怠惰な召喚術師は最強を飼っている~ファンタジー化した現代で膨大な魔力と召喚スキルを与えられた少年の生きる道~

すー

文字の大きさ
23 / 29
第2章~怠惰な召喚術師と夢見る少女~

第23話:召喚術師は不思議な店に行く

しおりを挟む






***


――ピ……ピ……ピ

「ここは」

 少女、鳥羽玉藻は目を覚ましてぼんやりした頭を巡らせ、そして我に返った。

「空亡くん?!」
「おはよう。 悪夢でも見てたのかよ?」

 椅子に座って開いていた本を閉じた木霊は、伸びをしてナースコールを押した。

「私は生きてる……空亡くんは」
「あいつも無事だよ。 何がどうなったのかは大体予想つくけど……とりあえず」

 木霊は小さく息を吐いて、鳥羽の肩をさすった。

「お前、あんま無茶すんなよ」
「うん」
「死んだら全部終わりなんだから……」
「分かってる……ごめん」

 慌ててやってきた医者たちと入れ替わるように木霊は気にするなと言うように、後ろ手を振って部屋を出ていくのであった。

「だけどその無茶のおかげで停滞は崩れたかもな」

 木霊は友人――空亡、鳥羽玉藻と三人で映った写真を眺めながら、呟くのだった。


***


「昨日は大変だったみたいだな、お疲れさん」

 次の日、学校へ行くと木霊がからかうような笑みを浮かべて肩を組んできた。

「別に」
「おいおい、美少女を危機から救うなんてヒロイックしといて謙遜すんなよ。 このこの」
「やめろって、ただの成り行きだから……というか何で知ってる?」
「そりゃ見舞いに行ってきたからさ」
「いつの間に連絡先交換してたんだ……」

 木霊は不思議そうに首を傾げた。

「こないだの勉強会の時にな。 むしろ出かける約束してたのに交換していないお前に驚くわ。 どんだけ嫌いなんだよ」
「交換したら二十四時間勧誘され放題じゃん」
「確かに……それは躊躇するな」

 友達というわけでもあるまいし、改めて連絡先を交換する必要はないだろう。

「まあ今日は安静にしてるけど、すぐに退院するみたいだぞ。 不要かもしれねえけど、一応報告な」
「うん、ありがとう」
「ところでよ……今日ちょっと付き合ってくんない?」
「どこに――」




「――というわけでやって参りました!」

 放課後、木霊に連れられてやって来たのは街の商店街の路地裏に佇む『廃魔道具のゴミ屋』と看板の掲げられた怪しげな店だった。

「ゴミなんか買ってどうするんだよ……」
「ゴミって言っても上手くバラせば再利用できる素材もあんの!」

 優しい鈴の音を鳴らし、店内へ入る。
 外観と違って、中は古風な日本家屋といった感じだ。 土間があり、奥の畳で痩せぎすの老婆が煙管でタバコをふかしていた。

「おばちゃん、久しぶり!」
「またあんたかい。 冷やかしなら帰りな」

 木霊の様子から親しいのかと思いきや全く歓迎されていないらしく、老婆は犬を追っ払うように手を振った。

「ん? 横の子は……?」
「友達!」
「初めまして……」
「名前も名乗らずに失礼なクソガキ……一昔前ならそう言ってやるところだが、こんな世の中じゃそれが正しいんだろうね。 お前さん、見たところ付き合わされてるんだろ? ご苦労なこった」

 現代の接客とは思えぬ憮然《ぶぜん》とした態度に、僕は居心地が悪くなった。 この店はきっと老婆の道楽経営のようなものなのだろう。

 店内は薄汚い感じはしないが、壁の棚に商品と思われるガラクタが乱雑に並べられている。

「(うわ、意外とたっか)」
「ゴミのくせに高い、ぼったくりだ……そう思っただろ?」
「あ、いや」
「隠さなくて良い。 確かにこれらは間違いなくスクラップだからね。 だけどこんなものでも物好きなバカが買ってくれるのさ……ひひ」

 夢中で商品を漁る木霊に視線を向けて、老婆は悪い笑みを浮かべた。

「ところで」

 さっきからずっと気になっていた。

 老婆の後ろの襖が僅かに開かれ、少女がこちらを覗いている。

「お孫さんか何かですか?」
「は?! この子は――」

――がらり

 襖が開き、背の小さい瞼が半分閉じた無気力そうな少女が姿を現す。
 止めようとする老婆の手を猫のようにすり抜けて、彼女はとたとたとこちらに寄ってきた。

「あなたは人間?」
「えっと、どういう意味……?」
「だってあなたの魔力、まるで太陽みたい」

 すると彼女はそう言いながら僕にピトっとくっついてきた。

「ああ、あったかいにゃ」
「にゃ?」

 痛い語尾が聞き間違いかと、彼女を見下ろすと頭頂部が盛り上がり、ぴょこっと二つの耳が飛び出てきた。

「こりゃ!」

 老婆は煙管で少女を小突いて、僕から引き離すと彼女の耳を慌てて手で隠してこちらを睨んだ。

「……あんた見たかい?」

 老婆の脅しのような問いに、僕は必死に首を横に振る。

「にゃあ」

 しかし彼女の着ているワンピースの裾から細長い尻尾が出てきて、もう僕たちは顔を見合わせた。

 老婆はため息を吐き、両手を地面に付いた。

「今見たことは全て忘れてくれるかい? 頼むよ」
「いいっすよ! ただ何があったのか教えてくれるなら!」

 木霊が好奇心からか興味深々と言った様子で割って入ってきた。

 彼の視線は少女の尻尾と耳を熱心に見つめている。

(木霊……節操なさすぎる)

 どう見ても下心しか感じない木霊と戸惑う僕に、老婆は諦めた様子で語り始めた。

 世界が変わったせいで愛を失った不幸な少女と、生きる意味を見つけた老婆の話を。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

処理中です...