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予選突破に巡る想い

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 ピンクのヘッドマイクを口元に合わせ、四人は円陣を組むように向かい合った。背中に「O」を背負った太一の後ろ姿は客席を向いている。

 天井カメラから始まった映像に、テレビの前のファンは胸を高鳴らせた。

「MOMOは死なない」

 ヘッドマイクを顎まで下げている雪村の声は三人だけに向けられる。その言葉の持つ意味を、メンバーはしっかり受け止め、こくりと深く頷いた。

 チッチッチとイヤモニからカウントが聞こえ、志藤が手を出すと、一ノ瀬がその上に手を重ね、更に雪村がその上に手を置いた。

 そこに右足をかけ、太一は一ノ瀬と志藤の肩に手を載せる。
 そして流れ始めた前奏とタイミングを合わせ、太一はメンバーに支えられながら、美しい宙返りを決めた。
 地響きさえ感じるほどの歓声が湧き上がり、着地早々太一は背後の盛り上がりに吃驚した。

 改めて感じる。雪村と志藤の人気の高さは、伊達ではなかったということを。そして舞台上で聞く歓声がどれだけ体に重く響き渡るのかということを。

『Come on !!  Party tonight !!』

 雪村のアドリブに、志藤が更に畳み掛ける。

『We are MOMO !! Say !! “MOMO”!!』 

 この連携を、太一も一ノ瀬も知っている。
 ずっと二人の背中を見てきたから、嫌というほど知っている。そしてその隣で肩を並べられることの奇跡を改めて凄いと感じた。

 客席からは「MOMO!」というレスポンスが返ってくる。

 その声を……歓声を、体中で噛みしめる。

 Monday Monsterは、雪村と志藤がいてこそなんだと痛烈に実感し、そしてそれがなんて恵まれ、素晴らしく得なんだと思った。体勢を整え直し、横一列になると、コール&レスポンスは終わりダンスが始まった。

 “ペースを崩すな”

 耳にタコが出来るほど言われた。馬鹿ほどやり直しさせられた。雪村の求めるダンスのシンクロ率はかなり高い。だが照準を高くしておかなければ勝ちにはいけない。自分ひとりで踊るなと、どれだけどやされただろうか。メンバーのミスに瞬時に合わせられるくらい周りを見て踊ってみろと。

 だがもちろん、それは簡単なことではない。キョロキョロ頭を動かすわけにはいかないし、客席を見て、カメラも意識して、歌詞を間違わないように、振りを合わせなければいけないのだ。

 簡単に出来ることでない。だが、やらなければ勝てない。勝ちに行くというのは、妥協してはいけないということだ。どうしても勝たなければいけない理由が四人には出来てしまったのだから。

 衝撃の宣告を受け、最後の追い込みへの集中力はきっとどのグルーより高かっただろう。

 絶対に負けられないのだ、どうしても。

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