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真実

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 エッグバトルが始まるという情報を誰よりも早く知った内海は、社長へ一言添えた。

「じゃあ、死に物狂いで頑張りますよ。頑張れる "場所" が増えることを祈って」

 不敵に怪しく微笑む社長は、そのあと何も言わなかったが、その3日後には、エッグ全員のマネージメントをしている木嶋から仕事のオファーが入った。

「……チョロ」

(ニヤニヤ笑ってた社長だが、結局は俺のバックには逆らえないということか)

 馬鹿馬鹿しくて笑えた。こんなに簡単なことなら頑張らなくてもすぐに志藤の隣に立てる気がした。

 七月。木曜生の劇場公演終了後、内海はシャワーを浴びて着替えると、楽屋を出て、さっきまで立っていたステージへと向かった。荒んだ気持ちはそんな簡単には修復できなくて、ポケットの中の割れた鉛筆をいじりながらステージまで来た。しかしそこにはすでに先客が居た。

 客席を呆然と見つめ、ステージの中央に立つ、佐久間大介。

 また出会ってしまった。
 それが、内海の率直な感想だった。

 さっさと帰ってくれないかと思いながらステージ袖で待っていたが、呆然と立ち尽くしている佐久間を見ていると、何故か……少し自分のこのどうしようもない苛立ちや虚しさが薄れていく感覚を味わった。

 本当は、志藤の付けた鉛筆の傷で、この気持ちを落ち着かせるつもりだった。けど、佐久間の憂いを秘めたこの横顔に、苦しんでいるのは自分だけじゃないのだと思えた。

 佐久間の悩みがなんなのか、そんなことは考えてもわからない。
 だけど一人になって、静かに、ゆっくりと、悩んで考えて苦しんで、答えを見つける。自分と同じように、此処に、そうしようとしている人間がいる。

 それが、内海には泣きたいほど貴重な存在だと思えたのだ。
 気付けばステージに上がり、佐久間の隣に並んでいた。

 ふと佐久間が内海を見下ろしたが、暫くしてその視線はまた客席へと戻った。

 「なんだ」とも「どっか行け」とも言われなかった。ただ静かに、二人は並んで客席を見つめた。

 疎まれないことに疑問も抱いたけど、それ以上に隣にいることを許されたんだと思うと、少し嬉しかった。
 内海は自分の足元に視線を落とし、ちょうどそこが傷のある場所だと知ると、自然と膝を折り、そこに座り込んだ。指先でステージの傷をなぞって、その凹凸を感じ取る。


 傷だらけだ。


 そのざらつた感覚は、自分の心にそっくりで、きっと隣にいる佐久間もそうなんだろうと思った。
 静かに傷跡を撫でていると、頭上から静かな声が降ってきた。

「何してるんだ?」

 見上げると、瞳だけこちらに向けている佐久間と目が合う。

「……考え事です」

 簡潔な返事は、佐久間の好みだったのかもしれない。

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