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初めてのテレビ収録!
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「歌、うまいな」
「最初から気にはなってたんだよね」
「妙に目立ってましたもんね」
スタジオの片隅でスタッフ達がそんな会話を交わす。ただ。
「ちょっと表情がかたいね」
踊る太一をじっと見つめ、スタッフ達の視線は自然とマネージャーへ移った。
「あ、いや、彼は別に……無表情キャラというわけでは」
木嶋の言葉に、スタッフ達はそりゃそうだよね、と苦笑した。
「緊張してるんじゃないでしょうか」
しかし、続けて言った言葉に全員が首を傾げる。
「緊張? どの辺が?」
「声も伸びてますし、ダンスも完璧」
「堂々としてるように見えますが」
余計な一言を言わなければ良かったと思いながら、木嶋は苦し紛れの言葉で取り繕った。
「リハだからですよ。本番では……笑いますよ」たぶん!
最後の一言は心の中で大きく叫んだ。
サビのラスト。
『笑え そこが暗闇でも 笑顔が足もとを照らす光になるから』
透明感があり伸びのいい太一の歌声がソロパートを歌うと、喋っていたスタッフ達は思わず口を噤み、ターンで翻った彼の背中に、感嘆のため息を吐き出した。
その後ろ姿に見惚れているのも束の間。二曲目へと移ると、バックダンサーのエッグが太一のマイクを受け取り、フォーメーションは大きく入れ替わりを見せた。予定通り、太一は二ノ宮とハイタッチで交差すると、ロンダートからのバク転、バク宙を披露する。ぽっかり空いたセンターから、志藤が現れ、そのサイドに菊池と及川が立った。そのまま太一は、下手へと一旦ハケる。
だがもちろん曲は続いている。歌う志藤。踊る雪村。上手には猫居と二ノ宮が、太一と同じように一旦の休息をとっている。
トップナイン達が入れ替わりで歌を歌い、その後ろには選ばれたエッグ達がダンスをしている。自分のソロパートは終わった、とひとまず安堵した太一に「はい」と再びマイクが手渡された。
小さな男の子。
曲中にマイクを受け取ってくれたエッグだ。今日初めて名前を知ったエッグだった。
内海玲。
「ありがとう」
微笑むと、内海も柔らかく笑った。
内海はすぐに太一から離れて行ったが、妙に影のある少年だなと太一は感じた。
(猫居くんもセクシーだけど、ああいう子もセクシーっていうんだろうな)
上手に立つ猫居の姿に再び視線を移し、日本人離れした端麗な顔をじっと見つめた。
いつもならば、自分の立つ場所に黒野が立っている。そう思うと自分では力不足なのではないかと、太一は今更ながらそう思った。
何故自分が選ばれたんだろうとか、初めてのマイクに緊張するとか、メインポジションなんか恥ずかしいとか、そんなことばかりを考えていたけど、今自分の立っている場所はそもそも黒野の場所。黒野の穴をキチンと埋めなければいけないんだとようやく自覚した瞬間、太一はゾッとした。トップナインの穴埋めなんて、自分ではあまりに力不足すぎると恐ろしく思えたのだ。
「最初から気にはなってたんだよね」
「妙に目立ってましたもんね」
スタジオの片隅でスタッフ達がそんな会話を交わす。ただ。
「ちょっと表情がかたいね」
踊る太一をじっと見つめ、スタッフ達の視線は自然とマネージャーへ移った。
「あ、いや、彼は別に……無表情キャラというわけでは」
木嶋の言葉に、スタッフ達はそりゃそうだよね、と苦笑した。
「緊張してるんじゃないでしょうか」
しかし、続けて言った言葉に全員が首を傾げる。
「緊張? どの辺が?」
「声も伸びてますし、ダンスも完璧」
「堂々としてるように見えますが」
余計な一言を言わなければ良かったと思いながら、木嶋は苦し紛れの言葉で取り繕った。
「リハだからですよ。本番では……笑いますよ」たぶん!
最後の一言は心の中で大きく叫んだ。
サビのラスト。
『笑え そこが暗闇でも 笑顔が足もとを照らす光になるから』
透明感があり伸びのいい太一の歌声がソロパートを歌うと、喋っていたスタッフ達は思わず口を噤み、ターンで翻った彼の背中に、感嘆のため息を吐き出した。
その後ろ姿に見惚れているのも束の間。二曲目へと移ると、バックダンサーのエッグが太一のマイクを受け取り、フォーメーションは大きく入れ替わりを見せた。予定通り、太一は二ノ宮とハイタッチで交差すると、ロンダートからのバク転、バク宙を披露する。ぽっかり空いたセンターから、志藤が現れ、そのサイドに菊池と及川が立った。そのまま太一は、下手へと一旦ハケる。
だがもちろん曲は続いている。歌う志藤。踊る雪村。上手には猫居と二ノ宮が、太一と同じように一旦の休息をとっている。
トップナイン達が入れ替わりで歌を歌い、その後ろには選ばれたエッグ達がダンスをしている。自分のソロパートは終わった、とひとまず安堵した太一に「はい」と再びマイクが手渡された。
小さな男の子。
曲中にマイクを受け取ってくれたエッグだ。今日初めて名前を知ったエッグだった。
内海玲。
「ありがとう」
微笑むと、内海も柔らかく笑った。
内海はすぐに太一から離れて行ったが、妙に影のある少年だなと太一は感じた。
(猫居くんもセクシーだけど、ああいう子もセクシーっていうんだろうな)
上手に立つ猫居の姿に再び視線を移し、日本人離れした端麗な顔をじっと見つめた。
いつもならば、自分の立つ場所に黒野が立っている。そう思うと自分では力不足なのではないかと、太一は今更ながらそう思った。
何故自分が選ばれたんだろうとか、初めてのマイクに緊張するとか、メインポジションなんか恥ずかしいとか、そんなことばかりを考えていたけど、今自分の立っている場所はそもそも黒野の場所。黒野の穴をキチンと埋めなければいけないんだとようやく自覚した瞬間、太一はゾッとした。トップナインの穴埋めなんて、自分ではあまりに力不足すぎると恐ろしく思えたのだ。
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