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少年達の冬

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 ANNADOLをより多く、より長くプロモーションするため。その上、レコード会社との折り合いも、二組よりも三組と多い方が良かった。一回戦を勝ち進めば持ち歌が音源化され世に出回る。その売り上げやレンタル量、DL回数などが、二回戦目の戦いには著しく影響を及ぼす。
 すなわち、金の巡りをより良くするためにも、決勝戦での生き残りチームは少ないよりは多い方が良かったのだ。

 もちろん番組サイドとしても、視聴率の高いエッグバトルの注目を維持したかった。ファンがそれぞれどのチームに分散しているのかは不明瞭でも、篩い落とされるチームが多ければ多いほど、決勝戦までの視聴率は危ぶまれる。
 大人の事情が交錯したエッグバトル。

 第一回目の戦いは二月末。
 ここの突破ならずしてデビューは夢の話である。

 レッスン中の十分間休憩も終わろうとしたその時。太一の携帯が鳴り響いた。顔色を変えて太一は電話に出た。 
 その様子を固唾を飲んで見守る志藤は、太一がガッツポーズを取ったのを見た。電話は終わってなかったが、一ノ瀬が大声を上げて飛び跳ねた。その一ノ瀬とハイタッチして笑う太一に、志藤は嬉しさ半分、焦り半分……、微妙な心境を抱いた。

 これで志藤の猛勉強は確定である。太一と四六時中一緒に居たいのなら、そうせざるを得ない。

(なんでたいちゃん、そんな頭いいんだよ)

 遂にはそこに八つ当たりだ。
 太一の隣に並び続けることの難しさを、志藤はまたも痛感したのであった。

 一方、世間はエッグバトルにフィーバーしていた。
 子供から大人まで、男女問わずその行く末を見守っていたが、なんといってもANNADOLを目指す少年達が増加の一途を辿っていた。
 少女達だけでなく、同じように少年達もエッグバトルに心を踊らせていたのだ。

 “かっこいい”

 たったその一つの魅力で構わない。なんならそれがすべてなのだ。
 だが、面白いのは支持層が極端に分かれたことだった。

 少女達の人気を一身に受けたのは及川透真だ。また、猫居鈴音や菊池章太なども支持を受け、王子様タイプが人気を博した。
 しかし、少年達からの支持を得たのは、雪村涼を筆頭に、黒野影虎、佐久間大介、天道雅明など、少し悪めのワイルドなタイプが人気を集めた。

 その傍ら、大人からの支持を集めたのは、太一や志藤、二ノ宮や小形など、純朴なタイプに人気が偏った。しかし、同時に及川と雪村への支持も厚く、事務所の顔であるこの二人はやはりエッグバトルにおいても強かったというわけだ。

 少年達が切磋琢磨し汗水流して頑張る姿は、少年少女達に希望と期待を、そして大人達に純粋な興奮と感動を与えていた。

 視聴率は右肩上がりで、エッグバトルを知らない日本人はいないと思われるほどの人気と注目を集める。ANNADOLという言葉が年末の流行語大賞にノミネートするほどになったその人気は、第一回目の決戦を間近に控えると、限定グッズが飛ぶように売れた。

 第一回バトルが終われば二組がデビューを逃すことになり最悪解散、ということになり得るのだ。

 二度と見られないかもしれない。

 そう考えてしまうと、グループで写っているブロマイドはもちろん、メンバーが集合しているグッズや、グループ名のロゴが入った限定グッズなどは
完売必須のごとくバカ売れした。

 注目は高まるばかり。そして、その注目を維持したまま……遂にその時はやって来た。
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