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第2章~怠惰な召喚術師と夢見る少女~
第23話:召喚術師は不思議な店に行く
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――ピ……ピ……ピ
「ここは」
少女、鳥羽玉藻は目を覚ましてぼんやりした頭を巡らせ、そして我に返った。
「空亡くん?!」
「おはよう。 悪夢でも見てたのかよ?」
椅子に座って開いていた本を閉じた木霊は、伸びをしてナースコールを押した。
「私は生きてる……空亡くんは」
「あいつも無事だよ。 何がどうなったのかは大体予想つくけど……とりあえず」
木霊は小さく息を吐いて、鳥羽の肩をさすった。
「お前、あんま無茶すんなよ」
「うん」
「死んだら全部終わりなんだから……」
「分かってる……ごめん」
慌ててやってきた医者たちと入れ替わるように木霊は気にするなと言うように、後ろ手を振って部屋を出ていくのであった。
「だけどその無茶のおかげで停滞は崩れたかもな」
木霊は友人――空亡、鳥羽玉藻と三人で映った写真を眺めながら、呟くのだった。
***
「昨日は大変だったみたいだな、お疲れさん」
次の日、学校へ行くと木霊がからかうような笑みを浮かべて肩を組んできた。
「別に」
「おいおい、美少女を危機から救うなんてヒロイックしといて謙遜すんなよ。 このこの」
「やめろって、ただの成り行きだから……というか何で知ってる?」
「そりゃ見舞いに行ってきたからさ」
「いつの間に連絡先交換してたんだ……」
木霊は不思議そうに首を傾げた。
「こないだの勉強会の時にな。 むしろ出かける約束してたのに交換していないお前に驚くわ。 どんだけ嫌いなんだよ」
「交換したら二十四時間勧誘され放題じゃん」
「確かに……それは躊躇するな」
友達というわけでもあるまいし、改めて連絡先を交換する必要はないだろう。
「まあ今日は安静にしてるけど、すぐに退院するみたいだぞ。 不要かもしれねえけど、一応報告な」
「うん、ありがとう」
「ところでよ……今日ちょっと付き合ってくんない?」
「どこに――」
「――というわけでやって参りました!」
放課後、木霊に連れられてやって来たのは街の商店街の路地裏に佇む『廃魔道具のゴミ屋』と看板の掲げられた怪しげな店だった。
「ゴミなんか買ってどうするんだよ……」
「ゴミって言っても上手くバラせば再利用できる素材もあんの!」
優しい鈴の音を鳴らし、店内へ入る。
外観と違って、中は古風な日本家屋といった感じだ。 土間があり、奥の畳で痩せぎすの老婆が煙管でタバコをふかしていた。
「おばちゃん、久しぶり!」
「またあんたかい。 冷やかしなら帰りな」
木霊の様子から親しいのかと思いきや全く歓迎されていないらしく、老婆は犬を追っ払うように手を振った。
「ん? 横の子は……?」
「友達!」
「初めまして……」
「名前も名乗らずに失礼なクソガキ……一昔前ならそう言ってやるところだが、こんな世の中じゃそれが正しいんだろうね。 お前さん、見たところ付き合わされてるんだろ? ご苦労なこった」
現代の接客とは思えぬ憮然《ぶぜん》とした態度に、僕は居心地が悪くなった。 この店はきっと老婆の道楽経営のようなものなのだろう。
店内は薄汚い感じはしないが、壁の棚に商品と思われるガラクタが乱雑に並べられている。
「(うわ、意外とたっか)」
「ゴミのくせに高い、ぼったくりだ……そう思っただろ?」
「あ、いや」
「隠さなくて良い。 確かにこれらは間違いなくスクラップだからね。 だけどこんなものでも物好きなバカが買ってくれるのさ……ひひ」
夢中で商品を漁る木霊に視線を向けて、老婆は悪い笑みを浮かべた。
「ところで」
さっきからずっと気になっていた。
老婆の後ろの襖が僅かに開かれ、少女がこちらを覗いている。
「お孫さんか何かですか?」
「は?! この子は――」
――がらり
襖が開き、背の小さい瞼が半分閉じた無気力そうな少女が姿を現す。
止めようとする老婆の手を猫のようにすり抜けて、彼女はとたとたとこちらに寄ってきた。
「あなたは人間?」
「えっと、どういう意味……?」
「だってあなたの魔力、まるで太陽みたい」
すると彼女はそう言いながら僕にピトっとくっついてきた。
「ああ、あったかいにゃ」
「にゃ?」
痛い語尾が聞き間違いかと、彼女を見下ろすと頭頂部が盛り上がり、ぴょこっと二つの耳が飛び出てきた。
「こりゃ!」
老婆は煙管で少女を小突いて、僕から引き離すと彼女の耳を慌てて手で隠してこちらを睨んだ。
「……あんた見たかい?」
老婆の脅しのような問いに、僕は必死に首を横に振る。
「にゃあ」
しかし彼女の着ているワンピースの裾から細長い尻尾が出てきて、もう僕たちは顔を見合わせた。
老婆はため息を吐き、両手を地面に付いた。
「今見たことは全て忘れてくれるかい? 頼むよ」
「いいっすよ! ただ何があったのか教えてくれるなら!」
木霊が好奇心からか興味深々と言った様子で割って入ってきた。
彼の視線は少女の尻尾と耳を熱心に見つめている。
(木霊……節操なさすぎる)
どう見ても下心しか感じない木霊と戸惑う僕に、老婆は諦めた様子で語り始めた。
世界が変わったせいで愛を失った不幸な少女と、生きる意味を見つけた老婆の話を。
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