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飛行機雲

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 野瀬の応援は他とは違う。生半可なものじゃない。もちろん、当人たちも生半可な気持ちでやってきたわけではないが、メンバーと同じ熱を持って応援してくるファンは、今の所野瀬くらいしかいなかったのだ。

 野瀬とてMOMOを応援していることに変わりはないが、メンバーは一様に思う。“野瀬はMOMOじゃなく、太一を失いたくない”のだと。

 それはメンバー的に言わせれば、野瀬は自分と同じ思いでいるのだということ。MOMOももちろん大事だ。だけどそれ以上に太一を失いたくないという思いは、メンバー全員が抱いている思いだった。

 この客席にたった一人でも自分と同じくらい必死な思いの人間がいる。それは辛くて苦しくて、半端じゃないプレッシャー。
 だけど、野瀬の思いが理解できるからこそ、メンバーは奮起出来るのだ。力の限りを出し尽くせたのだ。最高の仕上がりで、最高のパフォーマンスを披露できた。
 あとはそれがどれだけ視聴者の心を動かせたのか、ということだけ。

 CMが明け、いよいよ最後の投票結果が発表される。

 ステージ上のメンバー。会場を埋め尽くす何万人ものファン。そしてテレビの前の視聴者。
 このエッグバトルの行く末を見守る国民全員が、固唾を飲んでその時を待つ。

 両手を合わせて祈る者。息を吸い込んだまますっかり吐き出すのを忘れている者。応援しているグループの名前を念仏のごとく唱えている者。


 そして────。


「頼む……っ!」

 当人達が何よりも誰よりも強く、貪欲に一位だけを望んでいた。

 鳴り響くドラムロール。心臓を急かし立てるようなその音は、正直全然いい気はしないけど、それでもこの音が鳴り止むことが怖いと思った。

 良い結果ならそれでいい。だけどもしも名前が呼ばれなかったら……。

 ぎゅっと目を閉じ、両手を合わせ、祈る想いで名前を呼ばれるのを待つ。
 だけど……、鳴り止んだドラムロールの後に、MOMOの名前は呼ばれなかった。



『一位! Mellowォォォ !!』



 巨大スクリーンに映し出された視聴者投票の結果と、総合ランキングの順位。

 太一は……、MOMOは、Mellowに敗北した。

 BLACK CATを挟んだ向こう側では、三人の王子が抱き合って喜び、会場からは黄色い歓声が耳を劈くように上げられていた。



 負けた。

 負けてしまった。



 膝から崩れ落ち、涙が……溢れる。

 太一がようやく見つけた自分の居場所。その場所は、崩れかけた崖の上だったらしい。
 危なっかしいその場所は、今まさにガラガラと音を立てて崩れ……、木っ端微塵に砕け散る。
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