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真実

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「いいか、てめぇの ”まぁまぁ” なんて言葉は必要ねぇんだよ! そうやって守った後輩が、この先どんだけ成長すんだ!? お前はトップナインとして、後輩にその背中ちゃんと見せてやれよ!」

 何が起こったのか、内海には計り知れなかった。だけど雪村の言葉も、追い出された志藤にも、この特別な事態全てが衝撃で、日常になりつつあった1日にとんでもないスパイスが振りかけられた。

「うゎ……やっば」

 しかも怒られているのは、あの大嫌いな志藤歩だ。可笑しくて可笑しくて嬉しくて、綻んでしまう口元を必死に隠して、内海は自動販売機の影に身を隠した。
 そしてバタン!!とやかましく締められたドアの音。
 その後に聞こえた志藤の静かな声に、内海は固唾を飲んだ。

「俺が守らなきゃ……、誰が守ってやんだよ……っ! 誰がお前の尻拭いしやってると思ってんだ……っ!」

 ゾクゾクするほど、面白かった。 
 ダッと駆け出した志藤は内海のすぐ近くを走り抜け、劇場のステージへと向かう。それを咄嗟に追いかけ、内海はステージサイドの段幕に隠れた。
 スタッフの置き忘れている鉛筆を手にした志藤は、ステージに一人立ち、しばらく動かなかったけど、突然思い出したように膝をつくと、そのまま何のためらいもなくステージに鉛筆を突き立てた。その衝撃で鉛筆は真っ二つに折れ、その片割れがコロコロと内海の足元に転がってきた。

 無言で何度も鉛筆を叩きつけ、何度目かでようやくその腕を振り上げなくなった志藤は、静かに立ち上がり、反対側のステージサイドへと姿を消した。

 転がってきた鉛筆を拾い上げ、内海は高鳴る心臓の鼓動に動揺を隠せなかった。

 アイドルじゃない……、あんなの。とてもアイドルだなんて言えない。そんな志藤歩を見てしまったから、全てがおかしくなってしまったのだ。

 きっと、誰も知らない。こんな志藤のことを。

 恐怖ではない「興奮」で震える足を進ませ、ステージへ。志藤が付けたキズ跡を探す。叩きつけられた鉛筆のキズは深くて、生々しくて……、そしてとても──。

 とても人間らしくて、美しかった。 

 大嫌いだった。すごく嫌いだった。それなのに、気が付けば大好きになっていた。

 見かけるたびにドキドキして、佐久間や雪村には感じることのない胸の高鳴りを抑えきれなくなった。これが本当の興味であり、究極の興味だと知った。


 そう……、それは恋という「興味」。


 他人に興味がなかったわけじゃない。人間観察はきっと人より好きだ。だけど、誰かに特別な感情を持って見つめ続けることなんてなかった。人を好きになるなんてこと、経験したことなかったのだ。 

 先輩。だけど同い年。

 ずっと見ていたい、だけど曜日が違う。

 好き、だけど──。

 だけど彼は手が届かないほどの人気を誇り、雪村や佐久間と同じトップナインとして名を馳せている。おまけに、事務所のトップ2と言われている雪村と及川透真に次ぐ、トップ3の位置づけだ。

 それが、内海玲の初恋の相手。


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