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初めてのテレビ収録!

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 いい感じ。味見。我慢。

 まだ幼い志藤だったが、この二人の言葉をじっくり考えれば考えるほど答えは一つしか出て来なくて、それが正解ならばあり得ないぞとドギマギした。

 雪村と太一をじっと見つめる。

 ソファの背凭れに腕を載せている雪村だが、見ようによっては太一の肩を抱くような格好にも見える。

(いや……え? この二人、出来てんの?)

 要らぬ知識が、志藤の中に入ってきた瞬間だった。

(っていうか、味見って……、菊池くん、お、男が好きなの!?)

 思ってもみない衝撃的な出来事に、志藤は完全に動揺してしまった。同性愛というものの存在すら、志藤は知識として無かったのだ。いや、現実としてあるなんて想像すらしていなかったと言うべきだろうか。
 男を好きな男は、いわゆる性同一性障害の人だけなんだと、信じて疑っていなかった。男が男のまま男を愛すなんて、志藤の中ではあり得ない世界だったのだ。

(ちょっと待てちょっと待て。菊池くんも菊池くんだけど、佐久間くんだって今のおかしくない?)

 ユキに限ってそれはないと完全否定したということは、完全否定出来ない男もこの事務所内には居るということだ。少なくとも菊池とそういう話が出来る時点で、佐久間もそちら側の人間ということ。

 志藤は困惑しながらも、雪村と太一のツーショットが、確かに “いい感じ” に見えてしまったことに、ゴクリと唾を飲み込んだ。

(……ウソだろ?)

「すみませーん。準備お願いしまぁす」

 楽屋の扉が開き、再び本番収録だ。だが志藤は、太一以上に頭が真っ白になっていた。

 “雪村は同性愛者ではない”

 佐久間の口ぶりではそうだった。それだけは真っ白になった頭の中で整理がついた。いい感じに見えた、といえば確かに見えた。だが二人はそんな関係ではない。佐久間がそう言うのだから、きっとそうなのだ。けど、菊池と佐久間の会話があまりに衝撃的過ぎて、志藤は完全にパニックだった。

 確実なのは、菊池と佐久間は同性愛者であるということ。それは男ばかりのこの事務所が彼らにとってのハーレムを意味してしまう。エッグ達から嫌われている志藤といえども、少なからず身の危険を感じた。それと同時に、太一を守らなければと強く思ったのだ。

 太一はエッグ達のアイドルだ。
 みんな太一のことが好きで、彼の親友という座を狙っている。だけど、もしかするとその中には、別の感情を抱いている輩が居るかもしれない。

 志藤はそれを考えてゾッとした。
 ゾッとしたのに、それは男に言い寄られる太一の姿を想像して感じたものではなかった。太一がもしかしてそのままお付き合いしてしまうかもしれないという恐怖によるものだった。

(美月ちゃんを紹介してあげようかって言った時、たいちゃん確かすぐに断った。迷いもしなかった。も、もしかしてたいちゃん……も?)

 あらぬ想像を巡らせ、志藤は固唾が口内に溜まって行くのを感じ取った。

(いや、まさかたいちゃんに限ってそれはない)

 そう言い聞かせ、太一が男に言い寄られることがないよう、目を光らせることを心に誓ったのだった。



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