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一次審査! (後編)

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「ひとまず、合格おめでとう。今日から君たちはひとつのグループになる。デビューをかけて共に戦う仲間です」

 スタッフ達に囲まれながら、四人は改めて顔を見合わせた。
 共に戦う仲間。それは勝利を勝ち取れば、もれなく離れることの許されないグループとなるわけで、今までとはまた違った「仕事仲間」となるわけだ。

 今までのように「テスト前だから今回の仕事は受けません」などと言っていられないわけである。

「来週からはグループとしての売り込み戦略から、曲作り、ダンスの振り付けと、日に日に忙しくなっていく。第一回の決戦は二月予定。篩い落とされるのは二組」

 お遊びなんかじゃない。
 いつか言われた雪村からの言葉。今になってまた鮮烈に耳の奥にこだまする。

『どんなテンションで仕事してんだ。仲良しこよしの幼稚園児じゃねぇんだよ』

 その通りなのだ。
 曜日選抜であの藤本が篩にかけられ、無残にも落とされた。同じように今度はグループが篩にかけられる。しかも……。

「選ぶのは、視聴者になる」

 そう。世論の声が反映されることになる。

「番組観覧での直接投票、ネット投票、データ放送を受信しているご家庭からも票を回収する予定です」
(*当小説は2009年が舞台のため、データ放送がまだ普及しきっていません。ちなみに携帯もガラケーです)

 手渡されている資料に目を通しながら、誰もが神妙な面持ちで講師の言葉を聞いていた。

「選ばれた三組は持ち歌を最低でも一つ持つことになる。その曲を音源化。決勝戦は、CD売り上げ、データDL数、有線リクエストなども加わって、より熾烈な争いになる」
「……音源化」

 講師の言葉に雪村が小さく呟いた。
 最悪その三組に選ばれれば、形として自分たちがそこにいた証が残せる。世界に一つだけの自分達の歌が、形として残るのだ。

「来週から本格的にグループ活動が始まる。団結するのは必須条件だ。予定としては12月から1月に掛けてレコーディングを行い、1月から2月にかけて振り付けを覚える。そして、第一回目の決戦となる」

 その頃には番組サイドもリアルタイムに追いつく手筈になっている。今現在はちょうど一ヶ月遅れの放送内容だが、2月の決戦は生放送を予定している為、追いつかざるを得ない。
 だが、ふと太一は思った。2月は入試月であると。

 グループ選抜に選ばれたのは嬉しいが、正直なところ負担が増したのは事実だった。親に何と言えばいいのか、そもそも進路をどうするべきなのか、決戦が2月だという事実にただただ太一は焦った。
 同じ受験生である雪村はどうするのだろうと、彼の顔を窺ったが、雪村はいつもと変わることなく資料に目を通しながら講師の言葉に頷いている。

 太一だけ、この先のことがあまりにも具体的に考えられず、事実としてあるのは妙にのしかかってくる不安だけだった。
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