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一次審査! (前編)
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一方志藤だが、太一の右手首に見覚えのある赤いリストバンドがついていることに気が付いた。通常のリストバンドより倍ほど長い赤のリストバンドは、思い出さずともそれが誰の物かすぐに分かる。
同時に胃袋がねじれる様な感覚を覚え、花火大会のクレープ事件を思い出した。志藤にしてみれば、あれは十分すぎるほどの事件である。
「そ……れって?」
恐る恐るリストバンドを指差し、志藤は太一に尋ねた。
「あ、これ? ユキのだよ」
ニッコリと屈託無く微笑む太一のその顔は、志藤にはまるで彼氏の上着を肩に引っ下げている女子のような照れ笑いに見えた。
「な、なんで?」
引きつりそうになる顔を必死に堪えようとしたが、志藤の顔面はしっかりと引きつっていた。
「ん? なんだろ、御守り?」
(御守りっ!)
太一の言葉に胸のど真ん中を抉られ、志藤は目眩すら感じた。これほどどストレートに『お付き合いしています』というニュアンスを醸し出されるとは思ってもいなかったからだ。
「そ、そうなんだ……ね。強力そうだ。はは」
志藤のやっとの言葉に太一は無邪気に笑った。
「だね。なんか色んな御利益ありそうだよね。特に魔除けとか」
(魔除けっ!? それ、俺のことか?)
俺のことか。そう咄嗟に思い、志藤はハッとした。
太一に変な虫が寄り付かない様に頑張ろうと決心していたはずなのに、自分がその変な虫に成り下がっている。
“俺のことか”
そう思ってしまったということはつまり、太一をそういう目で見てしまっているということだ。志藤は慌てて首を振り、このどうしようもない焦りと不安と戸惑いを弾き飛ばそうとした。だがそこにいきなり現れたのは、太一と同じ第一グループにいた一ノ瀬一也だった。
「お疲れさま~」
まだ幼い声がそう言って二人の前にやってきてちょこんと腰を下ろす。
「お疲れ、イチ。小西は?」
「トイレだって~」
同じグループ内にいたエッグとずっと喋っていた一ノ瀬だったが、彼がトイレに立ったことを機にこちらへやってきた。
「緊張したねぇ! 小西くんなんか緊張しすぎて出だしいきなり間違ったって嘆いてたよ」
一ノ瀬は本当に緊張したのかどうか分からないテンションだ。軽快に笑っている。
太一はそんな一ノ瀬を見つめ、彼には自信があるんだな、と感じた。小西の嘆きを親身に聞いていながら、こちらでは笑い話にしている。性格が悪いというより、随分小ざっぱりとしている。一ノ瀬は陰口や悪口を言うタイプではないため、小西本人にもきっと諦めろときっぱり言っているに違いない。
「ねぇ、二人は自由曲、何歌うの?」
一ノ瀬の無邪気な質問。
そんな質問一つでさえ、太一には一ノ瀬の自信がヒシヒシと伝わって来て、彼のそれに押し切られて負けてしまいそうだと思った。
「俺は、Poison」
だが志藤が簡単に答える。
例えば自由曲が同じだったらどうするのか、なんてことをこの二人は考えたりしないのだろうか。同じ曲は比べられやすい。ダンスも歌も、すべて。臆病な太一には、この会話がありえなかった。
同時に胃袋がねじれる様な感覚を覚え、花火大会のクレープ事件を思い出した。志藤にしてみれば、あれは十分すぎるほどの事件である。
「そ……れって?」
恐る恐るリストバンドを指差し、志藤は太一に尋ねた。
「あ、これ? ユキのだよ」
ニッコリと屈託無く微笑む太一のその顔は、志藤にはまるで彼氏の上着を肩に引っ下げている女子のような照れ笑いに見えた。
「な、なんで?」
引きつりそうになる顔を必死に堪えようとしたが、志藤の顔面はしっかりと引きつっていた。
「ん? なんだろ、御守り?」
(御守りっ!)
太一の言葉に胸のど真ん中を抉られ、志藤は目眩すら感じた。これほどどストレートに『お付き合いしています』というニュアンスを醸し出されるとは思ってもいなかったからだ。
「そ、そうなんだ……ね。強力そうだ。はは」
志藤のやっとの言葉に太一は無邪気に笑った。
「だね。なんか色んな御利益ありそうだよね。特に魔除けとか」
(魔除けっ!? それ、俺のことか?)
俺のことか。そう咄嗟に思い、志藤はハッとした。
太一に変な虫が寄り付かない様に頑張ろうと決心していたはずなのに、自分がその変な虫に成り下がっている。
“俺のことか”
そう思ってしまったということはつまり、太一をそういう目で見てしまっているということだ。志藤は慌てて首を振り、このどうしようもない焦りと不安と戸惑いを弾き飛ばそうとした。だがそこにいきなり現れたのは、太一と同じ第一グループにいた一ノ瀬一也だった。
「お疲れさま~」
まだ幼い声がそう言って二人の前にやってきてちょこんと腰を下ろす。
「お疲れ、イチ。小西は?」
「トイレだって~」
同じグループ内にいたエッグとずっと喋っていた一ノ瀬だったが、彼がトイレに立ったことを機にこちらへやってきた。
「緊張したねぇ! 小西くんなんか緊張しすぎて出だしいきなり間違ったって嘆いてたよ」
一ノ瀬は本当に緊張したのかどうか分からないテンションだ。軽快に笑っている。
太一はそんな一ノ瀬を見つめ、彼には自信があるんだな、と感じた。小西の嘆きを親身に聞いていながら、こちらでは笑い話にしている。性格が悪いというより、随分小ざっぱりとしている。一ノ瀬は陰口や悪口を言うタイプではないため、小西本人にもきっと諦めろときっぱり言っているに違いない。
「ねぇ、二人は自由曲、何歌うの?」
一ノ瀬の無邪気な質問。
そんな質問一つでさえ、太一には一ノ瀬の自信がヒシヒシと伝わって来て、彼のそれに押し切られて負けてしまいそうだと思った。
「俺は、Poison」
だが志藤が簡単に答える。
例えば自由曲が同じだったらどうするのか、なんてことをこの二人は考えたりしないのだろうか。同じ曲は比べられやすい。ダンスも歌も、すべて。臆病な太一には、この会話がありえなかった。
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