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第2章~怠惰な召喚術師と夢見る少女~
第22話:召喚術師はデートに行く
しおりを挟む「自分で行くんだな」
朝、出掛ける準備をしているとシェイプスターが愉しげに笑った。
「まあ獅子田さんにあれだけ喜ばれたら……ねえ?」
普段心配ばかりかけているから安心させるには丁度良いイベントに思えたのだ。
『この電車は事故のため遅れています。 お忙しいところ――』
「やっと着いた」
待ち合わせに一時間遅れて駅に着いた僕は、朝よりもやる気を失いつつ惰性で目的地へ向かった。
僕は鳥羽と連絡先を交換していないため、彼女には何も連絡できていない。 さすがに帰っているだろうが、ここまで来たからと念のためだ。
万が一、待ちぼうけている可能性もある。
「あ」
鳥羽は待っていた。
うだるような暑さの中、通りゆく人を忙しなく眺めながら。 こんなことになるなら変に嫌がらないで、連絡先を交換しておくべきだったと僕は後悔した。
「お待たせ」
「あ……お、遅いよーっ! 来ないかと思ったじゃん!」
「ごめん」
鳥羽は安心したようで、泣きそうな複雑な表情を浮かべて震えた声で言った。
「これは本当に申し訳ない」
「もう化粧とか服とかめちゃくちゃだよ、全く……」
彼女が来ているシャツは遠目に見ても水をかぶったと思えるほど汗にまみれていた。
「ならとりあえず涼しいところへ――」
今日の予定は特に決めていないので、喫茶店など丁度良いだろうと考える僕をよそに彼女はにやりと笑った。
「提案があります」
「プールに行きましょう」
〇
「あ~生き返る~」
プールに浮き輪で揺れながら、鳥羽は風呂に入ったおっさんのような声を出した。
「こんなところにプールがあるなんて知らなかったよ」
「最近できたんだって。 駅ビルの屋上から都会を眺めながらバカンス気分、なんてカオス過ぎるよね~。 ありがたいけどさ~」
ここは先ほどいた駅の上にある屋外プールだ。
プールの端からは都会が一望出来て眺めはかなりいい。
来るまでは憂鬱だったが、俺はなんだかんだ楽しんでいたーー
ーーするとその時突如、警報が鳴り響いた。
『移送中のモンスターが逃げ出しました。 周囲の住民は屋内に避難し、戦闘員は戦闘準備を整えてください。 繰り返します』
のんびりした空気が一変して緊迫感を帯びた。
水着姿の利用客は我さきにと出口へと向かう。
「鳥羽さん!」
「……」
窓の外を注視して動かない鳥羽の手を引こうとしたその時「来る」と彼女は呟いた。
「何が」
――来るんだ。
そう言いかけた僕の目にも遠くに存在する黒い点が見えた。
それはだんだんと大きくなって、
――ばりんっ
飛んできた勢いそのままに、それは窓ガラスを破壊しながらプールに突っ込んだ。
水しぶきがあがり、晴れたそこにはモンスターがいた。
「これは……」
「ワイバーン、B級指定」
G級は武器があれば子供でも討伐可能。
F級は武器があれば非戦闘員の大人でも討伐可能
E級は訓練されていればスキル無しでも討伐可能
D級は一般人では討伐不可。 有用なスキルと戦闘技術のある戦闘員が複数で対処すべき。
そしてB級は個人での討伐不可。 一体で小さな街を破壊するリトルハザード級。
「逃げよう鳥羽さん! 何してるの?!」
「もう遅いよ」
「何言ってんだよ!? じゃあこのまま死ぬの?」
鳥羽の手は恐怖で震えていた。
「空亡くんは逃げて」
「鳥羽さんも一緒に!」
「私は行かないよ……私はこの子と友達になる」
「はあ?」
こんなタイミングでこいつは何を言っているのか。 心の底から呆れ声が出た。
「ここでこの子を手に入れられれば私は冒険者になれるから」
「君はどうしてそこまでして冒険者になりたいんだ……?」
純粋な疑問だった。
だって普通に考えて可笑しいだろう。 いくら冒険者になりたくても、それは命を賭けてまでなりたいものなのか。
死んだら名誉も金も手に入らない。 すべて終わりなのだ。
――狂ってる
そう思った。
しかし鳥羽は狂気なんて微塵もない、純粋な笑みを浮かべて言った。
「大事なものを取り返しに行かなきゃいけないから」
「それに」
「約束だからねっ!」
彼女はそう言って僕に背を向けモンスターへと向かっていく。
「意味が分からない」
「バカだろ」
僕は彼女がモンスターと対峙する後ろ姿を見つめて、独り言ちた。
あんな馬鹿に僕が付き合う必要はないし、今すぐ見捨ててにげるべきだ。
頭ではそう考えているのに――
「なんでだよ、僕」
――体はその場から動こうとしない。
早くなっていく心臓の鼓動は、焦りでも、恐怖でもない――高鳴っていた。
なんでこんなに胸が熱くなるのか。
僕は自分が分からない。
それはきっと失った記憶がのせいだ。
僕の知らない僕が戦えと、そう言っている気がした。
「来い」
体から魔力が漏れ出て、空気がぴきぴきと冷たい音を立てる
彼女がワイバーンに惨殺される姿を想起した。
僕は彼女のことを好きでも嫌いでもないはずなのに、その未来を想像しただけで心が絞られるような気分になるのはなぜなのか。
ただ今はごちゃごちゃ考えている暇もなし。
自分から戦いに出むことは絶対にない。
ただ、かかる火の粉を払うことに躊躇はいらないはずだ。
(久しぶりだな)
シェイプスターやサキュバスのような非戦闘系の魔物ではなく、僕は召喚するのはバリバリの戦闘系だ。
それはところによっては神様として祀られ、畏れられ、生贄を捧げられていた、そんな怪物――その名は、
「ククルカン」
ククルカンは大蛇の魔物だ。
その魔物の能力は幻惑と支配。
「小細工はいらない。 喰え」
しかし僕の無尽蔵の魔力を注がれたククルカンは単純な物理攻撃ですら、B級モンスターごとき瞬殺できる。
――ばくり
僕の体にじゃれつくように巻き付いていた大蛇は、命令に従ってワイバーンに飛びつき、そのアギトを開く――瞬間、顔周りだけ膨張しワイバーンを丸呑みした。
――ごっくん
「大丈夫?」
脅威は去った。
立ち竦む鳥羽さんの肩を叩くと反応がない。
彼女の顔を覗き込むと、白目を剥いて気絶しているようだった。
「どうすんだよ、これ……」
――しゅるる
蛇に巻き付かれながら僕はどうしたらいいか分からず深いため息を吐いたのであった。
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