、俺は────。
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